同友会メディカルニュース

2025年6月号
認知症予防のためには働き盛りの健康管理が重要です(改訂版)

1.はじめに

認知症についてはこれまで何度も取り上げさせて頂いており、私も何回か執筆してまいりました(2017年7月号、2019年10月号)。結論的には2019年10月号のものと同じではありますが、この5年間でエビデンスもさらにそろってきておりますので、改めて改訂版として述べさせて頂きます。

2.修正可能な危険因子14項目

最も評価の高い世界四大医学雑誌の一つにランセットという医学雑誌があります。そのランセット誌の常任委員会から昨年7月に科学的根拠に基づいた認知症予防法が発表されました1)。これはNHKの「きょうの健康」などでも取り上げられましたので、ご存じの方もおられるかもしれません。今回の報告では予防可能な危険因子として14項目があげられました。これらを個々人が改善したり社会的に対策できれば認知症を45%予防できるという内容です(図1)。

図1 認知症予防14のポイント

同委員会では2017年、2020年にも同様の報告をしており、2017年の時は9項目(35%予防可能)、2020年の時は12項目(40%予防可能)でした。今回は前回から「中年期の高LDLコレステロール」と「高齢期の視力喪失」の2項目が加わりました。中でも「中年期の高LDLコレステロール」は全項目中最大の7%です。これはコレステロールが高くない方も含めた全体の値ですので影響度は大きい事がわかります。2019年10月号でも触れました通り、中年期の高コレステロール血症が認知症のリスクである事は知られていましたが、前回の報告では項目追加が見送られました。この5年ほどでコレステロールを下げる治療で将来的な認知症が減少するというエビデンスも十分に揃いましたので採用になったと思われます。エビデンスのもとになる臨床研究は海外のものがほとんどですが、日本人を対象にした研究でもコレステロールを下げる治療で認知症の発症が減少する可能性が示唆されています。例えばLIFE研究2)では、コレステロールを下げる治療薬の代表格であるスタチン系薬剤の処方歴がある場合、認知症発症リスクが30%低く、特に長期に渡って処方されている場合は67%も低かったと報告しています。

3.認知症の予防可能な危険因子として今後追加となりそうな項目

エビデンスは揃いつつあるものの、今回追加が見送られた項目がいくつもあります。代表的なものとしては「睡眠の問題」、「感染症」、「不健康な食習慣」などが挙げられます。

脳は常に沢山の情報にさらされており、情報収集やその処理等で酷使されています。睡眠は脳内の老廃物を掃除したり、脳を整備・修復する時間ですので、睡眠が十分ではない状況では認知症リスクが増加するのは至極当然とも言えます。実際、沢山の臨床研究が報告されていますが、日本人を対象にした研究3)でも睡眠時間が短い(5時間未満)と認知症リスクが2.65倍になると報告しています。

「感染症」に関しては、最近ではCOVID-19と認知機能低下の関連を報告した研究が沢山あります。お読みになっている方の中にもCOVID-19を契機に思考能力や記憶力などが低下したと感じている方もおられるかもしれません(実は私もそうです)。COVID-19以外にも様々な感染症で認知症リスクが増加する可能性が示唆されています4)。

「食習慣」に関しては、以前から地中海食の遵守度が高いと認知症リスクが低下するという報告が数多くあります。一方、エビデンスが十分ではありませんが、日本食の認知症予防効果が示唆される報告が複数あります。例えば、愛知県の高齢者を対象にした研究5)では、伝統的な日本食遵守度が高い(上位1/3)と認知症リスクが低くなると報告しています(図2)。

地中海食と伝統的な和食に減塩などを加味したThe Japan Dietにつきましては、2015年9月号、2022年12月号も参考にして頂ければ幸いです。

図2 日本食スコア(wJDI9)と任仕様発症リスクの関係

4.若い頃からの対策が重要

認知症で最も多いのはアルツハイマー病で、2番目に多いのが脳血管性認知症です。アルツハイマー病は脳神経細胞が変性し死滅する疾患ですが、脳の中にアミロイドβなどの蛋白質が過剰に溜ってしまう事を特徴としています。そしてアルツハイマー型認知症を発症する20年以上前から脳の変化が始まっていることが知られています。このため高齢期になってからの対策も必要ですが、生活習慣や生活習慣病の対策という観点では中年期までの対策が極めて重要です。また脳血管性認知症は動脈硬化との関連が深く、やはり予防のためには高齢期もですが中年期までの対策が重要となります。

以前(2017年7月号、2019年10月号)も申し上げましたが、高齢者における認知症発症率は、21世紀に入ってからは欧米諸国で減少している一方で、日本では急増しています。これは日本人の生活習慣が不健康化したのと高所得国の中では生活習慣病の対応が遅れている事が大きな原因と考えられています6)。実際に日本人を対象にした研究で、高血圧や脂質異常症に対する治療を受ける事で認知症が減少するという報告もあります7)。現在の日本の状況はとても勿体ない事だと思っております。皆様におかれましては、日頃から健康的な生活を心がけて頂くとともに健康診断や人間ドック等で血圧・血糖・血清脂質などの異常が指摘されたら、放置せずに受診されるようにして下さい。

参考文献

  • Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet 2024;404:572
  • Sanyu G, et al. Association of Statin Use with Dementia Risk Among Older Adults in Japan: A Nested Case-Control Study Using the LIFE Study. J Alzheimers Dis 2024;100:987
  • Ohara T, et al. Association Between Daily Sleep Duration and Risk of Dementia and Mortality in a Japanese Community. J Am Geriatr Soc 2018;66:1911
  • Rippee-Brooks MD, et al. Viral Infections, Are They a Trigger and Risk Factor of Alzheimer’s Disease? Pathogens 2024;13:240
  • Zhang S, et. al. Twenty year prospective cohort study of the association between a Japanese dietary pattern and incident dementia: the NILS LSA project. Eur J Nutr 2023;62:1719
  • Prince M, et al. Recent global trends in the prevalence and incidence of dementia, and survival with dementia. Alzheimers Res Ther 2016;8:23
  • Handa N, et al. Associations of coprescribed medications for chronic comorbid conditions in very old adults with clinical dementia: a retrospective cohort study using insurance claims data. BMJ Open 2021;11:e043768

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