同友会メディカルニュース

2012年11月号
動脈硬化疾患予防ガイドラインについて

日本動脈硬化学会の「動脈硬化疾患予防ガイドライン」が5年ぶりに改訂されました。このガイドラインは、狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患を中心とした動脈硬化に伴う病気の予防を目的として、主に脂質異常症への対策を中心にまとめられたものです。脂質異常症という言葉は、もともと高脂血症という呼び方をされていましたが、前回2007年のガイドラインから脂質代謝異常と明記されました。今回のガイドラインでも、脂質異常症についての診断治療指針に改訂がありましたので解説したいと思います。

はじめにお伝えしたいのが、スクリーニングのための診断基準の変更についてです。以前はLDLコレステロール(LDL-C) 140mg/dl以上、HDLコレステロール(HDL-C) 40mg/dl未満、 トリグリセライド(TG、中性脂肪)150mg/dl以上となっていましたが、今回はこれに加えてLDL-C 120~139mg/dlという境界域高LDL-C血症が設定されました。(表1)わざわざ境界域を設けたのは、このレベルであっても他の危険因子と組み合わさることで、冠動脈疾患の発症危険度が高くなり、このような方にはより早期に治療を行うことで予後の改善が可能なことが分かってきたからです。今回、リスクの高さに応じて判断できる境界域を設定し、場合によっては早期の治療介入も可能な領域として提案されました。

表1:脂質異常症:スクリーニングのための診断基準(空腹時採血)

LDLコレステロール 140 mg/dl 以上 高LDLコレステロール血症
120~139 mg/dl 境界域LDLコレステロール血症
HDLコレステロール 40 mg/dl未満 低HDLコレステロール血症
トリグリセライド 150 mg/dl以上 高トリグリセライド血症

次に、健診で脂質異常症が指摘された場合にどう管理すればよいかが問題になります。この指標が次の表2です。HDL-CやTGは管理目標がそれぞれ40以上、150未満で統一されておりわかりやすいのですが、LDL-Cは管理区分によって4段階に分かれています。これは、動脈硬化性疾患の発症が単にLDL-Cの数字だけではなく、患者さんそれぞれのリスク状況に合った管理目標を設定する必要があるのです。図中のnon-HDLコレステロールについては、2010年12月号で説明していますのでご覧ください。

表2:リスク区分別脂質管理目標値

治療方針の原則 管理区分 脂質管理目標値 (mg/dl)
LDL-C HDL-C TG Non HDL-C
一次予防 カテゴリーI < 160 ≧40 < 150 < 190
カテゴリーII < 140 < 170
カテゴリーIII < 120 < 150
二次予防 冠動脈疾患の既往 < 100 < 130

まず、一次予防と二次予防の違いですが、一次予防は病気にならないための対策で、二次予防はすでに病気にかかってしまった人の再発予防です。このガイドラインは狭心症や心筋梗塞といった冠動脈疾患をターゲットにしているので、これらの病気を既にお持ちの方はこの二次予防の管理区分に入ります。二次予防の患者さんでは、LDL-Cが低いほど心筋梗塞の再発が低いことが臨床研究でわかっていることから目標値が低く設定してあります。この場合、治療方針の原則としては、生活習慣の是正とともに薬物治療を考慮するとされています。一方で、一次予防はまず生活習慣の改善を行った後、薬物療法の適応を考慮することとなっていますが、管理区分については3つのカテゴリーにわかれていて、このカテゴリーの決め方が図1のように少し複雑になっています。

図1:LDLコレステロール管理目標設定のためのフローチャート

図2:冠動脈疾患絶対リスク評価チャート

まず、糖尿病、慢性腎臓病などの冠動脈疾患と関連が深い病気を持っている方はカテゴリーIIIとなり、LDL-Cの管理目標も120未満と厳しくなります。それ以外の方はNIPPON DATA80という疫学調査研究をもとに作成されたリスク評価チャートに基づいて、性別、血圧、総コレステロール値、喫煙歴から冠動脈疾患の推定死亡率を求めカテゴリー分類を行います。 このようにして判断される脂質管理目標値を達成するためには、まず生活習慣の改善をしっかり行うことが重要です。その上でも目標値が達成できない場合には、リスクの重みに応じて薬物療法を考慮します。カテゴリーIの場合でも、LDL-Cが持続的に180mg/dlを越える場合には、薬物療法の適応を考慮する必要が出てきます。

