同友会メディカルニュース

2016年9月号
骨粗鬆症(こつそしょうしょう)について

日本は超高齢化社会を迎え、健康寿命の延伸、介護予防が重要な課題となっていますが、これらを阻害する要因として、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)による骨折があります。骨粗鬆症の患者数は年々増加し、現在、わが国では約1300万人と推計されています。また、骨粗鬆症による骨折は、QOL(生活の質)やADL(日常生活動作)の低下を招くのはもちろんのこと、椎体骨折(背骨の骨折)や大腿骨近位部骨折(足の付け根の骨折)では、要介護のリスク、さらに死亡のリスクが上昇することが明らかになりました。今回は骨粗鬆症について解説致します。

1.骨粗鬆症とは

骨粗鬆症とは、骨の強度が低下し骨折しやすくなる病気です。全身の骨がもろくなるため、軽い力が加わるだけで様々な部位の骨折を起こします。骨粗鬆症になると、立った姿勢から転んだくらいでも、椎体(背骨)、大腿骨近位部(足の付け根)、前腕骨(手首)、上腕(腕の付け根)などに骨折を起こしやすくなります。骨折の中でも、特に大腿骨近位部の骨折は、介護が必要な状態、いわゆる「寝たきり」の主要な原因です。また、大腿骨近位部骨折や椎体骨折をきたした方は、骨折がない方と比べて、死亡率が高くなります。

2.骨吸収と骨形成

古い骨が溶かされ、新しい骨が造られることで、骨は絶えず新陳代謝を繰り返しています。古い骨が溶かされることを「骨吸収」、新しい骨が造られることを「骨形成」といいます。新しく造られる骨の量より溶かされる骨の量が多いと、骨の量(骨密度)は減り、骨粗鬆症になります。

3.骨粗鬆症の分類

骨粗鬆症になる原因によって、「原発性」と「続発性」に分けられます。

① 原発性骨粗鬆症
原発性は、閉経や加齢によって起こる骨粗鬆症です。また、妊娠によって起こる骨粗鬆症も含まれます(妊娠後骨粗鬆症)。
・閉経後骨粗鬆症
原発性骨粗鬆症のなかでも、女性において、女性ホルモンが低下することによって起こる骨粗鬆症を「閉経後骨粗鬆症」といいます。
・加齢による骨粗鬆症
加齢に伴い、腸からのカルシウムの吸収が低下し、また、女性ホルモンの低下により尿に出ていくカルシウムの量が増えるため、高齢になるとカルシウム不足をきたしやすくなります。一方、年をとると日光に当たることが少なくなる方が多く、栄養不足などにより、カルシウムの吸収に関わるビタミンDも不足しやすくなります。これらによって骨密度が低下します。男性も、女性ほど急激ではありませんが、加齢に伴い骨粗鬆症をきたします。
② 続発性骨粗鬆症
骨に悪影響を与える病気や薬の投与など、骨粗鬆症をきたす原因がある場合、続発性骨粗鬆症といいます。続発性骨粗鬆症の原因は、下表のように様々です。
[ 表1 ] 続発性骨粗鬆症の主な原因
内分泌性 副甲状腺機能亢進症、甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)、クッシング症候群(ステロイドホルモンが出すぎる病気)、性腺機能低下症
栄養性 胃切除後、吸収不良症候群、神経性食思不振症
薬物 ステロイド、抗てんかん薬、メトトレキサート、ワルファリン、ヘパリン
不動性 安静臥床、麻痺
先天性 骨形成不全症、マルファン症候群
生活習慣病 糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)
その他 関節リウマチ、アルコール多飲、肝疾患

続発性骨粗鬆症の原因として、副甲状腺機能亢進症、甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)、性腺機能低下症、クッシング症候群などの内分泌の病気や、関節リウマチなどがあります。これらに加えて、近年、コントロール不良の糖尿病、慢性腎臓病(chronic kidney disease : CKD)、慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease : COPD)といった生活習慣病が骨粗鬆症の原因となることが明らかになりました。

