同友会メディカルニュース

2021年5月号
低脂血症について

血液中の脂質の濃度が基準範囲内にない状態を脂質異常症といいます。基準値より高い場合は“高脂血症”、低い場合は“低脂血症”といいます。高脂血症は、LDLコレステロール(以下LDL-C)140mg/dL以上、トリグリセライド(以下TG)150mg/dL以上、Non-HDLコレステロール170mg/dL以上があり、動脈硬化の原因として重要で、健康診断などでよく耳にすると思います。一方、低脂血症は、総コレステロール(以下TC)120mg/dL未満、LDL-C70mg/dL未満(低LDL-C血症)、TG30mg/dL未満(低TG血症)、HDLコレステロール(以下HDL-C)40mg/dL未満(低HDL-C血症)があります。今回のテーマは低脂血症についてです。

低脂血症は、他の疾患の続発性(二次性)低脂血症を示す場合と原発性低脂血症に分けられます。原発性低脂血症は、遺伝子の変化が原因となって発症する遺伝病です。
過去に測定した測定値が正常または高値であることがあれば続発性低脂血症です。血液検査で脂質低値があった場合、続発性低脂血症の要因がない場合は原発性低脂血症を疑います。

A.低LDLコレステロール血症(低LDL-C血症)

続発性低LDL-C血症を示す可能性がある疾患は、肝硬変など重症肝疾患、バセドウ病など甲状腺機能亢進症、アジソン病など副腎不全、吸収不良、栄養不良、がんなど悪性腫瘍、慢性感染症、慢性炎症性疾患、Gaucher病、薬剤(ニコチン酸誘導体)です。

以上の多くの疾患で低LDL-C血症を示す可能性がありますが、原疾患がある程度進行した状態であり、それに伴う症状や検査異常がある場合がほとんどです。体調不良や症状がなく、極端なダイエット・偏食もなくLDL-Cが低値の場合は原発性低LDL-C血症が疑われます。
原発性低LDL-C血症を示す疾患は、無βリポ蛋白血症、家族性低βリポ蛋白血症、カイロミクロン停滞病、Smith-Lemli-Opitz症候群がありますが、家族性低βリポ蛋白血症以外は本邦では非常に稀で、発育障害や奇形の合併などを伴い、乳幼児期に発症します。成人で症状がなく、健康診断でたまたまLDL-C低値が指摘される場合は、ほとんど家族性低βリポ蛋白血症です。

家族性低βリポ蛋白血症は、常染色体優性遺伝で、通常LDL-Cは80mg/dL未満です。両親のどちらかに低LDL-C血症があるヘテロ接合体の方は500〜1000人に1人と高頻度です。APOB, PCSK9, ANGPLT3という3種類の原因遺伝子が知られています。基本的には無症状ですが、過半数を占めるAPOB遺伝子の変異の場合には脂肪肝を伴うことがあります。PCSK9の変異のある方は90%近く冠動脈疾患発症リスクが低下する(心筋梗塞を起こしにくくなる)場合があるようです。

健康診断でLDL-C低値が指摘され、両親どちらかあるいは兄弟に低LDL-Cの方がいた場合は家族性低βリポ蛋白血症で、脂肪肝がなければ特に治療も不要です。高度の脂肪肝がある場合は、肥満の是正や脂肪の摂取制限が必要な場合があります。

健康診断でLDL-C低値が指摘され外来受診された場合は、まずは続発性低LDL-C血症の原因となる疾病の可能性がないか、該当がなければ原発性低LDL-C血症を疑って近縁の血縁の方にLDL-C低値の方がいないか、腹部超音波で脂肪肝の有無、肝機能障害がないかを確認します。

