2021年3月号
新しい診断、治療:「エクソソーム」の可能性
はじめに
私たちの体の中では、日々組織の再生や修復、ウイルスなど外敵への免疫応答を行っています。この膨大な作業は、様々な細胞、そしてその細胞から放出される多くの生理活性物質やRNAなどの遺伝子情報によって行われますが、近年、細胞から放出される「エクソソーム」と呼ばれる物質が注目を集めています。
エクソソームとは
エクソソームは細胞の中で作られ、細胞外に放出される小胞で、その大きさは30~100ナノメールとかなり小さいものです。1980年代に発見されていますが、その機能の詳細が分かってきたのは近年の事です。エクソソームは体の中にあるほとんどの細胞で作られ、その中にはたんぱく質やRNAなど様々な物質が格納されていることが特徴です。
エクソソームは多胞体という形で細胞内において形成されたのちに、細胞外に放出され血液を含め広く体液を循環することで、細胞同士のコミュニケーションの手段となっていることがわかっています。(図1)
重要な事象として、体内を循環しているエクソソームを別の細胞が受け取ると、その中に入っている物質の影響を受けて、様々な反応を引き起こすことを通じ、がんをはじめとする多くの疾病の進行にかかわっているという事があります。
例えば、ある組織ががん化すると、がん細胞が放出するエクソソームによって転移が促進されることや、肺気腫の患者さんから採取したエクソソームをマウスに注射すると、そのマウスに肺気腫の兆候が確認されたという報告がされています。
このように病気の進展にも関わる一方で、体にとって良い影響を及ぼすこともあります。そういったエクソソームは「ヒーローエクソソーム」や「善玉エクソソーム」などと呼ばれることもあり、動物疾患モデルに投与することで、心機能や腎機能の改善、また炎症を抑える効果があるという事が報告されており、さらには治療がなかなか難しいとされているアルツハイマー病に対しても治療効果が期待されています。
治療の方法として、これらの良いエクソソームを抽出したり、あるいはエクソソームの中に治療の効果のある人工的な物質を封入したりして、それらを患者に投与するという方法が現在研究されておりますが、良いエクソソームの作成方法や適切な投与量など、まだまだ分かっていない事も多いのが実情です。
早期発見への応用
細胞ががん化した場合には、そのがん細胞に特異的なエクソソームが放出されるわけですが、そのエクソソームを調べることで、逆に体内のどこかにがんができているかを早期に発見することも可能であるということになります。これはリキッドバイオプシーと言われるものの一種で、既に様々な取り組みが進められております。
リキッドバイオプシーは、「血液一滴を調べることで何種類ものがんを早期発見することが可能になる」という形で近年メディアでもよく紹介されているので、ご存知の方も増えてきていると思いますが、血液や尿などの体液を調べてがんをはじめとする多くの疾病の早期発見が可能になることが期待されています。
このリキッドバイオプシーでは、エクソソームの中に多く格納されているマイクロRNAを分析した結果が多く報告されていますが、エクソソーム自体を分析する手法も研究が進められています。
再生医療におけるエクソソームの役割
良いエクソソームを体内に投与することで様々な病気を修復させることが期待され、現在研究が進められているわけですが、このエクソソームを多く含む物質として注目されているものに「幹細胞培養上清」というものがあります。少々難しい名前ですが、「幹細胞」という言葉は聞き覚えがあるかもしれません。様々な細胞に分化する能力があり、発生や再生にかかわる細胞のことで、中でも「iPS細胞」は有名かと思います。また「上清」というのは、細胞を培養している培養液から得られる上澄み溶液になります。
幹細胞を用いた治療法である再生医療では、培養した幹細胞を病気の部分に移植したりすることで、傷ついた組織を修復するという試みです。一方で、幹細胞はエクソソームをはじめ、サイトカインなど様々な生理活性物質を作り出すため、この幹細胞を培養している培養液の中にはこれらの物質が豊富に含まれています。そこで、幹細胞自体ではなく幹細胞培養上清を投与することで、抗炎症作用や疾病により損傷した組織の修復を手助けすることが期待されており、実際に動物モデルにおけるエクソソームの効果を評価する研究には、この幹細胞培養上清のエクソソームが使われています。
このエクソソームを多く含んだ幹細胞培養上清は、現在でも一部の医療機関で自由診療にて実施されています。まだまだ臨床研究を進めている段階で、これからエビデンスの構築が期待されている状況ではありますが、臨床の現場でも、そして私たち予防医療の現場でも、その可能性が期待されている新しい医療技術なのです。
参考文献
- Joti M. Nature 581, S10-S11 (2020)
- Maremanda, K. P et al. Toxicol. Appl. Pharmacol. 385, 114788 (2019).
- Lai RC et al. Stem Cell Res. 2010; 4(3): 214-222
- Nargesi AA et al. Stem Cell Res Ther. 2017; 8: 273-284
- Krishna PM et al. Toxicol Appl Pharmacol. 2019 Dec 15; 385: 114788.
- Mengtian G et al. Alzheimer's Research & Therapy volume 12,: 109 (2020)
- 落谷孝広、吉岡祐亮 医療を変えるエクソソーム 科学同人 2018
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- ピロリ菌検査で「陰性」であっても気を付けて欲しいこと
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- 「座りっぱなし」をなくしましょう!
- 歯周病・喫煙と乳がんとの関係
- 血圧はどこまで下げればよいのか?
- 過敏性腸症候群について
- 脳動脈瘤について
- 長時間労働は心・脳血管障害の大きなリスク
- 「胆管がん」ってどんな病気?
- 慢性膵炎についてご存知ですか?
