2012年3月号
高血圧とは ガイドラインを中心に
はじめに
高血圧は非常に身近な疾患で、本邦での推定患者数は約4000万人とされています。30歳以上の男性47.5%、女性43.8%が罹患しており、しかも高血圧患者のうち30~40歳代では8割以上の人が治療を受けていないことが大きな問題となっています。 非常に身近な病気ですが、そもそも高血圧とはなんでしょう。今回は2009年に発表された高血圧治療ガイドラインを中心にご紹介していきたいと思います。
高血圧の基準
血圧評価には、心臓が収縮した際に発生する収縮期血圧と、心臓が拡張した際に発生する拡張期血圧を用います。表記する際は例えば収縮期血圧120mmHg、拡張期血圧80mmHgなら120/80mmHgと表します。高血圧の数値的な基準としては、診察室で140/90mmHg以上を高血圧と定義しています。さらに140~159/90~99mmHgをⅠ度高血圧、160~179/100~109mmHgをⅡ度高血圧、180/110mmHg以上をⅢ度高血圧と分類し、年齢、糖尿病や脳血管障害の有無などを考慮して降圧目標設定します。
高血圧の種類
高血圧の種類は大きく分けて二種類あります。一つは日本人高血圧患者の90%を占める本態性高血圧、もう一つはホルモン異常などが原因の二次性高血圧です。
本態性高血圧は多くの遺伝子因子に生活環境が複雑に関与しており、明らかな原因が不明です。分かっているのは、食塩摂取量が多いと血圧が上昇するということです。
他の特徴として、本態性高血圧は一日の時間帯によって変動することが知られています。多くは夜間に血圧が低下し、起床時に上昇します。夜間に血圧が低下しない、または上昇するタイプや、起床時の血圧上昇が大きいタイプの本態性高血圧では、脳卒中や心臓血管のトラブルが多いことが分かっています。
一方まれですが、二次性高血圧は様々な原因で発症します。腎臓の機能が低下することによって発症する腎実質性高血圧や、腎臓の血管が詰まって起こる腎血管性高血圧。様々なホルモンの過剰分泌による内分泌性高血圧や、痛み止めや漢方薬による薬剤誘発性高血圧など様々なタイプが存在します。
これらとは別に白衣高血圧という言葉がありますが、これは病院など医療環境で血圧が常に高く、家庭などでは常に正常な状態を言います。一見問題ないようですが、白衣高血圧が9年の追跡で脳卒中発症リスクが高血圧と同等という報告もあり、注意が必要です。
高血圧の危険性
高血圧という言葉は知っていても、それが何の病気の原因になるかはあまり知られていない印象があります。日本人の血圧別に見た脳卒中(脳梗塞や脳出血)発症率は140/90mmHg以上で明らかに上昇することが知られており、収縮期血圧が10mmHg上昇すると、男性では20%、女性では15%の脳卒中罹患・死亡の危険が上がることが分かっています。
また次に心臓病への関与も大きく、狭心症や心筋梗塞は10mmHgの収縮期血圧上昇で男性では15%罹患率が上昇します。他にも大動脈が裂ける大動脈解離や腎臓の機能低下などの原因にもなります。 つまり高血圧は慢性的な圧力障害のため血管の機能障害を引き起こし、血管その物の変性や破壊を来たすのです。
生活習慣の改善
高血圧を治療するにあたり、まず多くの生活習慣を見直す必要があります。
- 1.食生活
- 日本人は食塩摂取量の多い国民で、現在の一日食塩摂取量は12g程度とされています。目標とする食塩摂取量は10g未満ですが、多くの研究が示している降圧効果を得られる食塩摂取量は6gであり、塩分制限は常に心がけなくてはなりません。食塩を控えることと同様にカリウム(K)の摂取も大切です。Kは野菜や果物に多く含まれており、食事の欧米化で摂取が減少しています。塩分制限ほど大きな効果は得られませんが重要であり、野菜の積極的な摂取が大切です。ただし重篤な腎機能障害がある方はKの排泄障害があるため、摂取に関しては慎重に行うべきです。
- 2.運動
- 高血圧の予防には有酸素運動が効果的です。早歩きのウォーキングなど脈がやや速くなる程度の運動が適しており、一日30分以上を目標とします。10分以上の運動であれば、合わせて30分以上としても良いとされています。激しい運動はかえって血圧上昇を来たすため、注意が必要です。
- 3.禁煙
- 一本喫煙すると15分間以上血圧が上昇するとされており、禁煙は必須です。また喫煙自体が心筋梗塞や脳卒中の危険を上昇させるため、高血圧の方は禁煙が非常に大切になることが分かります。
- 4.節酒
- アルコールを飲むと一時的に血圧は低下しますが、その後上昇します。長期にわたる飲酒は高血圧のリスクとなり、またアルコールはやはり脳卒中の危険因子でもあります。一日に飲むのは日本酒1合程度、ビールなら中ビン1本以下にするべきです。
- 5.減量
- 肥満は高血圧の危険因子です。体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)によって体格指数(BMI)を計算し、これが25以上では肥満と考えます。肥満者は4~5kgの減量で明らかな降圧をきたします。非肥満者はその体重を維持することが大切です。
治療
生活習慣の改善でも血圧が正常化しなければ、降圧薬を開始します。降圧薬にはカルシウム拮抗薬、アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、利尿薬、β遮断薬などがあります。どの降圧薬にも特徴があり、病状に合わせて処方されます。単剤の増量をしても目標値まで下がらなければ、薬剤を併用します。最近では2種類の薬を混ぜた合剤もあり飲みやすく、原則1日1回~2回の内服で済むようになっています。
家庭での血圧測定
高血圧を知るうえで医療機関外での数値、特に家庭での血圧を測ることは大変意味があります。家庭血圧測定を行うことは朝の血圧上昇の診断に有用ですし、薬の効果をより細かく評価することが出来るのです。また日々の血圧を知ることで、患者さんが治療に前向きになり治療継続率が上昇するとされています。測定方法は(1)起床後1時間以内、(2)排尿後、(3)朝の服薬前、朝食前、(4)座位1~2分安静後を守って行うようすすめられています。
おわりに
高血圧はあまり自覚症状が出ない方も多く、未治療の方が大変多い疾患です。しかし後に脳卒中や心筋梗塞など、命に係わる大病を起こす危険が高く慎重に考えなくてはなりません。特に脳卒中発症1年後に生活介助が必要な方は29~45%もいる事から、寝たきりの予防としても大切な事です。現状をいつまでも放置するのではなく、生活習慣の改善から開始し、医師とよく相談をしながら付き合っていく事が大切です。
高血圧ガイドライン2009(JSH2009)より
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