B.低TG血症

3大栄養素の一つである脂質は、動物の体内脂肪や食品中の油脂、植物油に含まれ、その80-90%を中性脂肪が占めています。中性脂肪は1〜3個の脂肪酸がエステル結合したもので、血液中では90%以上が脂肪酸の3つ結合したトリグリセライド=TGです。TGは食事の影響を最も受けやすい脂質で、低TG血症はまず栄養障害や吸収不良を考えます。続発性のことが多く、甲状腺機能亢進症、肝硬変ではコレステロールと共にTGの低下が起こります。低TG血症に対しては、原疾患の治療を行い、TGを上げるための治療は不要です。最近外来で低糖質ダイエットを行なっている方にTG低値の方をお見かけします。糖質制限により体のエネルギーが足りなくなるとTGをエネルギー源として消費するため低TGとなります。元来TGは体のエネルギー源として重要なものです。過度なダイエットにはご注意ください。

C.低HDLコレステロール血症(低HDL-C血症)

コレステロールは細胞の構成やホルモン、胆汁酸の原材料としてヒトの体には必須のものです。体内のコレステロール総量は約150gで、一日に必要なコレステロールは、1.0-1.5gです。その内食事として摂取されるコレステロールは30%で、70%は肝臓で合成されています。肝臓で合成されたコレステロールはVLDLというコレステロールを運搬するリポ蛋白という形にして肝臓から分泌され、VLDLは段階的に代謝してLDLというリポ蛋白になります。LDLは全身の組織にコレステロールを運搬していきます。過剰なコレステロールは血管壁に沈着して動脈硬化の原因となります。一方リポ蛋白のHDLは小腸や肝臓で作られ、全身の余剰なコレステロールの回収を行なっています。HDLが回収したコレステロールは肝臓で回収、再利用されます。したがってHDLが低下すると全身で余ったコレステロールが回収できなくなり、動脈硬化の原因となります。HDL-Cの低下は狭心症・心筋梗塞などの冠動脈疾患、脳梗塞の発症のリスクを高めることがわかっています。(LDL-C、HDL-Cは、中性脂肪やコレステロールを運搬するリポ蛋白であるLDL, HDLに含まれるコレステロールを測定した値です。)

低HDL-C血症には、遺伝性のものとしてTanigier病、LCAT欠損症、魚眼病、アポ蛋白A-Ⅰ欠損症、アポ蛋白A-Ⅰ/C-Ⅲ欠損症、アポ蛋白A-Ⅰ/C-Ⅲ/A-Ⅳ欠損症、家族性低HDL-C血症がありますが、非常に稀で、続発性低HDL-C血症がほとんどです。

続発性低HDL-C血症の原因は、喫煙、肥満、食事、運動不足などの生活習慣によるものが主です。その他としては2型糖尿病、慢性腎不全、Gaucher病、薬剤(蛋白同化ステロイド、β遮断薬、利尿剤、プロブコール)があります。食事ではトランス脂肪酸の摂取を控えることが、高LDL-C血症にも有効です。トランス脂肪酸の代表はマーガリン。植物油の高温長時間調理やマイクロ波加熱(電子レンジ加熱)でもトランス脂肪酸が増加します。
また有酸素運動がHDL-Cを増加させます。中等度(通常の速さのウォーキング相当)を一日合計30分以上、週3回以上が目標です。また筋肉量が低下している高齢者の方では、レジスタンス運動の併用も勧められています。高LDL-C血症や高TG血症に対しての内服薬が低HDL-C血症もわずかに改善させる効果もありますが、低HDL-C血症の改善が主目的の内服薬はありません。

今回は低脂血症という視点からまとめてみました。高脂血症は動脈硬化のリスクファクターであることは広く知られていると思います。低脂血症を指摘されて放置していませんか。続発性低脂血症として隠れた疾患の発見端緒になったりする場合もあります。低脂血症が指摘された方は一度医療機関に受診してご相談ください。

健診結果を注意深く見ている男性

参考文献

  • 日本動脈硬化学会. 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版. 東京2017.
  • 日本動脈硬化学会 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常治療ガイド2013年版改訂版. 東京2017
  • 日本動脈硬化学会 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常治療ガイド2018年版. 東京2018

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