- 地中海食をもとに健康的な食習慣について考えましょう
- 乳がん検診を受けましょう!
- コレステロールの摂取制限について
- アサーショントレーニング
- ~胃の寄生虫、『アニサキス』について~
- うつ病について
- 「体を動かすということ」をもう一度考えてみませんか?
- 進歩する内視鏡検査
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- 甘く見てはいけないインフルエンザ
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- HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)について
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- さだまさしさんの歌に思う-鉄欠乏性貧血の話-
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- 「潜在性甲状腺機能低下症」ってご存じですか?
- 肺がん検診のススメ
- 大腸がん検診受けていますか?
- ピロリ菌除菌治療の保険適用が拡大されました。
- 今一度、低炭水化物食(糖質制限食)について考えてみましょう。
- 片足立ちで靴下を履けますか?
- 腹部大動脈瘤も人間ドック・健診で早期発見を
- アルコールと消化器疾患について
- 糖尿病とがん・糖尿病治療とがんの関係
- 最近の禁煙事情
- 膵臓(すいぞう)がんについて知っておいてほしいこと
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- 血尿とIgA腎症
- 動脈硬化疾患予防ガイドラインについて
- 機能性胃腸障害について
- ドライアイのリスクと治療
- 高血圧のタイプ別心血管・脳血管疾患リスクについて
- 遺伝情報を用いたオーダーメイド医療の時代が、すぐ近くまで来ています。
- 今の生活習慣が老後を決めてしまうかもしれません
- がん治療の最前線
- 骨粗鬆症の予防について
- 高血圧とは ガイドラインを中心に
- 消炎鎮痛剤とがんの意外な関係
- 食習慣改善はお菓子やジュース類を減らす事から始めましょう
- 日本人はなぜ平均寿命が世界でトップクラスなの?
- 大腸がん対策について
- 生活習慣改善の目標と方法
- ひとりひとりが認知症に対する備えを
- よい睡眠が健康にはとても重要です
- たかがコレステロール、されどコレステロール
- 肺がんには胸部CTが有効です
- 動脈硬化を調べましょう
- 「脂肪肝なんて」と軽く考えていませんか
- 減量に最適なカロリーバランスは?
- 血清抗p53抗体に関する話題
- 関節リウマチの話題
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- 経鼻内視鏡検査の普及が進んでいます
- NEAT(非運動性活動熱発生)をご存知ですか?座っている時間を短くすることが健康の秘訣かもしれません
食事プラスワン
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- 夏に気を付けたい食中毒
- 第33回
- 肝臓を守る習慣
- 第32回
- 乳製品とLDLコレステロール
- 第31回
- 中食や外食の活用【コンビニ・スーパー】
- 第30回
- 休肝日を作ろう
- 第29回
- 熱中症に要注意
- 第28回
- 間食を見直そう
- 第27回
- 食べ物の消化時間
- 第26回
- 食事のバランスを整えよう
- 第25回
- 体重を測ろう
- 第24回
- 免疫力を高める
- 第23回
- 朝食をとろう
- 第22回
- 1日の目標塩分摂取量
- 第21回
- 上手な鉄分の摂り方
- 第20回
- カラダに良い油・悪い油
- 第19回
- 歯の定期健診も受けていますか?
- 第18回
- 食事バランス
- 第17回
- 運動でカロリーを減らすには
- 第16回
- 関節の痛みには・・・
- 第15回
- 骨を丈夫に!
- 第14回
- ごはんを適量食べる!
- 第13回
- 野菜プラスキャンペーン開始!
- 第12回
- 「お豆腐」食べ過ぎ注意報!
- 第11回
- 表示をよく見て、飲もう!
- 第10回
- おでんの選び方。
- 第9回
- くだものも、適量を食べる!
- 第8回
- 牛乳はどのくらい飲んでいますか。
- 第7回
- 早食いも、食事バランスも改善!
- 第6回
- 夜遅い食事が気になる人へ
- 第5回
- お酒が気になる人へ
- 第4回
- 菓子パンの食事を改善!
- 第3回
- アブラ料理もおいしく食べる!
- 第2回
- おつまみ選びの達人に!
- 第1回
- めんの時もバランスよく!
小石川の健康散歩道
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- がん検診の受診はお済みでしょうか?~
- 第43回
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~味噌汁の塩分量と栄養素どっちをとる?~ - 第41回
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- 第34回
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- 第33回
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- 『コロナ太り』を解消!要因を知って具体的な対策に
- 第27回
- 外出自粛期間を乗り切るコツ 運動編
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- 飛行機内の湿度は砂漠よりも低い?!
- 第25回
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- 釣って食べる!海釣りのオススメ~船酔い(乗り物)酔い対策編~
- 第22回
- 素敵な和菓子
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- 『デンタルケアから始める健康管理』
- 第20回
- 『気にしていますか? 夜間熱中症』
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- 第16回
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- 第15回
- 釣って食べる!海釣りのオススメ ~運動編~
- 第14回
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- 第13回
- 運動前の糖質摂取―大事なのは種類とタイミング―
- 第12回
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- 第11回
- 新生活を迎える時ほど大切に!家族・身近な相手とのコミュニケーション
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- もっと気軽に健康相談♪
- 第9回
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- 第8回
- 夏の日差しを楽しむために
- 第7回
- 休日は緑を求めて…
- 第6回
- お風呂好きは日本人だけ?
- 第5回
- 気分の高揚を求めて
- 第4回
- みなさん、趣味はありますか?
- 第3回
- 休み明けの朝だってすっきりさわやか、そんな生活への...
- 第2回
- 忙しい日々こそ、1日をふりかえること。
- 第1回
- 少しの工夫で散歩が変わる!