同友会メディカルニュース

2022年8月号
歯周病と全身疾患 治療から予防へ

成人の歯の本数は28~32本で、健康的な食生活を維持する(自分の歯で硬いものが食べられる)ために、80歳でも自分の歯を20本以上保つこと「8020運動」が推奨されています。20本以上の歯を保っている人の割合は、80~84歳で51.2%(2016年)、80歳以上でも31.8%(2019年)と改善傾向ですが、高齢者人口自体が増加しており、80歳以上の25%は依然残存歯0本です。歯科先進国といわれるスウェーデンでは、成人に歯科健診が義務づけられ、「8020」の達成率は8割以上となっています。

大人が歯を失う2大原因は、歯周病(42%)とう歯(むし歯 32%)で、年齢とともに歯周病の割合が高くなり、55歳以上では歯周病がう歯の約2倍となり、喪失歯数も増加します。歯科医療費は年間3兆円を超え、循環器系疾患(約6兆円)、がん(約4兆7千億円)に次いで3位で医療費全体の約6.8%を占めており、65歳未満では、これらの疾患を抑えて最も高くなっています。また、残存歯数が多いほど、寿命が長く、認知症や転倒リスクが低くなるとの報告もあり、長寿国日本では、歯も含めた健康寿命の延伸が課題となっています。

歯周病とは

口の中にはおよそ400~700種類の細菌が住んでいます。歯みがきが不十分だと、食べ物のカスに細菌が繁殖し塊となった歯垢(プラーク)やプラークが石灰化して固くなった歯石が歯の表面や歯と歯肉の境目に付着します。このプラークには1mgあたり1億個もの細菌が含まれ、細菌が産生する毒素によって、歯肉に炎症が起き、歯と歯肉の間にすきま(歯周ポケット)ができてきます。さらには歯を支える歯槽骨が溶けてグラグラになり歯を失うことになる病気が歯周病です(図1)。20歳以上では過半数の人に、歯肉に何らかの所見が認められます。高齢者では、残存歯数の増加に伴い歯周病患者が増加した可能性がありますが、2005年から2016年にかけ40代以下でも深い歯周ポケット保有者の割合が増えています(図2)。

〔図1〕 健康な歯と歯周病の歯

アテ

〔図2-1〕 歯肉に所見のある人の割合

アテ

〔図2-2〕 4mm以上の歯周ポケット保有者の割合

アテ

歯周病の検査

歯肉の状態の評価、プローブという針状の器具を使って歯周ポケットの深さ(2mm以内が健康)を調べるプロービング検査、歯を支える歯槽骨の状態を調べるX線(レントゲン)検査、染色液を使って歯周病の原因となるプラークの付着状況を調べる検査などがあります。初期段階の歯周病では自覚症状がほとんどないので、これらの検査により正確な診断を行います。

歯周病の治療

1.歯みがき指導

歯みがきは歯周病治療の基本です。良い歯ブラシの選び方・持ち方・毛先の当て方・動かし方・力の入れ方や歯間清掃の指導、歯の汚れを赤く染め出して、磨き残しをチェックすることもあります。

2.歯石除去

周波数の異なる超音波スケーラー・エアスケーラーという器具を用いて歯石を破壊し水で洗い流したり、ハンドスケーラーで1本1本確認しながら丁寧に歯石を取り除きます。

3.歯周外科

麻酔をして、歯の周囲にある深いポケットや歯石を除去する、でこぼこした歯槽骨の形を整える、歯を磨きやすいように歯肉や粘膜の形を変える、増殖した歯肉を切除するなどの手術があります。歯槽骨や歯肉を増やす治療(歯周組織再生療法、一部健康保険適応)もあります。

4.PMTC (Professional Mechanical Tooth Cleaning)

歯周病は再発しやすい病気なので、治療後も定期的なメインテナンスが必要です。歯科医院で、専用の機器とフッ化物入り研磨剤を使用して、普段の歯みがきでは落とせない歯石や磨き残したプラークを中心に全ての歯面の清掃と研磨を行い、歯周病やう歯になりにくい環境を整えます。