4.骨粗鬆症の診断

① 問診
骨粗鬆症の診断においても、問診は重要です。医師は、患者や受診者に対し、症状、現在治療中の病気、既往歴、薬剤の使用状況などを、正確に聴取する必要があります。既往歴では、骨粗鬆症性骨折についての情報が重要ですが、椎体骨折の3分の2は無症状であり、注意が必要です。
② 各種検査
最大身長よりも2cm以上の身長低下は、椎体骨折を示す重要な情報ですが、椎体骨折の有無と程度を知るためには、胸椎ならびに腰椎のX線撮影(2方向)が必須です。
骨密度測定は、全身型DXA(二重エネルギーX線吸収測定法)による腰椎または大腿骨近位部の測定が推奨されますが、これらを測定する機器がない場合には、前腕骨DXAによる測定や、MD(microdensitometry)法による第2中手骨の測定を利用します。なお、超音波による踵骨(かかとの骨)の測定は、スクリーニングには用いられますが診断に使うことはできません。春日クリニックでは、放射線を使用しない超音波による骨密度測定を行っています。
③ 診断基準
現在用いられている診断基準は、「原発性骨粗鬆症の診断基準2012年度改訂版」によるものです。続発性骨粗鬆症や骨量低下をもたらす骨粗鬆症以外の病気を除外した上で適用されます。
まず重要なことは、既存骨折があるか否かです。これを確認するためには、問診において非椎体骨折の既往について聴取するほかに、胸椎と腰椎のX線写真を2方向で撮影する必要があります。
既存骨折がない場合は、骨密度測定値がYAM(young adult mean : 20~44歳の若年成人平均値)の70%以下で骨粗鬆症と診断します。
既存骨折として椎体骨折または大腿骨近位部骨折がある場合には、骨密度の結果を問わず骨粗鬆症と診断します。そのほかの部位(前腕骨遠位端、上腕骨近位部、肋骨、骨盤、下腿)の骨折があった場合には、YAMの80%未満で診断します。
[ 表2 ] 骨粗鬆症の診断基準
  骨密度
既存骨折がない場合 YAMの70%以下で骨粗鬆症
椎体骨折または大腿骨近位部骨折がある場合 骨密度の結果を問わず骨粗鬆症
前腕骨遠位端、上腕骨近位部、肋骨、骨盤、下腿の骨折があった場合 YAMの80%未満で骨粗鬆症

5.骨折危険度の評価

骨折危険度は、FRAX(骨折リスク評価ツール)で計算することができます。FRAXのサイト(http://www.shef.ac.uk/FRAX/)にアクセスし、各種危険因子を入れると、10年以内の骨粗鬆症性骨折(大腿骨近位部、橈骨下端、上腕骨近位部、椎体)と大腿骨近位部骨折の危険度が%表示で計算されます。入力する項目は、年齢、性、身長、体重、大腿骨頚部骨密度、骨折の既往の有無、両親の大腿骨近位部骨折の有無、喫煙の有無、飲酒の有無、ステロイド使用の有無、関節リウマチの有無、続発性骨粗鬆症の有無で、骨密度は入力しなくても計算できます。是非、皆さんもFRAXのサイト(http://www.shef.ac.uk/FRAX/)にアクセスし、ご自身の骨折危険度を計算してみて下さい。

[ 図1 ] FRAXの入力画面

FRAXの入力画面

6.薬物治療の開始基準

骨粗鬆症の薬物治療は、骨折の有無、骨密度、家族歴、骨折危険度などの要素を総合的に判断した上で開始されます。2011年に、薬物治療の開始基準(図2)が作られました。このガイドラインでは、従来のガイドラインに、FRAXの10年間の骨折確率が15%以上という項目が新たに加わったのが特徴です。また、脆弱性(ぜいじゃくせい)骨折は、立った高さからの転倒か、それ以下の外力による骨折を意味します。

