同友会メディカルニュース

2015年4月号
うつ病について

うつ病については、マスメディアを中心に「心の風邪」という表現が広く使われてきました。うつ病が特殊な病気ではなく、ストレス社会では誰でもかかりうる病気であることを理解するには、有効な表現と言えます。しかし、うつ病は風邪と同じように市販の風邪薬を飲めば治るという性質のものではなく、きちんと治療しないと、死に至ることもある病気です。今回はうつ病について解説させていただきます。

1.うつ病の患者数と有病率

厚生労働省の調査によりますと、わが国のうつ病患者の数は1996年に43万人だったものが、2008年には104万人と、12年間で2倍以上に増えました。これはストレス社会の中で患者数が実際に増えていることもありますが、うつ病に関する啓蒙が進み、精神科や心療内科を受診する心理的な抵抗が減ったことも影響していると思われます。

また、わが国の地域住民4134名を対象に、こころの健康状態を調べた研究によりますと、生涯に16人に1人(生涯有病率6.2%)が、過去1年間に50人に1人(12か月有病率2.1%)がうつ病を経験していたと推計されました。この頻度を20歳以上の人口に当てはめて計算しますと、過去1年間のうつ病罹患者数はおよそ210万人となります。また、うつ病を経験した地域住民の医療機関への受診率は、過去1年間で21.6%、生涯でも29.0%と低く、多くのうつ病患者が未治療であることが明らかになりました。

2.うつ病による自殺

近年、年間の自殺者数が3万人前後で推移し、自殺予防対策が進められるなか、自殺の背景として影響の大きいうつ病に対する治療の重要性が高まっています。

わが国における自殺企図者を対象に精神疾患との関連を検討した研究によりますと、何らかの精神疾患を抱えている割合は4分の3にのぼり、その内訳ではうつ病が半数近くを占めることが明らかになりました。

図1

以上の結果から、自殺の背景として、うつ病による影響はきわめて大きいと考えられます。また、うつ病患者では、症状の程度にかかわらず自殺の可能性は常に念頭におかなければなりません。

3.うつ病とはどのような病気か

「うつ病」は病名であり、「うつ状態」とはうつ症状を呈した状態のことを指します。うつ状態はさまざまな病気においてもみられるため、うつ状態がそのまま「うつ病」ではありません。たとえば、家族との死別など健常者が感じる悲哀反応でも「うつ状態」を呈しますが、それだけでは病気ではありません。

うつ病とは、うつ症状の程度(症状により著しい苦痛を伴っている)、持続期間(2週間以上)、生活への支障度(生活機能の障害を引き起こしている)の観点から病的なレベルにあるもので、ほかの病気によらないものです。

4.うつ病の経過

うつ病は、基本的には症状が完全に良くなり、後遺症は残さず、精神機能がうつ病になる前の水準に戻る病気です。しかし、再発しやすく、慢性化することもあります。うつ病からの回復後に、再び症状が出現することを「再発」といいます。1回目、2回目、3回目の再発を経験した患者のその後の再発率は、それぞれ約50%、約70%、約90%と報告されており、再発を繰り返すごとにその後の再発の危険性がさらに高まります。

5.DSM-5におけるうつ病の診断基準

米国精神医学会(American Psychiatric Association ; APA)が作成する精神疾患に関する診断基準であるDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)では、より客観的な診断を可能とするために、主に症状と持続期間を具体的に定めた診断システムが採用されています。DSMの診断基準は、観察可能な症状に基づいてシステマティックに診断できることから「操作的診断基準」と呼ばれます。

2013年5月に刊行されたDSM-5におけるうつ病の診断には、表1に示した診断基準を満たしている必要があります。診断基準では、うつ病を特徴づける「抑うつ気分」または「興味または喜びの喪失」のどちらかが必須項目となっており、それらを含めた9項目のうち5項目以上が該当すれば、うつ病と判断されます。

【表1】DSM-5におけるうつ病の診断基準

A.以下の症状のうち、(1)あるいは(2)を含む5つ以上の症状が同時に2週間以上存在し、社会的・職業的機能の障害を起こしていること

  1. 抑うつ気分
  2. 興味または喜びの喪失
  3. 食欲低下、体重減少(あるいは過食、体重増加)
  4. 不眠(または過眠)
  5. 焦燥または精神運動抑制
  6. 易疲労性
  7. 無価値感または罪責感
  8. 思考力減退または決断困難
  9. 自殺企図

B.症状は身体疾患または薬物の作用によるものではないこと

American Psychiatric Association. DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院,2014より改変

6.「新型うつ」

近年、うつ病の多様性に注目が集まっています。伝統的な従来のうつ病とは異なり、「好きなことをする時だけ元気になる」「自責感に乏しく他罰的」などの症状が特徴的な「新型うつ」という言葉が、マスメディアの影響により、広く社会に知られるようになりました。しかし、「新型うつ」の名称や定義について学術的な検討は十分になされておらず、その対応については混乱がみられています。

日本うつ病学会は、2013年に開催された第10回総会での、「いわゆる『新型うつ病』に対する学会見解を目指して」と題するシンポジウムにおいて、「新型うつ」は医学的知見の明確な裏打ちはないものの、実際に心身の不調で悩んでいる患者は多く、適切な診断が必要であり、企業においては「新型うつ」を排除せず適切な対応を行う必要性を訴えました。

