コラム

みんなで防ぐ熱中症

みんなで防ぐ熱中症

地球温暖化に伴い、熱中症の発生も年ごとに増え続けています。2024年5月から9月の間に熱中症で救急搬送された方は全国で97578名と過去最高でした。その中で3週間以上入院した方は2178名、死亡した方は120名、年齢別では65歳以上が最も多く57.4%でしたが、18-64歳未満も33.0%と全体の三分の一を占めており熱中症が決して高齢者だけの問題ではないことが明らかになっています。また、発生場所は住居が38.0%、道路が19.0%であり、屋外だけでなく屋内でも熱中症の対策が不可欠です。

さらに、職場での熱中症も年々増えており2024年は過去最多で1257名が発症し、31名の方が亡くなっています。死亡された方の殆どに初期症状の放置や対応の遅れが認められており、職場でも熱中症対策をしっかり行うことが重要と考えられます。本年6月に労働安全衛生規則が改定され企業において熱中症対策を行うことが義務化されましたが、これにより熱中症の初期症状の早期発見や重症化防止が促されることが期待されます。

さて、熱中症は体温の上昇と熱調整機能のバランスが崩れ体内に熱が溜まってしまった状態です。発症には、環境、身体、行動の三つの因子が重なって起こると考えられています。環境因子としては気温が高い、湿度が高い、気流(風)が弱いなどがあります。身体因子としては乳幼児、高齢者、そして肥満や糖尿病などの基礎疾患があること、睡眠不足、過労、体調不良などで暑い環境に十分に対応が出来ない健康状態などがあります。行動因子としては、長時間の屋外作業、激しい筋肉運動、慣れない運動、水分補給が出来ない状況などがあります。

予防の基本は暑さと湿度を避けること、水分や塩分を補給すること、風通し(通気)を良くすること、体調管理を行うことです。屋内はエアコンで温度と湿度を管理するとともに、扇風機やサーキュレーターで風通しを良くすることが重要です。屋外では日傘や帽子を使うこと、通気性の良い衣服を着ること、冷却グッズを使用すること、日陰や地下街を選んで歩くことも効果的です。なお、熱中症の危険が非常に高く“熱中症アラート”が出ている時は不要不急の外出は控えましょう。夏場は大量の汗をかきますので、喉が渇いていなくてもこまめな水分摂取が必要です。外出する1-2時間前から300-500mlの水分を1時間かけてゆっくり飲むようにしましょう。また、マイボトルなどを持参して外出中も水分摂取を怠らないことが必要です。なお、屋外作業や運動を行う場合は、スポーツドリンク、イオンウォーター、塩飴などで水分とともに塩分も補給する必要があります。

熱中症は急速に進行して重症化します。めまい、立ち眩み、気分不快、ぼーっとする感じ、手足のしびれ、筋肉痛やこむら返りなどの症状が出た時は、速やかに涼しい場所に移り安静にして、衣服を緩め、水や氷をかける、うちわで仰ぐことなどで熱を逃がすこと、そして水分を飲むことが必要です。しかし、自分で水分が飲めない、意識がない、症状が悪化している場合はためらわずに救急要請することです。なお、急変の危険性があるため熱中症の人を決して一人にはしないように注意しましょう。

個人も企業も正しい知識と情報を持って熱中症を防いでいきましょう。

産業医 佐藤 潤一