同友会メディカルニュース

2020年9月号
コロナ禍の今だからこそ、ウォーキングの価値を見直しましょう

この原稿を書かせて頂いている今現在も新型コロナウイルスの猛威は続いており、私たちはこれまでの常識とは大きく異なる新しい生活様式(ニューノーマル)の受け入れを迫られています。このことは仕事や他者との関わり方もさることながら、健康管理面においても例外ではありません。皆さんの中には、これまでスポーツジムに足繁く通っていたけれど最近は御無沙汰になってしまったとか、マラソンイベント参加がライフワークだったけれど悉く中止になって走る機会がめっきり減ってしまった、そうでなくてもただでさえ家にこもりがちで体重が増えてしまった(いわゆる”コロナ太り”)という方も多いのではないでしょうか。かくいう筆者も最近はズボンが少しきつくなってしまいました。

生命保険会社が5月に男女1,000人を対象に実施した「新型コロナウイルスによる生活と意識の変化に関する調査」1)でも、「運動不足だと感じている」方が実に71.7%、「最近、体力が落ちたと感じている」方が59.7%、「体重が増えたと感じている」方も52.0%と過半数を超え、そうした中で「運動不足の解消方法がわからない」方が 42.9%に達するなど、多くの方において運動量が低下し新しい健康管理法の模索が続いている様子が伺えます。

これまで推奨されていた運動を急に手の平を返したようにあれはダメ、これも危ないと言われてしまうとどうしたらいいのか困ってしまうのは当然の事ですが、これだけ社会常識が揺らぐ中でも実はウォーキングの普遍的価値は変わってはいません。新型コロナウイルス感染症対策本部による「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」でも、「屋外での運動や散歩等」は「生活の維持に必要なもの」として自粛の対象外とされています。ウォーキングの意義をもう一度見直すには良い機会ではないかと思い、代表的な最近の研究報告をいくつか御紹介させて頂きます。

一つ目は国際的な医学雑誌であるJAMA(Journal of the Amarican Medical Association)に今年3月に掲載された論文2)です。これまでも生活習慣病の患者や高齢者を対象とした大規模研究はいくつかありましたが、本研究は40歳以上(平均56.8歳)の一般的な男女4,840人を対象に、平均10.1年に渡って追跡調査した結果を分析したものです。これによると、1日4,000歩のグループを基準にすると、がんによる死亡は16,000歩まで減少が続くのに対して、心血管疾患による死亡は12,000歩を超えたあたりからなだらかになり、総死亡も同様の傾向であることが分かります(図1)。総じて4,000歩~12,000歩の間は歩いた分だけ効果の上乗せが期待できますが、それ以上は頑張り過ぎても死亡率を下げる効果は限定的なようです。また早く歩くことを推奨する意見もありますが、本研究では歩行強度と死亡リスクとの間に有意な関係は認められませんでした。

〔図1〕 一日あたりの歩数と死亡リスクの変化

一日あたりの歩数と死亡リスクの変化

続いて、わが国でも群馬県吾妻郡中之条町の65歳以上の高齢者5,000人(重度の認知症や寝たきりの人は除く)を対象に、15年以上に渡って追跡がなされている中之条研究というものがあります3)。この研究では歩数と中強度(3~5METs:METsは運動強度を示す指標)の活動時間が多くなるほど様々な病気の有病率が低い事が示されましたが、先のJAMAの死亡率減少効果同様、病気の予防効果においても一日12,000歩、中強度活動時間40分で頭打ちになりました。過ぎたるは及ばざるがごとしで、過度な運動は関節や筋肉を傷つけ、また一時的に免疫力を下げてしまうと考えられています。中之条研究ではそれぞれの病気ごとの予防に有効な歩数と中強度活動時間も分析されていて、うつ病の予防であれば4,000歩・5分以上で効果が認められるのに対して、高血圧・糖尿病・脂質異常症の予防改善のためには8,000歩・20分、更に75歳未満のメタボリックシンドロームの予防には10,000歩・30分以上が必要であることが明らかにされています(図2)。最近は「コロナうつ」「自粛うつ」「テレワークうつ」といった言葉も聞かれますが、気分転換に少しでも外に出て歩くことでうつ病の予防に効果が期待できそうです。