また、「新型うつ」への対応としては、安易に「うつ病」と告知しないことが重要といわれています。うつ病と診断されることで、本人は「自分はうつ病だから仕事ができない」と考え、必要以上に自己愛性格を磨いてしまう場合もあるからです。

「新型うつ」の治療では、社会に適応するための訓練が必要です。したがって、「新型うつ」の患者に対しては、本人の認識や心の持ち方を改善し、社会適応を高めることが治療の軸となります。

7.うつ病の治療

うつ病治療は、「十分な休養」と「適切な薬物療法」が基本となります。うつ病の治療期間は長期におよぶことも多いため、医師と患者との良好な治療関係が不可欠です。

(1) 精神療法

医師と患者との良好な治療関係を構築するために、「小精神療法」が有用といわれています。特に、病気の性質と治療方針について十分に理解することが重要です。

【表2】急性期のうつ病に対する「小精神療法」の7項目(笠原嘉)

  1. うつ病は単なる怠けではなく、病気であることを本人ならびに家族に説明する
  2. 急性期にはできるかぎり休息をとるように指示する
  3. 薬物が治療上必要である理由を説明し、自己判断で服薬を中断しないように伝える
  4. 治療により症状は徐々に軽減していくが、完全に良くなるまでにはかなりの時間がかかることを説明する
  5. 治療により症状は一進一退に改善していくため、治療途中に悪化するようなことがあっても悲観しないように伝える
  6. 治療中は自殺などの自己破壊的行為をしないことを約束させる
  7. 治療中は退職や離職などの人生の重大な問題の決定はしないように伝える

笠原嘉.治療「一般的事項」.In: 笠原嘉ほか(編集).感情障害―基礎と臨床.朝倉書店,1997.

(2)薬物療法

抗うつ薬の種類には、三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor ; SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(serotonin noradrenaline reuptake inhibitor ; SNRI)、ノルアドレナリン・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(noradrenergic and specific serotonergic antidepressant ; NaSSA)などがあります。

抗うつ薬のうち、NaSSA以外はセロトニンおよびノルアドレナリン再取り込み阻害作用があり、第一世代と第二世代の抗うつ薬はノルアドレナリンを選択的に、SSRIはセロトニンを選択的に、SNRIはセロトニンとノルアドレナリンの両方を増加させます。

第一世代と第二世代の三環系抗うつ薬は、副作用が高頻度にみられたため、SSRIやSNRIなどが開発され、副作用は大幅に軽減されました。

【表3】わが国で臨床導入されている新規抗うつ薬

カテゴリ 一般名 商品名 発売年
SSRI フルボキサミン デプロメール、ルボックス 1999
パロキセチン パキシル 2000
セルトラリン ジェイゾロフト 2006
エスシタロプラム レクサプロ 2011
SNRI ミルナシプラン トレドミン 2000
デュロキセチン サインバルタ 2010
NaSSA ミルタザピン リフレックス、レメロン 2009

抗うつ薬の使い分けに関する一つのアプローチとして、症状が陰性情動の亢進(負の感情の増加)、あるいは陽性情動の喪失(正の感情の減少)のどちらに傾いているかにより判断する考え方があります。負の感情とは、不安・恐怖・罪悪感などのことで、正の感情とは、喜び・楽しみ・モチベーションなどのことです。一つの目安ですが、陰性情動が強いうつに対してはSSRIが、陽性情動の喪失が強いうつに対してはSNRIが有効であると報告されています。

また、鎮静作用による眠気が好ましくない患者には非鎮静系であるSSRIやSNRIがよく使用され、不眠・不安・焦燥のある患者には鎮静作用の強いNaSSAが適しています。

8.まとめ

うつ病も多くの身体疾患と同じく、早期発見および早期治療が重要です。ご本人・ご家族・ご友人・職場の方などに、「DSM-5におけるうつ病の診断基準」に書かれている症状が2週間以上続いている場合には、精神科または心療内科を受診してください。

参考文献:

  • 功刀浩.うつ病―治療・研究の最前線.医学のあゆみ244:361.2013.
  • 川上憲人.こころの健康についての疫学調査に関する研究.平成16~18年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)総合研究報告書,2007
  • 飛鳥井望.自殺の危険因子としての精神障害―生命的危険性の高い企画手段をもちいた自殺失敗者の診断学的検討.精神誌96:415-443.1994.
  • 上島国利,樋口輝彦,野村総一郎(監修).気分障害治療ガイドライン第2版.医学書院,2010.
  • American Psychiatric Association.DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院, 2014.
  • 野村総一郎.現代型のうつ病をどうとらえるか.In:野村総一郎(編).多様化したうつ病をどう診るか.医学書院,2011.
  • 笠原嘉.治療「一般的事項」.In: 笠原嘉ほか(編集).感情障害―基礎と臨床.朝倉書店,1997.
  • 望月大介.SNRIの抗うつ作用発現メカニズム.医薬ジャーナル36:721-727,2000.
  • Nutt D, Demyttenaere K, Janka Z, et al. The other face of depression, reduced positive affect: the role of cate-cholamines in causation and cure. J Psychopharmacol 21:461-471,2007.
  • 白川治.うつ病の最新治療 薬物療法の実際.Clinical Neuroscience 22:202-207,2004.

参考サイト:

同友会メディカルニュース / 医療と健康(老友新聞)

同友会メディカルニュース

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