同友会メディカルニュース

2022年7月号
便秘症について

1.はじめに

便秘症は比較的多くの方にみられる症状ですが、60歳以上になると急激に有症状率が増加するといわれています。超高齢化社会が問題となる日本において、便秘症とその対策を知ることは重要であると考えられます。そこで今回は便秘症についてお話しいたします。

2.便秘症とは

「便秘」とは正確にはどのような状態を指すのでしょうか。慢性便秘症の診療ガイドラインでは便秘とは「体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」とされ、便秘に伴い検査や治療を要する状態を「便秘症」としています。もう少し具体的に表現すると「排便回数の減少」か「排便困難を認める場合」を便秘といいます。排便回数の減少については週に3回未満とされ、排便困難は残便感、いきみ(怒責)、肛門部の閉塞感など硬い便が出るときのような症状を指します。

3.便秘症の分類と注意すべき状態

便秘症はその原因によって原発性と続発性に分けられます。
原発性は腸管の器質的な異常(大腸がんや大腸狭窄など)や原因となる疾患を認めないもの、続発性は器質的な異常もしくは原因となる疾患を認めるものです。

続発性の便秘症には大腸がんや炎症による大腸狭窄など大腸の形態的な異常を伴う器質性便秘と、糖尿病・甲状腺機能低下・パーキンソン病などの全身的な基礎疾患が原因となる症候性便秘、薬剤の副作用による薬剤性便秘があります。症候性便秘は基礎疾患の治療で、薬剤性は原因薬剤を中止することで便秘が改善する可能性があります。大腸の狭窄を伴う大腸がんや炎症性腸疾患などの器質性便秘は手術等の特殊な治療が必要となるため、その診断が重要です。そのためには大腸内視鏡検査やバリウムによる注腸造影検査といった検査が必要ですが、いずれもかなりの負担がかかる検査のため便秘症の方すべてに検査を行うことは勧められません。器質性便秘が疑われる場合、つまり①継続する発熱や体重減少がある②排便習慣の急激な変化がある③血便がある④50歳以上である⑤大腸がんの家族歴がある、等の場合に検査を行うことが勧められます。

4.原発性便秘症の治療

これまでの便秘症の治療は主に排便回数の改善に注目していましたが、近年は「便形状の正常化」を目指した治療が行われるように変化しています。排便回数の改善のみでは便が硬いままでいきみが改善しない等、満足の得られる排便状態ではない場合を見落としてしまうため、便の形状を評価することが重要であると考えられています。

具体的には図1に示すブリストル便形状スケールのタイプ4を目指し、まずは食事や運動等、生活習慣の改善が重要です。朝食を摂取することによる腸運動の活性化、食物繊維と水分の摂取、適度な運動(ウォーキング・階段の昇降・ラジオ体操等)、前傾姿勢(便を出しやすくする体位)で排便をする習慣をつける等を行います。

これらに注意しても便秘が改善しない場合は様々な下剤を使用しますが、下剤の種類にも注意が必要です。下剤は大きく分けて便の形状を変化させる薬と大腸の運動を刺激する薬とがありますが(表1)、浸透圧性下剤や分泌性下剤といった下剤を中心に使用して便の形状の安定化を目指します。これらの下剤によって便が軟化しても強いいきみが残る場合は排便時に働く骨盤筋の協調運動障害等の特殊な病態が疑われ、その診断には専門的な検査や治療が必要となります。下剤のうち刺激性下剤は作用が強力ですが腹痛を伴うことや長期間の使用により腸管の運動低下や拡張を引き起こすとされています。そのため漫然と使用すべきではなく、一時的に排便コントロールが悪化した場合などの頓服薬として使用することが望ましいと考えられます。

5.便秘症を治療する意義

便秘症は生活の質を下げるだけでなく、排便時のいきみなどが血圧の急上昇を引き起こし心血管疾患の発症のリスクとなります。他にも体内の腸内細菌の変化により腎毒性物質が産生され腎機能障害が進行する原因となること、高齢者では便秘による食欲低下がサルコペニア・フレイルなど体力低下の原因となりうることが報告されており、国外の疫学調査では便秘症の方の生命予後が悪いことが明らかとなっています。このことからも「便秘症は適切な治療が必要な病気である」と考えられます。

〔図1〕 ブリストル便形状スケール

アテ文献4(慢性便秘症診療ガイドライン 2017 南江堂) p42より引用
元文献は( O’Donnell LJD. Et al: Detection of pseudodiarrhoea by simple clinical assessment of intestinal transit rate. Br Med J 1990; 300: 439-440 Longstreth GF, et al: Functional bowel disorder. Gastroenterology 2006; 130: 1480-1491)

〔表1〕 下剤の種類と効果
種類 効果 代表的薬剤名
浸透圧性下剤 浸透圧による腸管内水分増加
→便軟化
酸化マグネシウム
ラクツロース
マクロゴール
分泌性下剤 腸液分泌増加
→便軟化
ルビプロストン
リナクロチド
刺激性下剤 腸管運動促進 センノシド
センナ
ピコスルファート
胆汁酸トランスポーター
阻害薬
胆汁増加による便軟化
+腸管運動促進
エロビキシバット
文献3(内科臨床誌 medicina 特集 患者満足度の高い便秘診療 vol.57 No.9 2020年8月)p1554を参考に作成

参考文献

  • なぜ?どうする?がわかる!便秘症の診かたと治しかた 南江堂 中島 淳編集2019年
  • 臨床雑誌 内科 特集 便秘・下痢 医師必見のUp-to-Date 2020 南江堂 Vol.126 No.1 2020
  • 内科臨床誌 medicina 特集 患者満足度の高い便秘診療 医学書院 Vol.57 No.9 2020.8月
  • 慢性便秘症 診療ガイドライン 2017 日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会 編集 南江堂

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