〔図2〕 一日あたりの歩数・中強度活動時間と、予防(改善)できる病態・疾患
歩数 中強度活動 予防できる病態・疾患
2,000歩 0分 ・寝たきり
4,000歩 5分 ・うつ病
5,000歩 7.5分 ・要支援/要介護・認知症(血管性認知症、アルツハイマー病)・心疾患(狭心症、心筋梗塞)・脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)
7,000歩 15分 ・がん(結腸がん、直腸がん、肺がん、乳がん、子宮内膜がん)・動脈硬化 ・骨粗鬆症 ・骨折
7,500歩 17.5分 ・筋減少症 ・体力の低下(特に75歳以上の下肢筋力や歩行速度)
8,000歩 20分 ・高血圧症 ・糖尿病 ・脂質異常症 ・メタボリックシンドローム(75歳以上)
9,000歩 25分 ・高血圧(正常高値血圧) ・高血糖
10,000歩 30分 ・メタボリックシンドローム(75歳未満)
12,000歩 40分 ・肥満

ウォーキングは自粛の対象外とはいっても、やはり新しい生活様式においては一定のソーシャルディスタンスを確保し、また人の近くを通る時はマスクをするエチケットはあった方がお互い安心して取り組むことが出来そうです。また時節柄、熱中症には十分気を付けて時間帯を選び、こまめな水分補給と暑熱の回避に努めた方がいいでしょう。

今回コロナ禍に直面して、自然の猛威を前にした時の人間の非力さを感じた方もいらっしゃるかもしれませんが、暗いニュースが続く中でよく目を凝らしてみると、最近スーパーコンピューターの世界ランキングで1位になった「富岳(ふがく)」はかつての「京(けい)」が1年かかる実験を数日でこなす力を誇り、実際に2,000種類超の新型コロナ治療薬候補をわずか10日で選別したと報道がありました。次世代シーケンサーによる新型コロナウイルスの全ゲノム解析やAIを活用した感染分布・遺伝子変異の予測、これまでの常識を打ち破るスケジュールで進むワクチン開発など、人類の英知も着実に「進歩」しています。明けない夜はない、夜明け前が一番暗いともいいますし、今回の危機も遠からず克服される時を信じて、私達も自らの足を使って一歩ずつ前に歩みを進めながら吉報を待つことに致しましょう。

同友会からのご案内

参考文献

  • 株式会社第一生命経済研究所 第2回新型コロナウイルスによる生活と意識の変化に関する調査(健康編)2020年5月26日
    http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/ldi/2020/news2005_04.pdf
  • Saint-Maurice PF, et al. Association of Daily Step Count and Step Intensity With Mortality Among US Adults. JAMA. 2020; 323 (12): 1151-1160.
  • 中之条研究 : 高齢者の日常身体活動と健康に関する学際的研究 (高齢者コホート研究の最新成果) The Nakanojo Study : an interdisciplinary study in the habitual physical activity and health of elderly people. 医学のあゆみ 253(9), 793-798, 2015-05-30 医歯薬出版

同友会メディカルニュース / 医療と健康(老友新聞)

同友会メディカルニュース

食事プラスワン

栄養士コラム

第36回
中性脂肪改善のためには・・・NEW
第35回
食物繊維
第34回
夏に気を付けたい食中毒
第33回
肝臓を守る習慣
第32回
乳製品とLDLコレステロール
第31回
中食や外食の活用【コンビニ・スーパー】
第30回
休肝日を作ろう
第29回
熱中症に要注意
第28回
間食を見直そう
第27回
食べ物の消化時間
第26回
食事のバランスを整えよう
第25回
体重を測ろう
第24回
免疫力を高める
第23回
朝食をとろう
第22回
1日の目標塩分摂取量
第21回
上手な鉄分の摂り方
第20回
カラダに良い油・悪い油
第19回
歯の定期健診も受けていますか?
第18回
食事バランス
第17回
運動でカロリーを減らすには
第16回
関節の痛みには・・・
第15回
骨を丈夫に!
第14回
ごはんを適量食べる!
第13回
野菜プラスキャンペーン開始!
第12回
「お豆腐」食べ過ぎ注意報!
第11回
表示をよく見て、飲もう!
第10回
おでんの選び方。
第9回
くだものも、適量を食べる!
第8回
牛乳はどのくらい飲んでいますか。
第7回
早食いも、食事バランスも改善!
第6回
夜遅い食事が気になる人へ
第5回
お酒が気になる人へ
第4回
菓子パンの食事を改善!
第3回
アブラ料理もおいしく食べる!
第2回
おつまみ選びの達人に!
第1回
めんの時もバランスよく!

