同友会メディカルニュース

2023年11月号
脂肪肝は万病の元

1.はじめに

これまでに腹部超音波検査等で脂肪肝を指摘されたことがある方も多いのではないでしょうか。日本人の脂肪肝はこの半世紀で大幅に増加しました。特に男性では数倍以上増加し、現在では4割程度の方が脂肪肝を有されています。日本人は白人に比して脂肪肝になりやすく、生活様式の変化に伴い急激に増加したものと思われます。さらに体重が多い方はもちろんのこと、体重が多くない(体格指数(BMI)で23未満)方でも脂肪肝を認める事が少なくありません。脂肪肝は肝硬変や肝がんに進行していく場合があるので、注意が必要であることはメディカルニュースでも以前(2011年4月号)に取り上げています。

2.脂肪肝は万病の元

脂肪肝は摂取カロリーの過剰により生じますが、飲酒も大きな原因です。このため、飲酒習慣の有無でアルコール関連脂肪肝と非アルコール性脂肪性肝障害(nonalcoholic fatty liver disease : NAFLD)に大別されてきました。

また脂肪肝は糖尿病や心血管疾患や大腸癌など様々な疾患のリスクを増やすことが広く知られるようになりました。なかでも糖尿病は代表的な疾患と言えるでしょう。

糖尿病の新規発症リスク

図1は飲酒習慣のない日本人を対象とした研究です1)。脂肪肝の有無とBMIが23以上か未満かで区分して糖尿病の新規発症リスクを調べていますが、BMIよりも脂肪肝の有無が強力な因子であることがわかります。

糖尿病の新規発症率

図2も飲酒習慣のない日本人を対象とした研究です2)。研究開始時に脂肪肝があるとその後の糖尿病の新規発症リスクは大幅に増加しますが、追跡期間(約12年)中に脂肪肝を認めなくなると糖尿病発症リスクは大幅に減少することがわかります。

これらは糖尿病の発症を見た研究ですが、糖尿病の方でも肝臓の脂肪蓄積程度によって血糖管理状態は変化する事が多いです。例えば、肝臓の脂肪蓄積と連動しやすいALTやγGT(健康診断でもおなじみの肝酵素)が少し減少すると、血糖管理の指標であるHbA1c値が低下するという現象は日常診療で頻繁に見られます。

さらに脂肪肝に糖尿病やメタボリックシンドロームなどの代謝障害(metabolic dysfunction)を合併していると肝硬変や肝がんに進展しやすいハイリスク脂肪肝になりやすいこともわかってきました。このように脂肪肝と代謝障害は相互に悪化させる関係にあると言えます。そこで、2020年にNAFLDに代わる新しい概念として、代謝障害を合併した脂肪肝を(metabolic dysfunction-associated fatty liver disease : MAFLD)とすることが提唱されました。

3.NAFLDはMASLDに

これまでご説明してきましたように、脂肪肝において代謝障害の有無が重要になってきます。前述のMAFLDでも代謝異常を組み入れ基準にしており、様々な学会等から賛同を得られたものの、NAFLDからの疾患名変更は慎重に検討されてきました。そして今年6月に開催された欧州肝臓学会国際肝臓学会議において、NAFLDからmetabolic dysfunction-associated steatotic liver disease(MASLD)に名称変更する事が発表されました3)。fattyという言葉は非難されていると感じてしまうため、MASLDとするのが適切とされたようです。

4.脂肪肝は改善できます

一般的には腹部超音波検査や腹部CT検査で脂肪肝があるかどうか判断される場合が多いと思われます。健康診断ではこれらの検査は行われないことも多いので、脂肪肝の有無がわからない方も多いと思います。しかし、目安とはなりますが、肝酵素(ALT・γGT)が軽度高値(それぞれ≧31U/L・≧51U/L)になると脂肪肝を有する可能性が高まります。また脂肪肝指数(fatty liver index:FLI)という指数も用いられています。これはBMI・腹囲・中性脂肪・γGTの4項目から算出されます。日本人を対象にした佐賀大学の研究4)では、Cut-off値(基準範囲を区切る値)を30と60に2つ設けると効率よく脂肪肝の有無を判別出来ると報告しています(参考URL 脂肪肝指数チェック | 佐賀大学医学部附属病院 肝疾患センター (saga-u.ac.jp))。また北海道の研究ではFLIのCut-off値は35.1と報告しています5)

今回は脂肪肝の話をしてまいりましたが、実は肝臓の脂肪は内臓脂肪や皮下脂肪などより減らしやすい脂肪です(逆に言えばつきやすいです)。では肝臓の脂肪を減らすにはどうしたら良いでしょうか?まず体重の多い方は摂取カロリーを減らす、飲酒習慣のある方は節酒や禁酒、単純糖質を控える(具体的に言えばジュース類やお菓子等を控える)ことが重要です。具体的な食事内容としては以前にメディカルニュースでも紹介致しました地中海式(2015年9月号)やThe Japan Diet(2022年12月号)を推奨します。かく言う私も2015年度の健康診断で初めて脂肪肝を指摘され、地中海式の食習慣を徹底するようになり、以降は指摘されない状態を維持しています。

参考文献

  • Fukuda T, et al. The impact of non-alcoholic fatty liver disease on incident type 2 diabetes mellitus in non-overweight individuals. Liver Int 2016;36:275
  • Yamazaki H, et al. Independent association between improvement of nonalcoholic fatty liver disease and reduced incidence of type 2 diabetes. Diabetes Care 2015;38:16733
  • Rinella ME, et al. A multi-society delphi consensus statement on new fatty liver disease nomenclature. Hepatology 2023 Jun 24. doi: 10.1097
  • Murayama K, et al. Prediction of nonalcoholic fatty liver disease using noninvasive and non-imaging procedures in japanese health checkup examinees. Diagnostics 2021;11:132
  • Takahashi S, et al. Prediction and validation of nonalcoholic fatty liver disease by fatty liver index in a Japanese population. Endocr J 2022;69:463

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