2017年12月号
長引く咳の原因について
1.はじめに
咳(咳嗽(がいそう)ともいいます)は病院へ受診する理由として頻度が高い症状ですが、その原因はいわゆる「かぜ」などの自然軽快するものから、生命に危険がおよぶ肺がんや肺気腫・間質性肺炎、肺結核まで非常に多くの疾患が含まれます。咳が長引くときには、その症状の辛さから多くの方は「自分はなにか悪い病気にかかってしまっているのではないか」と不安になると思います。長引く咳は肺気腫や肺がんなどの疾患が原因となることもありますが、一般的にはどのようなものが原因として多くみられるのでしょうか。
2.咳の分類
咳は症状の持続する期間で①急性咳嗽(3週間未満)、②遷延性咳嗽(3週間以上8週間未満)、③慢性咳嗽(8週間以上)に分けられます。他の観点では痰を伴うかどうかで湿性(痰を伴う)と乾性(痰を伴わない)に分けることもあります。
急性咳嗽のほとんどはウイルスや細菌などによる感染、いわゆる「かぜ」に伴うものであり、遷延性咳嗽は感染後の後遺症(感染後咳嗽)が多くを占めています。今回のテーマである長引く咳と同義である慢性咳嗽は感染以外の疾患が主な原因となります(図1)。
<図1>症状持続期間と感染症による咳嗽比率(文献1より引用)
3.長引く咳の原因
それでは長引く咳(慢性咳嗽)の主な原因としてはどのようなものがあるのでしょうか。痰を伴う咳では副鼻腔気管支症候群、慢性気管支炎が多く、痰を伴わない咳では咳喘息やアトピー咳嗽、逆流性食道炎などが主なものです。慢性咳嗽のなかでも我が国では咳喘息がその原因として最も多い(約半数)とされ、アトピー咳嗽、副鼻腔気管支症候群、胃食道逆流症がこれに次いで多い傾向にあります(図2)。
<図2>長引く咳の原因疾患の頻度(文献1の表をもとに図表化)
(元のデータはMatsumoto H, Niimi A, TakemuraM et al. Prevalence and clinical manifestations of gastro-oesophageal reflux-associated chronic cough in the Japanese population. Cough 2007: 3: 1-4.)
4.主な原因疾患の特徴(表1)
長引く咳の中で最も多い咳喘息とは、痰を伴わないで長期間続く咳を唯一の症状とする疾患で、通常の気管支喘息と異なり喘鳴(息を吐くときにヒューという異音がすること)がみられません。咳は寝ている時や早朝に悪化しやすく、季節により症状が悪化することもあります。他にも風邪や冷気、喫煙(受動喫煙も含む)、運動、天候の変化などが増悪因子になります。治療としては喘息に用いるような気管支拡張剤(吸入薬)が有効です。咳喘息の患者さんは数年以内に約30%の頻度で気管支喘息を発症するといわれており、喘息への移行を防ぐためには約2年間治療を継続することが推奨されています。
アトピー咳嗽とは喉の痒みを伴い、痰を伴わない咳を主症状とし、花粉症などのアレルギー疾患を伴うことが多いとされています。咳喘息と異なり気管支喘息への移行はほとんどなく、抗アレルギー剤の内服が有効です。
副鼻腔気管支症候群とは、慢性副鼻腔炎(いわゆる蓄膿症)に気管支の慢性炎症を合併した疾患です。症状としては後鼻漏(鼻汁がのどの方に流れること)・鼻汁・咳払いなどの副鼻腔炎症状に加えて痰を伴う咳が慢性的にみられ、治療としては長期間にわたり抗生物質を内服する方法が一般的です。
胃食道逆流症とは胃酸が食道に逆流することによって胸焼けなどの症状をきたす疾患ですが、長引く咳の原因となり得ます。胃酸が下部食道(胃の入り口近く)にある神経を刺激したり、逆流した胃酸がのどを直接刺激することによって咳が誘発されます。咳は会話や食事、起床、前屈みの姿勢などで悪化し、胸焼けを伴うことが多いとされています。胃酸分泌抑制剤が治療に用いられます。
[ 表1 ] 慢性咳嗽の各原因疾患に特徴的(特異的)な病歴 (文献1より引用) | |
---|---|
咳喘息 | 夜間~早朝の悪化(特に眠れないほどの咳や起坐呼吸)、症状の季節性・変動性 |
アトピー咳嗽 | 症状の季節性、咽頭のイガイガ感や掻痒感、アレルギー疾患の合併(特に花粉症) |
副鼻腔気管支症候群 | 慢性副鼻腔炎の既往・症状、膿性痰の存在 |
胃食道逆流症 | 食道症状の存在、会話時・食後・起床直後・上半身前屈時の悪化 体重増加に伴う悪化、亀背の存在 |
感染後咳嗽 | 上気道炎が先行、徐々にでも自然軽快傾向 (持続期間が短いほど感染後咳嗽の可能性が高くなる) |
慢性気管支炎 | 現喫煙者の湿性咳嗽 |
ACE阻害薬による咳 | 服薬開始後の咳 |
5.おわりに
咳が長く続くと身体・精神面にも与える影響は大きく、会話や睡眠、外出などの日常生活が制限され、ひどい場合は咳による失神がみられることもあります。
咳喘息は慢性咳嗽の原因として最も多い疾患であり、呼吸困難を伴いより重症な病気である気管支喘息への移行を考えると、放置せずに医療機関での治療が必要であるものと考えられます。
また、咳喘息等に比較すれば頻度的には少ないものの、結核や肺気腫・肺がんなどの重要な疾患が慢性的な咳の原因となることもありますので、咳が長引くときは放置せずに、病院を受診し原因検索・適切な治療を受けるようにしましょう。
参考文献:
- 咳嗽に関するガイドライン 第2版 一般社団法人 日本呼吸器学会
- 専門医に学ぶ 成人と小児のための長びく咳の治療指針 -日本呼吸器学会「咳嗽に関するガイドライン第2版」に準拠して 2013年9月26日発行総合医学社 監修 足立満 編集 新実彰男 相良博典 吉原重美
- Matsumoto H, Niimi A, TakemuraM et al. Prevalence and clinical manifestations of gastro-oesophageal reflux-associated chronic cough in the Japanese population. Cough 2007: 3: 1-4.
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