小石川の健康散歩道

保健師コラム

第52回
暑い日の一杯、飲み方を工夫して健康に!NEW
第51回
疲れた時こそ注意!帯状疱疹から体を守るために
第50回
花粉症を乗り切るために
第49回
光と睡眠の関係 ~季節の変わり目こそ、光の整え方がカギ~
第48回
夏の疲れを秋に持ち越さない! ~いまから始めるリカバリー習慣~
第47回
「朝食の効果」~まずは1品から始めてみませんか~
第46回
ヘッドホン難聴(イヤホン難聴)を知っていますか?
第45回
なりたい自分の第一歩、考えてみませんか?
第44回
がん検診の受診はお済みでしょうか?
第43回
「座り過ぎ」に要注意!   ~毎日コツコツ、病気予防~
第42回
味噌汁は健康づくりの救世主?!~味噌汁の塩分量と栄養素どっちをとる?~
第41回
食べる・育てる・観る ガーデニングの良いところ
第40回
推しの力!
第39回
炭酸飲料?お茶?あなたは何を飲みますか?
第38回
気になる喉の乾燥の防ぎ方
第37回
香りやにおい、マスク着用の日々だからこそ、意識してみませんか。
第36回
こころを整える 〜リフレーミングをとりいれて〜
第35回
パンダと一緒に健康に!?
第34回
好きな香りはありますか?
第33回
快眠のための寝具について
第32回
マスクと肌トラブル
第31回
腸内環境を整えよう~腸活のススメ~
第30回
手洗い・消毒後は、保湿をセットで手荒れを予防
第29回
心を満たす食卓が鍵
第28回
『コロナ太り』を解消!要因を知って具体的な対策に
第27回
外出自粛期間を乗り切るコツ 運動編
第26回
飛行機内の湿度は砂漠よりも低い?!
第25回
「お料理」のススメ
第24回
階段利用で歩数UP・プチ筋トレ♪
第23回
釣って食べる!海釣りのオススメ~船酔い(乗り物)酔い対策編~
第22回
素敵な和菓子
第21回
『デンタルケアから始める健康管理』
第20回
『気にしていますか? 夜間熱中症』
第19回
本当の血圧はどれくらい? ‐意外と知らない血圧上昇の原因‐
第18回
五感を働かせ、楽しみながらの英語習得!認知症予防にも効果的!?
第17回
「素敵な靴は、素敵な場所に連れて行ってくれる」って本当?!
第16回
今、スポーツ観戦がアツイ!
第15回
釣って食べる!海釣りのオススメ ~運動編~
第14回
太鼓に感動!
第13回
運動前の糖質摂取―大事なのは種類とタイミング―
第12回
体質は遺伝する、習慣は伝染する。
第11回
新生活を迎える時ほど大切に!家族・身近な相手とのコミュニケーション
第10回
もっと気軽に健康相談♪
第9回
食材で季節を感じてみませんか?
第8回
夏の日差しを楽しむために
第7回
休日は緑を求めて…
第6回
お風呂好きは日本人だけ?
第5回
気分の高揚を求めて
第4回
みなさん、趣味はありますか?
第3回
休み明けの朝だってすっきりさわやか、そんな生活への...
第2回
忙しい日々こそ、1日をふりかえること。
第1回
少しの工夫で散歩が変わる!

お元気ですか

季刊誌 お元気ですか

2026年10月号
  • 私の健康法
    歌手 由紀さおりさん
  • 侮れない貧血~鉄欠乏性貧血を中心に~
    国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 血液内科 三ツ木 崇
  • 楽しく過ごす、会食対策
  • 腹囲引き締め筋力トレーニング その6
  • 健康を支える筋力づくり
  • 春日クリニックで受診する ハイグレードな検査のご案内

ページトップ