同友会メディカルニュース

2013年5月号
アルコールと消化器疾患について

人間ドック受診者の中にも多量の飲酒をされている方やγGTPなどの肝機能障害を指摘された方も多いと思います。わが国では戦後一貫してアルコール消費量が増加してきていますが、1990年代から横ばいになり、1999年から若干減少傾向となっています。しかしながら依然としてアルコールに関連した肝硬変・食道がん・喉頭がんなどの疾患が多いのも事実です。『常習飲酒家』は一日平均エタノール60g以上、『大酒家』は一日平均エタノール100g以上で5日間以上継続と定義されています(表1)が、日本におよそ240万の大酒家がいると推計されています。飲酒による発がんリスクとして食道がん、咽頭喉頭がん、胃がん(慢性胃炎の進行をすすめる)、直腸癌が知られており、もちろん肝機能障害や膵炎の発症にも直接関与します。一日平均飲酒量は適量なのに一気に大量に飲むような飲み方は発がんというよりは心筋梗塞や脳梗塞による死亡率を増加させます。ここではアルコールについて、消化管疾患との関連とあわせてお話したいと思います。

表1:エタノール60g(過剰飲酒、常習飲酒家)とは

日本酒(15%) 3合
ビール(5%) 500ml×3本
焼酎(25%) 1.8合(330ml)
ウィスキー(43%) ダブル3杯(180ml)
ワイン(14%) 3/4本(約540ml)

昔から知られているように日本人には下戸、上戸がいます。それは体内に入ってきたアルコールを処理する酵素の一つのアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)の働きによるものです。それには人種差・個人差があるのです。日本人は(表2)の通り3種類のALDH2の遺伝子型が知られており、全体の40%くらいはALDH2の遺伝子変異(二つの対の遺伝子のどちらかまたは両方が変異をおこしている)があるといわれています。一方欧米ではほぼ100%がALDH2活性型です。ALDH2ヘテロ欠損型(遺伝子のどちらか一方が変異を起こしている)は、もともとは酒に弱いのに慣れで飲めるようになることが多いです。また血中アセトアルデヒド濃度の急な上昇により、フラッシング反応(すぐ顔が赤くなったり、動悸、気持ち悪くなるなど)や二日酔いが見られます。徐々に飲めるようになることで耐性ができやすいため、一日3合以上の飲酒家の25%、アルコール依存者の15%がこのタイプといわれています。

表2:日本人のALDH2

ALDH2活性型(正常型NN) 50%以上 アルコールに強い
ALDH2ヘテロ欠損型(MN)30-40% アルコールに弱いが慣れれば飲める
ALDH2ホモ欠損型(MM) 5%前後 アルコールが全く飲めない

ALDH2ヘテロ欠損型の人の問題の一つは、活性型に比べて発がんリスクが高まることです。食道がんでは7.12倍の発がんリスクといわれています。耳鼻科系がんも1.6~8.4倍上昇し、多重がんとよばれるように食道と耳鼻科系のがんが合併することも多いです。特に濃いウィスキーなどを薄めずに飲む人、喫煙者はリスクが上がりやすいです。欧米と比較しても決して一人当たりのアルコール消費量は少なくないのでALDH2ヘテロ欠損型の飲酒家は特に発がんに関しては注意が必要です。飲酒でフラッシング反応がでる多量飲酒家の方は、是非内視鏡検査を受けられることをお勧めします。 また、アルコールは肝機能障害を起こします。健診やドックなどで約30%に発見される肝機能障害の大部分は脂肪肝です。アルコール、肥満、糖尿病、脂質異常症などの因子が関係しています。アルコールに関係ない(一日エタノール20g以下)脂肪肝もあり、近年では非アルコール性脂肪肝炎(NASH)など進行性のものがあるので注目されています。

アルコール性肝障害の診断基準は表3の通りで、エタノール60g以上の飲酒家で禁酒によりデータが改善し、他の疾患を否定できていることです。アルコール性肝障害はアルコール性脂肪肝、アルコール性肝線維症、アルコール性肝炎、アルコール性肝硬変の病理診断で病型分類されます。簡単に言うと、アルコール性脂肪肝は肝臓組織の脂肪化で運動や節酒により改善されます。何らかの原因で進行すると肝線維化(肝臓が硬くなる)が起こり、画像や血液データから臨床的に肝硬変と診断されます。もう一つのALDH2ヘテロ欠損者の問題点はアルコール量が少なくても肝障害を起こしやすいことです。女性では2/3程度、ALDH2ヘテロ欠損者では2/3以下でもアルコール肝障害を起こしうることが知られています。 治療としては、アルコールの適量(エタノール20g以下、女性では10g以下)を見直していただくこと、尚且つ体重の減量も重要になります。メタボリック症候群は肝機能の悪化を後押ししますので、適度な運動と食事の制限が必要となります。 ただしアルコール依存者、すでに肝硬変となっている患者、アルコール性慢性膵炎の患者は節酒ではなく必ず断酒しなければいけなせん。アルコール依存者は専門施設での治療が必要です。
この機会に今一度、健康診断データの見直していただき、アルコールの適量を見直して頂くことをおすすめします。