その他、状態に応じて、不適合な修復物のやり直し、咬み合わせの調整、抗生物質投与や抜歯、禁煙指導や糖尿病などの全身疾患の治療指導も行います。

歯周病と全身疾患

1980年代後半から歯周病と動脈硬化性心血管疾患、糖尿病、妊娠合併症をはじめとした全身疾患との関連が指摘され、現在では呼吸器疾患、慢性腎臓病、関節リウマチ、認知症、肥満やメタボリック症候群、がんに至るまで様々な疾患との関連が報告されています(図3)。歯周病により早期低体重児出産リスクが7倍以上になることから、母親教室では歯科教育が行われており、3ヶ月の歯周病治療で血糖コントロールが改善するとの報告から糖尿病連携手帳には歯科の検査結果の記載ページがあり歯科受診が指導されています。

また、COVID-19の死亡や重症化リスクを高める要因として、口腔内細菌(歯周病菌など)も関係するとの報告や、正しいブラッシングや舌磨きを行うと、高齢者のインフルエンザ発症率が10分の1に減ったという報告もあります。

〔図3〕 歯肉病と全身疾患の関係

アテ

歯科検診

今回、政府が6月7日に発表した「経済財政運営と改革の基本方針2022 」、いわゆる「骨太の方針」に、「国民皆歯科健診の具体的な検討」が明記されました。現在、健康増進法に基づく歯周疾患検診が、72.4%の自治体で40、50,60,70歳を対象に実施されていますが、その受診率は約5%にとどまっています。

自動車部品メーカーのデンソーの健康保険組合の調査では、歯周病にかかっている人では、そうでない人よりも、医療費が22,072円(医科治療費1万5,800円、歯科治療費6,772円)高いと報告されています。このうち多くの人が糖尿病治療を受け、60歳以上では医療費の差は約3万円にまで拡大しています。定期的な歯科健診を実施していた事業所では、医療費が5年間で最大23%も減少したのに対し、実施しなかった事業所では24%増加していたという結果も得られています。

口腔ケアによる病気の改善や重症化予防の実現、医療費の抑制効果が期待されており、今後、会社の定期健康診断に歯科健診を取り入れることや、唾液を採取する簡易キットを配布し、歯周病検査をするなどの案が検討されています。

予防医学の一つの取り組みとして、歯科検診での早期発見、正しいブラッシングなどのセルフケア、定期的なPMTCを上手に組み合わせた歯周病対策が注目されています。COVID-19の影響で歯科受診を控えていた方もいらっしゃるかもしれません。歯科医院の感染対策は現在徹底されていますので、自治体の歯科検診やかかりつけの歯科医院を受診してみてください。

参考文献・サイト

  • 特定非営利活動法人 日本臨床歯周病学会
    https://www.jacp.net/perio/about/
  • 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイトe-ヘルスネット
    https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth-summaries/h-03
  • 厚生労働省 令和元(2019)年度 国民医療費の概況
  • 厚生労働省 令和元(2019)年度 国民健康・栄養調査報告
  • Winning, L., et al. Periodontitis and systemic disease. BDJ Team 2 2015; 15163.
  • Linden G J, et al. Periodontitis and systemic diseases: a record of discussions of working group 4 of the Joint EFP/AAP Workshop on Periodontitis and Systemic Diseases. J Periodontol 2013; 84: S20–23.
  • Y Munenaga, et al. Improvement of glycated hemoglobin in Japanese subjects with type 2 diabetes by resolution of periodontal inflammation using adjunct topical antibiotics: results from the Hiroshima Study. Diabetes Res Clin Pract 2013; 100: 53-60.
  • Jay Patela, et al. The role of oral bacteria in COVID-19. Lancet Microbe 2020; 1: e105.
  • Abe S,et al. Professional oral care reduces influenza infection in elderly. Arch Gerontol Geriatr 2006; 43:157-64.
  • デンソー健康保険組合 データとエビデンスに基づく実証的保健事業
    https://www.jshss.org/wp-content/uploads/2013/07/AW005_awardee-1_presentation.pdf

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