[ 図2 ] 原発性骨粗鬆症の薬物治療開始基準

原発性骨粗鬆症の薬物治療開始基準

7.骨粗鬆症の治療

① 薬物治療
下表に、2015年版のガイドラインに記載されている薬の効果を示します。ここに挙げた薬のうち、ビスホスホネート薬、SERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター)、カルシトニン薬、抗RANKL抗体薬を骨吸収抑制薬と呼び、副甲状腺ホルモン薬を骨形成促進薬と呼びます。
[ 表3 ] 骨粗鬆症治療薬の有効性
分類 薬物名 骨密度 椎体
骨折
非椎体
骨折
大腿骨
近位部骨折
 カルシウム薬  L-アスパラギン酸カルシウム B B B C
 リン酸水素カルシウム
 女性ホルモン薬  エストリオール C C C C
 結合型エストロゲン A A A A
 エストラジオール A B B C
 活性型ビタミンD3薬  アルファカルシドール B B B C
 力ルシトリオール B B B C
 エルデカルシトール A A B C
 ビタミンK2薬  メナテトレノン B B B C
 ビスホスホネート薬  エチドロン酸 A B C C
 アレンドロン酸 A A A A
 リセドロン酸 A A A A
 ミノドロン酸 A A C C
 イバンドロン酸 A A B C
 SERM  ラロキシフェン A A B C
 バゼドキシフェン A A B C
 カルシトニン薬  エルカトニン B B C C
 サケカルシトニン B B C C
 副甲状腺ホルモン薬  テリパラチド(遺伝子組換え) A A A C
 テリパラチド酢酸塩 A A C C
 抗RANKL抗体薬  デノスマブ A A A A
 その他  イプリフラボン C C C C
 ナンドロロン C C C C
薬剤に関する「有効性の評価(A. B. C)」
骨密度上昇効果
A:上昇効果がある
B:上昇するとの報告がある
C:上昇するとの報告はない
骨折発生抑制効果
(椎体,非椎体,大腿骨近位部それぞれについて)
A :抑制する
B :抑制するとの報告がある
C :抑制するとの報告はない
② 食事指導
カルシウム摂取量を増やすことは、骨粗鬆症の予防および治療に有効ですが、カルシウムを薬剤やサプリメントなどで単独で摂取しても、骨粗鬆症の治療としての有効性は低いことが報告されています。カルシウムだけでなく、ビタミンDやビタミンKも含めた栄養素をバランスよく摂取することが重要です。また、リン(加工食品に多く含まれる)、食塩、カフェイン、アルコールの過剰摂取は控えましょう。
[ 表4 ] 骨粗鬆症の治療時に推奨される食品
推奨される食品
・カルシウムを多く含む食品
(牛乳・乳製品、小魚、緑黄色野菜、大豆・大豆製品)
・ビタミンDを多く含む食品
(魚類、きのこ類)
・ビタミンKを多く含む食品
(納豆、緑色野菜)
・果物と野菜
・蛋白質(肉、魚、卵、豆、牛乳・乳製品など)
③ 運動指導
骨に負荷がかかる荷重運動、筋力訓練、ウォーキングは、骨密度の維持や上昇に有効です。また、骨折を予防するためには、骨密度を上昇させるのに加え、背筋を強化して椎体の骨折を予防すること、運動機能を高めて転倒を予防することも重要です。

8.まとめ

椎体や大腿骨近位部などの骨折の既往のある方、人間ドックや健康診断の際に測定した骨密度がYAM(若年成人平均値)の70%以下の方は、整形外科外来を受診し、骨粗鬆症の精密検査および治療について御相談下さい。

参考文献:

  • 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会(編):骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年度版, ライフサイエンス出版, 2015.
  • Suzuki T, et al: Low bone mineral density at femoral neck is a predictor of increased mortality in elderly Japanese women. Osteoporosis Int 21: 71-79, 2010.
  • NIH Consensus Development Panel on Osteoporosis Prevention, Diagnosis, and Therapy. JAMA 285: 785-795, 2001.
  • Yamamoto M, et al: Diabetic patients have an increased risk of vertebral fractures independent of BMD or diabetic complications. J Bone Miner Res 24: 702-709, 2009.
  • Ryan CS, et al: Osteoporosis in men: the value of laboratory testing. Osteoporosis Int 22: 1845-1853, 2011.
  • Kanis JA, et al: The use of clinical risk factors enhances the performance of BMD in the prediction of hip and osteoporotic fractures in men and women. Osteoporosis Int 18: 1033-1046, 2007.

参考サイト:

  • http://www.shef.ac.uk/FRAX/

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