以上今回の改訂内容について説明いたしましたが、重要なことは検査データを総合的に考え、それぞれの状態に合った方法で生活習慣改善や薬物治療を選択してゆくということです。検査データに異常があった場合には、必ず医師のアドバイスをお聞きください。

引用  動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年度版

同友会メディカルニュース / 医療と健康(老友新聞)

同友会メディカルニュース

小石川の健康散歩道

保健師コラム

第44回
がん検診の受診はお済みでしょうか?~NEW
第43回
「座り過ぎ」に要注意!   ~毎日コツコツ、病気予防~
第42回
味噌汁は健康づくりの救世主?!
      ~味噌汁の塩分量と栄養素どっちをとる?~
第41回
食べる・育てる・観る ガーデニングの良いところ
第40回
推しの力!
第39回
炭酸飲料?お茶?あなたは何を飲みますか?
第38回
気になる喉の乾燥の防ぎ方
第37回
香りやにおい、マスク着用の日々だからこそ、意識してみませんか。
第36回
こころを整える 〜リフレーミングをとりいれて〜
第35回
パンダと一緒に健康に!?
第34回
好きな香りはありますか?
第33回
快眠のための寝具について
第32回
マスクと肌トラブル
第31回
腸内環境を整えよう~腸活のススメ~
第30回
手洗い・消毒後は、保湿をセットで手荒れを予防
第29回
心を満たす食卓が鍵
第28回
『コロナ太り』を解消!要因を知って具体的な対策に
第27回
外出自粛期間を乗り切るコツ 運動編
第26回
飛行機内の湿度は砂漠よりも低い?!
第25回
「お料理」のススメ
第24回
階段利用で歩数UP・プチ筋トレ♪
第23回
釣って食べる!海釣りのオススメ~船酔い(乗り物)酔い対策編~
第22回
素敵な和菓子
第21回
『デンタルケアから始める健康管理』
第20回
『気にしていますか? 夜間熱中症』
第19回
本当の血圧はどれくらい? ‐意外と知らない血圧上昇の原因‐
第18回
五感を働かせ、楽しみながらの英語習得!認知症予防にも効果的!?
第17回
「素敵な靴は、素敵な場所に連れて行ってくれる」って本当?!
第16回
今、スポーツ観戦がアツイ!
第15回
釣って食べる!海釣りのオススメ ~運動編~
第14回
太鼓に感動!
第13回
運動前の糖質摂取―大事なのは種類とタイミング―
第12回
体質は遺伝する、習慣は伝染する。
第11回
新生活を迎える時ほど大切に!家族・身近な相手とのコミュニケーション
第10回
もっと気軽に健康相談♪
第9回
食材で季節を感じてみませんか?
第8回
夏の日差しを楽しむために
第7回
休日は緑を求めて…
第6回
お風呂好きは日本人だけ?
第5回
気分の高揚を求めて
第4回
みなさん、趣味はありますか?
第3回
休み明けの朝だってすっきりさわやか、そんな生活への...
第2回
忙しい日々こそ、1日をふりかえること。
第1回
少しの工夫で散歩が変わる!

お元気ですか

季刊誌 お元気ですか

2024年10月号
  • 私の健康法
    ゴルフトーナメントプロデューサー 戸張 捷さん
  • 鼠径ヘルニアについて
    順天堂大学医学部附属順天堂医院
    大腸・肛門外科 助教 雨宮 浩太
    ドクターによる健康に役立つ医学情報をご紹介いたします。
  • 糖尿病について考えてみませんか?
  • 自宅でできる足の筋力トレーニング
  • 更年期の女性だけじゃない?「更年期障害」
  • 春日クリニック 特別ドック2024年4月1日フロアリニューアル

ページトップ