同友会メディカルニュース

2015年5月号
~胃の寄生虫、『アニサキス』について~

鯖寿司を食べた後から胃痛を起こして病院に搬送される話はどこかで聞いたことがあると思います。海産物を生食する習慣のある日本では昔から多くみられます。今回は寄生虫のアニサキスの話です。

1.アニサキスの生活環

アニサキスは、本来海産哺乳類(クジラやイルカ)の消化管の中に生息する線虫です。海水中で卵が孵化し、オキアミ(第1中間宿主)に食べられて 第3期幼虫となります。これを海産魚(サバなど)やイカ(第2中間宿主)が食べると第3期幼虫のままですが、海産哺乳類(終宿主)が食べると、体内で成虫となります。人間がカツオ、イワシ、サンマ、ホッケ、スルメイカなど(第2中間宿主)を生で食べると、ヒトの体内は アニキサスにとっては好適ではないことから、アニサキスの方もビックリ!するのでしょう。成虫にはならず消化管の粘膜(胃壁や腸壁)に刺入し(もぐりこみ)、その結果はげしい腹痛をおこすアニサキス症を起こすのです。(図1)

図1

2.アニサキス症をおこす食品

鯖寿司、きすし、しめサバなどをたべた2~8時間後に胃痛が起こることが多いです。ひどいときは悪心嘔吐、吐下血、蕁麻疹やアナフィラキシーがおこることもあります。たとえ1匹でも感染してしまいます。酢でしめてもアニサキスは死滅せず、冷凍や加熱で死滅します。70°C以上では瞬時に死滅し、-20°C以下で24時間以上冷凍すると感染性を失います。しかし酸には抵抗性があり、シメサバのように一般的な料理で使う食酢での処理、塩漬け、醤油やわさびを付けても死ぬことはありません。アニサキス症の患者さんは、新鮮な生魚を食べたから起こったともいえます。

国内のアニサキス症の原因食品は、サバ類が最も多く、これ以外では西日本や関東では、イワシ類、カツオ類等、東北から北海道では、サケ類、イカ類、サンマなどが報告されています。太平洋側を産地とするマサバにおいては内臓から筋肉への移行率が高く、保存温度が上がることで、より筋肉部に移行しやすいことがわかっています。日本の地域によって、アニサキス症で救急外来へ受診する患者の原因食品に特色があります。

3.実はアレルギーも関与している!?

アレルギーが症状に関与しているということが最近わかるようになりました。症状の強さで激症型と軽症(緩和)型に分けられます。過去に感染して感作されている人は再感染で強い即時型過敏反応を起こして劇症型となります。初感染の場合は異物反応にとどまるため軽症で経過することが多いです。しかし再感染でも無症状であった例も報告されているように、ヒトと寄生虫との関係で全例が症状を呈するとは 限らないようです。

つまり、初めてのアニサキス摂取では無症状でも、2回目以降から過敏反応を起こす可能性があるということです。症状を起こさない人もいますが、一度アニサキス症として過敏反応を起こしている人は、次もアニサキス摂取で症状を起こしうるのです!気を付けてください。
また、サバアレルギーと言われている人は実は魚自体ではなくアニサキス幼虫のアレルギーの可能性も近年指摘されています。

4.内視鏡的摘出

日本では1960年代よりアニサキスの報告がありますが、1970年代以降には内視鏡検査の普及とともに、予想外に多数の症例が発生していることが明らかにされるようになりました。現在のところ、本幼虫に対して効果的な駆虫薬はありません。

病歴よりアニサキス症を考え、内視鏡検査をします。胃内に約2cm長でやや太めのタコ糸くらいの太さの白色の虫体(図2)を発見すれば生検鉗子という器具で摘出し治療は終了です。虫体は胃壁に刺入し周辺の胃粘膜は発赤し腫れていることがほとんどです。摘出時鉗子で引っぱるのに抵抗することもありますが、ちぎれたりすることはありません。当クリニックでも内視鏡検査で年間数例ほどのアニサキスがみつかり摘出しています。ほとんどの場合は軽症もしくは無症状です。

90%以上は胃アニサキス症で内視鏡で摘出できますが、0.5~0.9%程度に腸アニサキス症があります。原因食品の摂取後、数日して痛み出した場合は一度胃に入り、小腸や大腸に移動した可能性があります。腸アニサキス症は腸壁の浮腫から腸閉塞をきたし開腹手術になることがあります。腸閉塞症状がなければ、対症療法を行いながら幼虫が死亡、吸収されることによって症状が緩和するのを待つしかありません。通常、感染から数週間で自然に消化管内から消失します。

また、腸管外アニサキス症(腹腔や肺など)は偶然みつかるもので現在までいくつか報告されていますが非常に稀です。

図2

参考文献:

  • Yasunaga ほか:Clinical Features of Bowel Anisakiasis in Japan、Am. J. Tropical Medicine and Hygine; 83(1): 104-105(2010)
  • 食中毒予防必携第3版、日本食品衛生協会(2013)
  • FDA、Bad Bug Book: Anisakis simplex and related worms (2013)
  • 上村清ほか:寄生虫学テキスト、文光堂
  • アニサキス症とアレルギー、大阪府立公衆衛生研究所、公衛研ニュースNo.52(2014.3)

同友会メディカルニュース / 医療と健康(老友新聞)

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