同友会メディカルニュース

2014年11月号
リンパ球と癌の関係

私の担当分では過去に何回かリンパ球に関する話題を提供してきました。今回はちょっと怖い話になるかもしれませんが、癌の予後(癌になった後にどうなるのか)とリンパ球の関係に触れながら、癌予防についても述べることにします。

今回の話題のきっかけになったことは、先日開かれた日本癌治療学会で、「好中球/リンパ球比率(NLR)3.7以上は乳がんの予後を決定づける因子である」との報告を目にしたことです。群馬県立がんセンター乳腺科の宮本健志氏らは、転移再発乳癌においてNLRと全生存期間の関連を検討し、NLR 3.7以上は、無増悪生存期間1,000日未満、中枢神経系転移ありと並び転移再発乳がんの独立した予後予測因子だと発表されました(1)。

ここでまず白血球の解説をしましょう。人間ドックを受けられた方はその結果表を見ていただくと分かりますが、白血球には大きく分けて5種類のものがあります。ちなみに私のデータをお見せしましょう(表1)。

表1

    単位
白血球数 5920 /mm3
Baso(好塩基球) 1 %
Eosino(好酸球) 6.8 %
Neut(好中球) 40.8 %
Lympho(リンパ球) 45.8 %
Mono(単球) 5.6 %

好塩基球、好酸球、好中球、リンパ球、単球の5種類で、その横の数字は白血球全体に対する比率になります。好中球(Neut)とリンパ球(Lympho)が大多数を占めていることが分かるでしょうか?好中球は主として細菌感染の際に細菌を殺す役割を担っており、リンパ球はウイルス感染細胞を攻撃したり、癌免疫で重要な役割を演じています。面白いことに白血球、特にリンパ球の数は大体一定に保たれており、白血球の数が増える主たる理由は好中球が増えていることだと解釈しても良いくらいです。

NLRが3.7以上ということは好中球が比較的多く、逆にリンパ球は少なめということで、以下のように解釈することができます。腫瘍増殖の結果、炎症反応が起こり、その結果(炎症組織に動員される)好中球が増えていることが一つ。逆にリンパ球に関しては、体質的に少ないという可能性が高いかもしれません。リンパ球が少ないと、手術によって腫瘍の大部分は取り除いたとしてもわずかに残存した腫瘍細胞や、転移した細胞は完全にはダメージを与えられないことも考えられます。もちろん、ルーチンに実施されることが多い手術後の抗癌剤の影響も否定できません。なぜなら癌細胞を殺す薬というのは正常細胞にもある程度の影響を与えますから。いずれにせよ、同氏はNLRが3.7以上であれば、早期化学療法導入の検討に有効である可能性があると考えておられます。「無増悪生存期間が1,000日未満」ということは癌の再発があることで、「中枢神経系転移あり」ということは癌の、脳もしくは脊髄への転移があることを意味していますので、癌細胞に対して抗癌剤治療を開始すべきことは容易に想像できます。それらとほぼ同等のリスクでNLRが高いことが挙げられるというのはちょっと驚きでもありました。

先日、NHKの「ためしてガッテン」では運動とリンパ球の関連について紹介されていました(2)。私も運動(エアロバイク)しながら見ていたので番組内容の詳細までは覚えていませんが、適度な筋トレがリンパ球を活性化するのに適しているという内容があったと記憶しています。決して数が増えるわけではないけれども、もしもの時に動員されやすくなるということも。「もしもの時」というのはウイルス感染などの機会があり、本来リンパ球が活躍する時ということです。リンパ球は癌免疫でも主役の一つで、癌細胞を攻撃しているリンパ球の映像も紹介されていました(図1)。図の写真は同放送で用いられていたものではありませんが、癌細胞を取り囲むリンパ球の様子が観察されています。

図1:画面中央部、オレンジ色の大きめの細胞が癌細胞。それを取り囲むように存在している、やや小さめの細胞がリンパ球です。
(順天堂大学奥村教授より借用)

では、リンパ球数が少ないと癌になりやすいかと問われると、今のところは単純にそうだと断言できないところに癌発生の複雑な機序があります。以前に比べて癌発生の機序はかなり分かってきました。例えば、胃がんの80%~98%はピロリ菌感染が原因と言われていますし、肝臓がんもB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスから発展するものが大半を占めるとのこと。子宮頚がんもその多くはパピローマウイルスが原因だとされています。癌に対しては予防と早期発見が大切だということは自明の理でしょう。ピロリ菌や肝炎ウイルスに対しては薬剤を用いての治療法も確立されています。経験的ですが、免疫力を高める手段として、タンパク質を十分に摂ること、適度な運動を行うこと、十分な睡眠をとることなどがあり、加えて癌予防の観点からみると、禁煙も大切です。「何だ、普通のことではないか!」と考える向きもありましょうが、実践するのは意外にも難しいものです。自分が置かれている状況(ピロリ菌、肝炎ウイルスなど)を知りながら、定期的に検査を受け、簡単そうに見えて実はそうでもない生活習慣の改善を行うことが癌予防につながってゆくはずです。

同友会からのご案内

参考文献:

  • http://www.m3.com/open/overseasAcademy/report/.../10324/(もしくは)日本癌治療学会学術集会(CD-ROM) 巻:52nd ページ:ROMBUNNO.O11-8:2014年
  • http://www9.nhk.or.jp/gatten/archives/P20140917.html

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