同友会メディカルニュース

2018年9月号
前立腺がんのPSA検診について

1.前立腺の役割

前立腺とはどのような臓器なのでしょうか。前立腺は男性のみにあり、膀胱の下で尿道を取り囲むように存在している、くるみ程度の大きさの臓器です(図1)。射精時に精子を保護する成分を含んだ液を分泌する臓器で、生殖器の一つとして重要な役割を果たしています。

[図1]

前立腺の解剖

前立腺の解剖。前立腺は膀胱の下にあり、中心に尿道が通っている。(参考文献3より引用)

2.前立腺がんの症状と発生頻度

前立腺の構造は内側にある内腺とそれを取り囲む外腺に分けられます。内腺が大きくなったものが前立腺肥大症であり、がんはほとんどが外腺から発生します(図2)。前立腺肥大症からがんになりやすいということはありません。

[図2]

前立腺の内腺と外腺

前立腺の内腺と外腺。肥大は内腺に、がんは外腺に主にみられる。(参考文献3より引用)

前立腺がんは尿道から離れた外腺に発生することが多いため症状が出にくいといわれていますが、前立腺肥大症と同じような尿道を圧迫することによる症状(尿の出始めに時間がかかる、尿の勢いや切れが悪い、夜中にトイレに何回も起きる等)が出ることもあります。また、進行すれば骨への転移が起こりやすいといわれています。

前立腺がんは60歳を超えたあたりから急激に発生頻度が高まり、その後は加齢とともに増加する傾向がみられます。日本では高齢化とともに前立腺がんの罹患数が急速に増加しており、2013年の男性がんの罹患数で第4位となりました(図3)。罹患数の予測では2015年と2016年では第1位で、今後も増加し続けるものと予測されています(図4)。ただし死亡数に関しては2016年の男性がん中で第6位となっており、罹患数に単純に比例して死亡数の増加がみられないことから、罹患しても比較的死亡原因になりにくいがんであると考えられています。

[図3]

日本人男性の部位別がん罹患数

日本人男性の部位別がん罹患数。前立腺がん罹患数が急激に増加している。(参考文献4より引用)

[図4]

日本人男性の部位別がん将来推計罹患数。

日本人男性の部位別がん将来推計罹患数。5年毎の平均値を算出している。前立腺がんは今後も増加し続けるものと予想されている。(参考文献4より引用)

3.前立腺がんと生活習慣

親や兄弟に前立腺がん患者が一人いると、本人が前立腺がんになる可能性が2.5~5.6倍高くなります。生活習慣では乳製品、カルシウム、脂肪、肉を過剰に摂取すると前立腺がんになりやすいと考えられています。反対にイソフラボン(大豆に多く含まれる)、緑茶、コーヒー、セレニウム(にんにく等に含まれる微量元素)、リコピン(トマトの赤い色素)には前立腺がんの発症を予防する効果があると考えられています。

また、肥満も前立腺がんと関連があるといわれており、BMI( 体重kg÷身長mの2乗、で表す体格指数で、25以上が肥満とされます)が大きいほど、すなわち肥満の程度が高いほど前立腺がんの発症と、がんによる死亡の危険性の両方が高まると考えられています。

喫煙に関しては25本/日以上、あるいは40年以上喫煙歴があると前立腺がんによる死亡の危険性が高まるといわれています。

4.前立腺がんの検査法は?