表3:2011年アルコール性肝障害診断基準

1過剰の飲酒 (エタノール60g以上)
※ただし肥満者は60g以下でも、女性やALDH2活性欠損者は2/3程度でも起こしうる
2 禁酒によりγGTP ,AST(GOT),ALT(GPT)が明らかに改善する
3 肝炎ウイルスマーカー、抗核抗体、抗ミトコンドリア抗体いずれも陰性

参考文献:

  • IARC Monographs on Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans :Alcohol beverage consumption and ethyl carbamate IARC,2010
  • Cui R et al: Functional variants in ADH1B and ALDH2 coupled with alcohol and smoking synergistically enhance esophageal cancer risk. Gastroenterology 2009

同友会メディカルニュース / 医療と健康(老友新聞)

同友会メディカルニュース

小石川の健康散歩道

保健師コラム

第44回
がん検診の受診はお済みでしょうか?~NEW
第43回
「座り過ぎ」に要注意!   ~毎日コツコツ、病気予防~
第42回
味噌汁は健康づくりの救世主?!
      ~味噌汁の塩分量と栄養素どっちをとる?~
第41回
食べる・育てる・観る ガーデニングの良いところ
第40回
推しの力!
第39回
炭酸飲料?お茶?あなたは何を飲みますか?
第38回
気になる喉の乾燥の防ぎ方
第37回
香りやにおい、マスク着用の日々だからこそ、意識してみませんか。
第36回
こころを整える 〜リフレーミングをとりいれて〜
第35回
パンダと一緒に健康に!?
第34回
好きな香りはありますか?
第33回
快眠のための寝具について
第32回
マスクと肌トラブル
第31回
腸内環境を整えよう~腸活のススメ~
第30回
手洗い・消毒後は、保湿をセットで手荒れを予防
第29回
心を満たす食卓が鍵
第28回
『コロナ太り』を解消!要因を知って具体的な対策に
第27回
外出自粛期間を乗り切るコツ 運動編
第26回
飛行機内の湿度は砂漠よりも低い?!
第25回
「お料理」のススメ
第24回
階段利用で歩数UP・プチ筋トレ♪
第23回
釣って食べる!海釣りのオススメ~船酔い(乗り物)酔い対策編~
第22回
素敵な和菓子
第21回
『デンタルケアから始める健康管理』
第20回
『気にしていますか? 夜間熱中症』
第19回
本当の血圧はどれくらい? ‐意外と知らない血圧上昇の原因‐
第18回
五感を働かせ、楽しみながらの英語習得!認知症予防にも効果的!?
第17回
「素敵な靴は、素敵な場所に連れて行ってくれる」って本当?!
第16回
今、スポーツ観戦がアツイ!
第15回
釣って食べる!海釣りのオススメ ~運動編~
第14回
太鼓に感動!
第13回
運動前の糖質摂取―大事なのは種類とタイミング―
第12回
体質は遺伝する、習慣は伝染する。
第11回
新生活を迎える時ほど大切に!家族・身近な相手とのコミュニケーション
第10回
もっと気軽に健康相談♪
第9回
食材で季節を感じてみませんか?
第8回
夏の日差しを楽しむために
第7回
休日は緑を求めて…
第6回
お風呂好きは日本人だけ?
第5回
気分の高揚を求めて
第4回
みなさん、趣味はありますか?
第3回
休み明けの朝だってすっきりさわやか、そんな生活への...
第2回
忙しい日々こそ、1日をふりかえること。
第1回
少しの工夫で散歩が変わる!

お元気ですか

季刊誌 お元気ですか

2024年10月号
  • 私の健康法
    ゴルフトーナメントプロデューサー 戸張 捷さん
  • 鼠径ヘルニアについて
    順天堂大学医学部附属順天堂医院
    大腸・肛門外科 助教 雨宮 浩太
    ドクターによる健康に役立つ医学情報をご紹介いたします。
  • 糖尿病について考えてみませんか?
  • 自宅でできる足の筋力トレーニング
  • 更年期の女性だけじゃない?「更年期障害」
  • 春日クリニック 特別ドック2024年4月1日フロアリニューアル

ページトップ