同友会メディカルニュース

2011年6月号
肺がんには胸部CTが有効です

肺がんはがんによる死亡原因の第一位で、がん全体の5人に1人は肺がんで亡くなられており、死亡者数は年々増加しています。肺がんも他のがんと同様に、腫瘍が小さく転移がない早期の状態で発見されれば、手術で治癒する可能性が高くなります。しかしながら、肺がんの早期発見率は低く、そのために死亡者数の増加がとまらない状況と言えます。実際に、日本人の罹患が多い胃がんは早期で見つかれば5年生存率は95%程度、胃がん全体における5年生存率は70%です。これに対して肺がんではstageIAと呼ばれる初期段階では5年生存率は70%以上ですが、肺がん全体における5年生存率は15%程度しかありません。

現在一般的に行われている胸部X線を用いた肺がん検診は、厚生労働省のガイドラインでも死亡率減少効果があるとされ、検診やドックでの利用が推奨されています。一方で、胸部X線検査では血管や心臓と重なった腫瘍や小さな腫瘍は見つけることが難しいため、1cm以下のがん発見も可能な胸部CT検査の有効性が指摘されてきていました。

がん検診に有用であることを科学的に証明するためには、その検査を行ったことで死亡率が低下したことを示すことを求められますが、このほどついに胸部CT検査による肺がん死亡率の低下が米国立がん研究所(NCI)より発表されました。The National Lung Screening Trial (NLST) と呼ばれるこの研究では、現在もしくは過去に喫煙していた53,000人が、胸部X線もしくは胸部CT検査を毎年受診する2グループに分類されました。5年間のフォローアップの末に、胸部X線検査のグループでは442人、胸部CTのグループでは354人が肺がんで亡くなり20.3%の死亡率減少効果を認めました。(※1,2 さらに、ニューヨーク州で行われた7,995人のCT肺がん検診結果と、シミュレーションにより予想される肺がんによる死亡率を比較したところ、45.6%の死亡率減少効果を認めたという結果も今年に入って報告されています。(※3 現在同様の臨床研究が世界で行われておりますが、NLSTと同じような結果が出てくることが予想されています。

CT検診を実施するに当たっては被曝のことを心配される方もいらっしゃると思いますが、検診で用いられる放射線量を抑えた低線量CTは通常のCTに比べて約20%の線量で検査を行います。もし被曝による悪影響がでるとすれば、他のがんなどが発生することにより、肺がんと他の病気による死亡を合わせた全体の死亡率が上がるはずですが、今回のNLSTによる結果ではこの全体の死亡率も胸部CT検査のグループで7%減少していました。今後、更に長期間フォローアップした結果も報告されると思われますが、中高年の方がCT検診を年に1回行うことによる悪影響を心配することはないと考えます。ちなみに、ご紹介した臨床研究の対象者は、喫煙者のみならず以前喫煙をしていた方も含まれています。禁煙後は徐々に肺がん発生の危険が減って行きますが、やはりまったく喫煙したことのない人のレベルまでリスクが減ることはないという報告もありますので(※4、やめた後もかならず検査は継続してください。

このように、CTを用いた肺がん検診の有用性が示された中で、どのように実施してゆくかが今後の課題となります。特にコストの面を考えると、一律に実施してゆくことは保険者や市町村も財政的に難しいため、なかなか制度化することも難しいかもしれません。まずは喫煙されている方が、自主的に胸部CT検査を追加していただくことが大切です。

参考文献:

  • http://www.cancer.gov/newscenter/pressreleases/2010/NLSTresultsRelease
  • The National Lung Screening Trial: Overview and study design. Radiology 2011; 258(1):243-253
  • Foy M, et al. Modeling the mortality reduction due to computed tomography screening for lung cancer. Cancer 2011; Jan 10 (Epub)
  • Crispo A, et al. The cumulative risk of lung cancer among current, ex- and never-smokers in European men. Br J Cancer. 2004; 91:1280-6
肺がんの検査に有効な胸部CT検査 -肺がん発見の決め手-
小さな肺がんや心臓・血管に隠れた肺がんは普通のX線では写らないことが多く、CT検査が有用です。
  • 内視鏡センター1

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