2012年9月号
ドライアイのリスクと治療
人間ドック受診をされる方にも、眼精疲労や肩こり・頭痛、長時間VDT(visual display terminals)使用の項目にチェックをつけていらっしゃる方が多いようです。近年、ドライアイのとらえ方の変化により新しい作用機序の点眼薬が処方されるようになりましたので、今回は「ドライアイ」についてお話ししたいと思います。
ドライアイとは、慢性的に涙の分泌量が減少したり、量は十分でも涙の質の低下により、目の表面を潤す力が低下した状態であり、現在、日本の患者数は、800万人以上といわれています(1)。
ドライアイの症状は、目の乾燥感だけでなく、異物感・目の痛み・まぶしさ・目の疲れなど、多彩な目の不快感として感じられます。目を使い続けることによる「実用視力」の低下も起こります。ドライアイ患者では、開眼後、4-8秒で見えにくくなり、60秒後には視力の低下が確認されています(2)。
涙は、眼球の外上側にある涙腺から1分間に約1μL分泌され、瞬きにより目の表面全体に行き渡ります。大部分は、目頭にある「涙点」という小さい穴から鼻へと排出され、一部が目の表面から蒸発します(図1)。涙は、厚さ7μmほどの薄い層ですが、角膜や結膜の細胞に酸素や栄養を届け、温度やpHを保ち、ごみや老廃物を洗い流す重要な働きをしています。そのため、涙の減少=ドライアイでは、目の表面の細胞に傷ができやすくなり、様々な症状の原因となります。
検査としては、ろ紙を下眼瞼の縁にはさんで、涙の量を計測する「シルマー試験」や、涙の安定性を検査する「BUT検査」(Break Up Time:涙液層破砕時間)などにより、涙の質と量の評価が行われます。乾燥による目の表面(角膜や結膜)の傷は、染色液を点眼し、スリットランプと呼ばれる顕微鏡を用いて検査します。
ドライアイの増悪因子は多岐にわたります(表1)。女性は、男性12.5%に対して、21.6%と罹患率が高く、男性ホルモン(アンドロゲン)が低いこと、女性ホルモン(エストロゲン)が高いことがリスクであり、前立腺がんや更年期障害へのホルモン治療で、ドライアイが発症・悪化することが分かっています。VDTは、2時間使用で1.50倍、6時間以上の使用では2時間未満の2.03倍(48.9%)となります(3)。アイメイク(アートメイクや睫毛エクステも含む)や、レーシック手術によるドライアイも施術数に伴い増加しています。糖尿病や、シェーグレン症候群という涙腺・唾液腺に対する自己免疫疾患などの全身疾患が原因となることもあります(4)。
表1 ドライアイのリスクファクター
加齢 |
女性 |
VDT 作業 |
紫外線 |
乾燥 |
喫煙 |
コンタクトレンズ(特にソフトコンタクトレンズ) |
内服薬(降圧剤、精神疾患薬) |
点眼薬(一部の成分、防腐剤) |
アレルギー性結膜炎 |
レーシック手術 |
アイメイク(アイライン、アートメイク、睫毛エクステなど) |
全身疾患(糖尿病、関節リウマチ、シェーグレン症候群など) |
現在、涙は、外側の油の層と内側の角膜を覆う液体の層(水分と不溶性のムチンが結合したゲル構造)の二層構造をとっているとされています。日本では、液層内の水分の減少(分泌低下や蒸発亢進)だけでなく、粘度の高いムチン成分の減少による涙の安定性の低下も、ドライアイに強く関与し、角膜の炎症や障害を引き起こしていると考えられています(4)。
そのため、治療には、従来より用いられてきた人工涙液、ヒアルロン酸製剤などの他、涙液の安定化効果もあるジクアソホソルナトリウムやレバミピドの点眼薬が用いられます。重症例では、自己血清の点眼を行う施設もあります。また、涙点プラグ(直径0.5-1mmの固形プラグや液状のコラーゲン)という涙が鼻へ排泄される出口である涙点に栓をして、眼の表面にとどまる涙の量を増やす治療もあります(図2)。日常生活では、瞬きの回数が減る長時間のVDT作業や運転を控え、コンタクトレンズ装用を減らすこと、目の保湿を図るために、加湿器を使用し、エアコンの設定を変えること、眼を温めること(温めるとマイボーム腺から油分が放出される)も有効です。メガネの周りに覆いがついたドライアイ用の眼鏡も売られています。カフェインやラクトフェリン摂取で涙が増えるとの報告もあります。
ドライアイは、慢性的な目の不快感や疲れを引き起こし、日常生活の質を著しく下げる疾患であり、全身疾患が原因になっていることもあります。点眼薬や保護メガネの種類も増え、涙点プラグの治療は保険適応となっていますが、ドライアイ患者のうち医療機関受診者は、わずか11%程です。症状のある方は、一度眼科で検査を受けてみられるといいでしょう。
参考文献:
- ドライアイ研究会 http://www.dryeye.ne.jp/index.html
- 海道美奈子;あたらしい眼科 29(3):309-14,2012
- 山田昌和;診断と新薬 49(2):169-177,2012
- 横井則彦;あたらしい眼科 29(3):291-297,2012
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