同友会メディカルニュース

2022年6月号
リキッドバイオプシーの現状と未来

リキッドバイオプシーとは、患者から血液などの体液を採取し、その中に含まれているがん細胞や、がん細胞由来の物質を解析する技術です。「リキッド」は「液体」、「バイオプシー」は「生検(せいけん)」を指します。現在、国内で薬事承認および保険適応を受けているリキッドバイオプシーは、4種類です。
今回は、リキッドバイオプシーについて解説させて頂きます。

1.リキッドバイオプシーとは

リキッドバイオプシーとは、血液などの体液を利用して、その中に含まれている血中循環腫瘍細胞、血中循環腫瘍DNA、血中循環腫瘍RNA、エクソソーム(細胞外小胞)などの解析を行う技術です。
「エクソソーム」につきましては、同友会メディカルニュース2021年3月号をご参照下さい。
リキッドバイオプシーの解析対象には、血液だけでなく、尿や唾液、胸水なども含まれます。従来の腫瘍に対する生検とは異なり、患者への負担をかけずに、または患者への負担を少なく、検体を採取することができ、しかも繰り返し採取できるのが特徴です。
リキッドバイオプシーのなかでも、血中循環腫瘍DNA解析の研究が盛んに行われています。

2.血液循環腫瘍DNAの解析技術

血中循環腫瘍DNAの検出には、高感度の解析技術が必要であり、PCR法や次世代シークエンサーが用いられています。
「次世代シークエンサー」につきましては、同友会メディカルニュース2012年7月号をご参照下さい。
PCR法を用いたリキッドバイオプシーには、コバスEGFR変異検出キットv2.0とOncoBEAM RAS CRCキットがあります。PCR法による検査は、コストが低く簡便であるため広く用いられていますが、PCR法は既知の変異のみを解析するため、既知の変異以外も含めた網羅的な解析には、次世代シークエンサーが必要です。
次世代シークエンサーを用いたリキッドバイオプシーとしては、Archer METコンパニオン診断システムとFoundationOne Liquid CDxが挙げられます。

3.リキッドバイオプシーの臨床での利用

現在、国内で薬事承認および保険適応を受けているリキッドバイオプシーは、コバスEGFR変異検出キットv2.0、Archer METコンパニオン診断システム、OncoBEAM RAS CRCキット、FoundationOne Liquid CDxの4種類です。

〔表1〕 代表的なリキッドバイオプシー
名称 がんの種類 対象遺伝子 保険適応日
コバスEGFR変異検出キットv2.0 非小細胞肺がん EGFR 2018年1月1日
Archer METコンパニオン診断システム 非小細胞肺がん MET 2020年6月1日
OncoBEAM RAS CRCキット 大腸がん KRAS,NRAS 2020年8月1日
FoundationOne Liquid CDx 固形がん 324遺伝子 2021年8月1日

肺がんを例に説明します。肺がんには、「組織型(そしきけい)」という分け方があります。患者から取り出したがん細胞を、病理医が顕微鏡で確認し診断しますが、がん細胞の形や集まり方などをもとに分類したのが組織型です。肺がんは、まず「小細胞がん」と「非小細胞がん」に分けられます。それぞれに特徴があり、小細胞がんは転移しやすい特徴を持ちます。非小細胞がんは、さらに「扁平上皮がん」、「腺がん」、「大細胞がん」に分類されます。

以前は、臓器別または組織型別に、使用される抗がん剤が決められていました。ところが、それぞれの患者のがん細胞を次世代シークエンサーで調べますと、がん細胞が持つ遺伝子異常のタイプの違いによって分類することができるようになりました。同じ組織型のがんでも、遺伝子異常のタイプが違えば、効く薬が異なる可能性が高いです。
例えば、ある肺がん患者では、がん細胞の表面に現れる上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor : EGFR)という蛋白質を作り出す遺伝子の一部が変異していたとします。肺がんの患者を、EGFRの遺伝子変異を持つ患者、METの遺伝子変異を持つ患者というように「遺伝子異常別」に分類し、それぞれの遺伝子異常に最も合う薬を投与します。遺伝子検査によって、効く薬と効かない薬をあらかじめ判別することができれば、患者が効果のない治療を受けなくて済むことになり、そのメリットはとても大きく、また、医療費の削減にもつながることが期待されます。

4.リキッドバイオプシーの診断精度

がんの遺伝子検査において、リキッドバイオプシーが腫瘍組織を用いた検査にとって代わるためには、その診断精度が非常に重要です。非小細胞肺がんのEGFR遺伝子変異について、リキッドバイオプシーによる遺伝子解析と腫瘍組織を用いた遺伝子解析の結果が、比較検討されています。
EGFR遺伝子変異の検出精度についての複数の報告をまとめますと、腫瘍組織を用いた遺伝子解析に対するリキッドバイオプシーによる遺伝子解析の特異度(陰性一致率)は96~100%と良好ですが、感度(陽性一致率)は59~90%と報告によって様々でした。

〔表2〕 EGFR遺伝子変異における腫瘍組織に対するリキッドバイオプシーの検査性能
検出法 感度(%) 特異度(%)
PCR法 59~90 96~100
次世代シークエンサー 62~90 99~100

以上より、リキッドバイオプシーによる遺伝子異常の検出は、特異度が高いものの、感度は十分とは言えませんでした。したがって、現在のリキッドバイオプシーによる解析では、偽陰性(本当は体内にがんが存在するのに、検査結果は陰性と出てしまう)の可能性があることに注意が必要です。

5.まとめ

リキッドバイオプシーによる遺伝子解析は、技術改良により、検出精度がさらに向上していくと予想されます。
また、将来的には、人間ドックや医療機関などにおいて、少量の血液や尿などの検体をリキッドバイオプシーで解析することにより、様々な「がん」を早期に発見することが期待されています。

参考文献

  • 由上 博喜: リキッドバイオプシーの概要とゲノム医療の可能性. Precision Medicine 4: 1106-1109, 2021.
  • 杉本 亮: 肺がんにおけるリキッドバイオプシーの現状と未来. Precision Medicine 4: 1114-1117, 2021.
  • 西田 昌弘: OncoBEAM RAS CRCキットによる遺伝子検査. Precision Medicine 4: 1136-1139, 2021.
  • 國廣 宜也: FoundationOne Liquid CDx がんゲノムプロファイルの製品概要. Precision Medicine 4: 1144-1148, 2021.
  • Bando H, et al.: A multicenter, Prospective study of plasma circulating tumour DNA test for detecting RAS mutation in patients with metastatic colorectal cancer. British Journal of Cancer 120: 982-986, 2019
  • Rolfo C, et al.: Liquid Biopsy for Advanced Non-Small Cell Lung Cancer (NSCLC): A Statement Paper from the IASLC. J Thorac Onco 13 (9) : 1248-1268, 2018.

参考サイト

同友会メディカルニュース / 医療と健康(老友新聞)

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