同友会メディカルニュース

2018年11月号
尿路結石と生活習慣による予防法

尿路結石とは

腎臓で濾過された尿は、尿管を通過し膀胱へ溜められ、尿道を通って排泄されます。この腎臓~膀胱~尿道の間にできる結石を、尿路結石と言います。小さな結石が腎臓にできても無症状な場合がほとんどですが、これが腎臓から流れ出て途中で詰まってしまうと、わき腹~下腹部などの激しい痛み、嘔吐、血尿などの症状が出現することになります。

尿路結石の原因や発生頻度

結石存在部位:

上部尿路結石(腎結石、尿管結石)、下部尿路結石(膀胱結石、尿道結石)に分けられ、上部尿路結石が主で、全体の約96%を占めます。男女比は 2.4 : 1で、男性優位の疾患です。

アテ

罹患率:

日本での尿路結石症の全国疫学調査は1965年に初めて行われ、その後10年毎に実施されており、2005年の調査では、上部尿路結石の年間罹患率(1年間の尿路結石に罹患した人の割合)は人口10万人対134人で、1995年の調査と比べると約1.6倍に増加しています。

生涯罹患率(年間罹患率×平均寿命×100)は男性が15.1%、女性は6.8%であり、男性は7人に1人が、女性は15人に1人が、一生に一度は尿路結石に罹患することになります。日本では男性は40歳代、女性は50歳代の罹患率が最も高いです。

当院の2016年度の腹部超音波検査受診者の方では、(90,327人:男性56,108人/女性34,219人)において、腎石灰化:5.72%(男性 7.08%/女性 4.97%)、腎結石:2.18%(男性 3.075%/女性 1.21%)という割合でした。

結石成分:

カルシウム結石(シュウ酸カルシウム、リン酸カルシウム、両者の混合)、尿酸結石、感染結石、シスチン結石などの種類があり、上部尿路結石では男女共にカルシウム結石の割合が90%以上を占めます。

尿路結石の治療

激痛や血尿を来たす尿路結石ですが、10mm以下の小さな結石はその約2/3が、症状発現後4週間以内に自然排石されます。水分摂取と、結石排出を促進する薬を処方されることが多いです。痛みに対しては鎮痛剤で対処します。

そして、大きさが10mm以上で自然排石が難しい結石や、10mm以下でも1か月以上自然排石されない尿管結石については、腎機能障害や感染症を併発しないよう、積極的な結石除去治療の介入をしていくことになります。今回は予防法がメインのため詳しくは触れずにおきますが、ESWL(体外衝撃波破砕術)、TUL(経尿道的結石破砕術)、PNL(経皮的結石破砕術)などの治療法があります。

尿路結石の患者さんの特徴

尿路結石が5年以内に再発する確率は約45%と言われており、食事療法による予防が重要となります。近年、尿路結石の罹患率や再発率は上昇傾向にありますが、この最大の原因は、生活習慣・食生活の欧米化によると考えられています。

結石患者さんの特徴として、

  1. 肥満傾向
  2. 運動不足
  3. 総タンパク質・動物性タンパク質・脂肪の摂取過多
  4. カルシウムや牛乳摂取頻度の低下
  5. 野菜・海藻類の摂取頻度低下
  6. 甘味飲料・清涼飲料水の摂取頻度が高い
  7. 夕食中心の食生活(特に動物性タンパク質の摂取)
  8. 夕食から就寝までの時間が短い

が挙げられており、罹患および再発予防のために、改善していくことが大切です。
具体的にはどのように気をつけていけばよいでしょうか。

罹患・再発予防に向けて

 十分な水分を摂る

水分をあまりとらない慢性的に脱水の状態では、尿が濃縮されて尿路結石ができやすくなります。食事以外に1日2L以上の水分補給をし、1日尿量を2L以上とすることで、結石再発リスクを61%に減少できるという報告もあります。

とくに夏場の暑い時期や、入浴・運動後、夕食後の水分補給が大切です。

 カルシウムを摂る
以前は、カルシウム結石の予防にはカルシウムを多量に摂らない方がいいと考えられていましたがその後の研究で、結石患者さん達の方が、結石のない人達に比べて、摂取しているカルシウム量が有意に少ないということが報告されました。カルシウムは腸管内でシュウ酸と結合してこれを便に排出させ、シュウ酸の吸収を抑制し、尿中シュウ酸排泄量を減らします。現在では、適量のカルシウム摂取(日本では1日600-800mg)を行うことが、再発予防になると考えられています。
 クエン酸を摂る
クエン酸は、シュウ酸とカルシウム、リン酸とカルシウムが結合するのを抑制するため、カルシウム結石の予防に有効です。また尿中Phを上昇させ酸性尿を是正することから、尿酸結石、シスチン結石の予防にも有用です。果物や野菜に多く含まれますが、摂り過ぎはシュウ酸を多く摂ることにもなりかねないのでそこは注意が必要です。
 塩分や糖分を摂り過ぎない

