同友会メディカルニュース

2021年8月号
妊娠と放射線検査について

1.はじめに

病院や診療所を受診される際、問診などにより妊娠中または妊娠の可能性があることが確認された場合は、国際放射線防護委員会(International Commission on Radiological Protection、略して ICRP)の勧告に基づき、医療被ばくに伴うリスクと、検査を受ける便益とを考慮した上で、放射線検査を行うか行わないかが判断されます。

一方、精密検査を目的として放射線検査を実施することが多い病院や診療所とは違い、スクリーニングを目的とする人間ドックや健診施設におきましては、より慎重に検査の適応を判断することが望ましいため、妊娠中または妊娠の可能性がある方は、胸部X線・胃部X線(バリウム造影)・マンモグラフィ・CTなどの検査をお受け頂くことはできません。

今回は、妊娠と放射線検査について解説させて頂きます。

2.放射線検査における胎児被ばく

2000年8月21日の毎日新聞において、妊娠に気づかずに腹部CT検査を受けてしまい、胎児の被ばくを理由に妊娠中絶を行った事例が報道されました。

ICRPの勧告によれば、100mGy(ミリグレイ)以下の胎児の被ばく線量では、胎児への放射線による影響を心配する必要はないと記載されています。また、Gy(グレイ)は、放射線によって物体に与えられたエネルギーを表す単位です。

以下に、放射線検査における胎児の被ばく線量を示します。

〔表1〕 放射線検査における胎児の被ばく線量
検査 平均線量(mGy) 最大線量(mGy)
頭蓋骨X線 <0.01 <0.01
胸部X線 <0.01 <0.01
腹部X線 1.4 4.2
骨盤X線 1.1 4.0
胃部X線(バリウム造影) 1.1 5.8
頭部CT <0.005 <0.005
胸部CT 0.06 1.0
腹部CT 8.0 49
骨盤CT 25 80

表1によりますと、腹部CT検査における、胎児被ばくの平均線量は8.0mGy、最大線量は49mGyですので、妊娠に気づかずに腹部CT検査を一回受けたとしても100mGyを超えないため、被ばく線量の観点からは妊娠中絶は必須ではなく、受診者の不安などを総合的に判断してのことであったと思われます。

3.ICRP勧告の概要

以下に、ICRP勧告の概要を述べます。

  1. 100mGy以下の胎児被ばくを理由に妊娠中絶を行うことに医学的な正当性はありません。また、100mGyを超える胎児被ばくの場合は、主治医からの説明を受けた上で、妊娠中絶するかどうか個人の事情に基づいて判断されるべきです。
  2. 通常の放射線検査においては、100mGyという胎児被ばく線量を超えることは極めてまれです。
  3. 通常の放射線検査による胎児被ばく線量では、出生前死亡・奇形・精神発達遅滞のリスクが自然発生率を上回ることはありません。
  4. 両親のいずれかが、妊娠が成立する以前に卵巣や精巣への放射線被ばくがあったとしても、生まれてくる子どもに、がんや奇形が増加するという科学的根拠はありません。

4.まとめ

放射線検査による胎児への被ばくを防止するために、人間ドックや健康診断を受ける際だけでなく、病院や診療所の受診時におきましても、妊娠中の方や妊娠の可能性がある方は、受診する医療機関の職員および担当医に、妊娠中または妊娠の可能性がある旨を、診察や検査などを受ける前に必ずお伝え頂きますよう宜しくお願い致します。

参考文献

  • International Commission on Radiological Protection : Pregnancy and medical radiation, ICRP Publication 84, Ann. ICRP, 2000.
  • 社団法人 日本アイソトープ協会 : ICRP Publication 84 妊娠と医療放射線, 丸善, 2002.
  • 医療問題取材班 ; 医療を問う “妊娠確認せずX線検査” : 毎日新聞2000年8月21日32面, 2000.
  • 坪根千枝、伴信彦、甲斐倫明 : 妊娠可能な女性の医療被ばくに対する放射線防護のあり方―診療放射線技師に対する意識調査から―, 保健物理, 40: 49-55, 2005.

参考サイト

同友会メディカルニュース / 医療と健康(老友新聞)

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