症状が出にくいといわれる前立腺がんをみつけるために、現在は血液検査でPSA(前立腺特異抗原)という腫瘍マーカー(がん発生に伴い血液中に増加する物質)の濃度を測定し、スクリーニングを行っています。PSAは精液をさらさらにする酵素で、正常の前立腺では腺腔内に分泌されています。がんや炎症などにより前立腺組織が壊れるとPSAが血管の中に漏れ出します(図5)。前立腺がんの患者さんの80~90%に血液中のPSAの増加がみられますが、前立腺肥大症でも20~30%の方に増加がみられます。また、男性型脱毛症治療薬や前立腺肥大症治療薬の一部は男性ホルモン濃度を低下させ、PSAの産生が抑制されるためこれらの薬剤を内服している方の血清PSAは低くなります。このため、これらの薬剤を内服している場合のPSA値の判定については泌尿器科専門医もしくは主治医へご相談していただくことが勧められます。

[図5]

PSAは正常では腺腔にのみ分泌されるが、がんで正常組織が破壊されると血管にPSAが漏出し、血液中のPSA濃度が上昇

PSAは正常では腺腔にのみ分泌されるが、がんで正常組織が破壊されると血管にPSAが漏出し、血液中のPSA濃度が上昇する。(参考文献3より引用)

PSAに異常がみられた場合、経直腸超音波検査や骨盤CT・MRIなどの画像診断検査や、直腸粘膜もしくは会陰部の皮膚に針を刺して前立腺の組織を採取する前立腺生検を行い、がん細胞がみつかれば診断が確定します。

前立腺がんの治療としては手術療法・放射線療法・ホルモン療法などががんの進行程度に応じて選択されます。

PSAの正常値は全年齢で0.0~4.0ng/mLですが、PSAが1.0ng/mL以下の場合は3年毎、1.1ng/mL以上では毎年のPSA検査が日本泌尿器科学会の「前立腺癌診療ガイドライン2016年版」で推奨されています。

5.PSAによる前立腺がん検診の重要性

PSAによる検診を受診していたグループと受診していなかったグループの比較をした欧米の研究データがあります。検診を受けていた方は受診していなかった方と比較して進行前立腺がんの罹患率で49%減少し、死亡率では21%の減少効果がありました。

日本では、一般の住民健診で前立腺がん検診は83.0%の市町村で行われており、そのうち98.9%の自治体でPSA検査のみによる単独検診が行われています。PSA検査の受診機会は徐々に増えているものの、現在発見される前立腺がんの10%前後は診断時に骨への転移を伴っており、まだPSA検診の普及が十分ではないと考えられています。多くの市区町村ではPSA検診は50歳からを対象としていますが、「前立腺癌診療ガイドライン2016年版」では40-49歳の年齢層でも人間ドック等を契機にしたPSA検査を行うように推奨しています。

前立腺がんは進行すれば局所で他の重要臓器に浸潤し血尿や排尿障害をきたしたり、骨などに転移がおこれば転移病巣の骨の強い痛みがおこります。

前述のようにPSAによる前立腺がん検診は、その死亡率を低下させることがすでに欧米の研究で判明しています。前立腺がんによる死亡を避け、健康を維持するためにも、ぜひPSA検査を受けるようにしましょう。

同友会からのご案内

参考文献:

  • 前立腺癌診療ガイドライン 2016年版 日本泌尿器学会編 メディカルレビュー社
  • 前立腺がん検診ガイドライン 2018年版 日本泌尿器学会編 メディカルレビュー社
  • 1. インフォームドコンセントのための図説シリーズ 前立腺がん 改訂版 Q&Aで理解を深める基礎と臨床 吉田 修監修 大園誠一郎、荒井陽一編 医薬ジャーナル社
  • 国立がん研究センター がん情報サービス「がん登録・統計」2017年版
  • 平成28年度 科学研究費補助金基盤研究(B)(一般)日本人におけるがんの原因・寄与度:最新推計と将来予測. 国立がん研究センター がん情報サービス「がん登録・統計」
  • 公益財団法人 がん研究振興財団. がんの統計‘15
  • 公益財団法人 がん研究振興財団. がんの統計‘16
  • 国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」.地域がん登録全国推計によるがん罹患データ(1975~2013年)
  • 国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」.人口動態統計によるがん死亡データ(1958~2016年)
  • 前立腺がん検診 市町村別実施状況 2015年6月調査 公益財団法人前立腺研究財団:2016

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