塩分制限をすることで、尿中カルシウム排泄量が減少する効果があると報告されています。また、塩分を過量摂取すると、尿中クエン酸排泄量が減少してしまうという報告もあります。

糖分の摂り過ぎもまた、尿中のカルシウム排泄量が増加するとされています。

 シュウ酸を摂り過ぎない
尿中に排泄されるシュウ酸は、カルシウム結石の最も重要な危険因子であり、この約70%は食事由来とされています。予防のためにはシュウ酸を多く含む食品の過剰摂取を控えることが大事です。ホウレンソウを筆頭に、キャベツ、ブロッコリー、タケノコ、意外なところではバナナ、玉露・抹茶・煎茶などのお茶、ココア、チョコレート、コーヒー、紅茶などです。これらの摂取量に気をつけ、摂り方の工夫をすることが重要になります。シュウ酸は水溶性なので、ゆでて調理をしたり、カルシウムと一緒に摂取することで吸収を抑えることができます。ホウレンソウのおひたしにちりめんじゃこを加えたり、コーヒー・紅茶・ココアには牛乳を加える、という具合です。また、野菜類は毎日食べるものは少ないかもしれませんが、コーヒー、紅茶、お茶は毎日飲む人が多く、注意が必要です。同じお茶の中でも麦茶やほうじ茶はシュウ酸含有量が少ないです。
 プリン体の多く含まれる食品や飲料を摂り過ぎない

プリン体は体内で代謝されて尿酸となり、過剰に摂取すると高尿酸血症や酸性尿を引き起こします。食品100gあたりプリン体が200㎎以上含まれるものを高プリン食といい、主に、肉類(レバーなど動物の内臓)、魚介類、干物などが挙げられます。これらを摂取しすぎないように、1日あたりプリン体の摂取量が400mgを超えないようにするのが望ましいとされています。

また、アルコール飲料は、特にビールにプリン体が多く含まれますが、プリン体の有無にかかわらずアルコール自体の代謝に関連して血清尿酸値を上昇させるので、種類を問わず過剰な摂取は慎むべきです。血清尿酸値への影響を最低限に保つ目安量は、1日あたり日本酒1合、ビール500ml、ウイスキー60ml程度とされています。

またワインは酸性食品ではなく、カルシウムやマグネシウム、カリウムが多く含まれており、ワイン摂取が結石発生を減少させたとする海外の報告もあるので、脱水にならないように気を付けて摂取すればよいかもしれません。

 動物性の脂肪、タンパク質を摂り過ぎない

動物性脂肪を多く摂ると、腸内の脂肪酸が増えてカルシウムと結合するため、シュウ酸がカルシウムと結合できなくなり、このシュウ酸が吸収されて尿中へ排出され、結石ができやすくなります。

また、動物性タンパク質が多いと、尿中尿酸が多くなり、結石ができやすくなります。

 夕食を食べすぎない、寝る前に食事をしない

1日の必要栄養素の半分近くを夕食で摂取する夕食中心の食生活は、就寝後の尿中への結石形成促進物質(カルシウム、シュウ酸、尿酸など)の過剰排泄につながります。

また就寝中は水分が補給されないため、尿が濃縮されます。食後2-4時間でこの尿中結石形成促進物質の濃度がピークになるため、できれば夕食は、寝る4時間前までに済ませるのが理想的です。

人間ドックや健診の腹部超音波検査等で、腎結石や腎石灰化を指摘された方は少なくないと思いますが、くわしい食事指導を受けたことのある方はあまり多くないのではないかと思います。尿路結石を予防するために、規則正しくバランスの良い食生活と、十分な水分摂取を、そして血液・尿検査、超音波検査などでの定期的なメディカルチェックをお勧め致します。

参考文献

  • 尿路結石症診療ガイドライン 第2版 2013年度版 日本泌尿器科学会 日本泌尿器内視鏡学会 日本尿路結石症学会 編  金原出版株式会社
  • 日本痛風・核酸代謝学会ガイドライン改訂委員会編. 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(第2版) メディカルレビュー社
  • 今日の治療指針 2018  医学書院
  • 泌尿器要 2004, 50(8): 577-581 尿路結石と飲水および飲料物について  宮澤克人;鈴木幸治

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