同友会メディカルニュース

2025年8月号
身長が縮んだ!と感じた方へ

1.はじめに

身長が縮んだ!と感じた方へ人間ドックの検査結果を説明すると、「また身長が縮んでる……」と嘆く受診者が時々いらっしゃいます。1回低くても「1日の中で変動すると言うし、たまたまかな」と思いますが、数年間の経時的データを前にすると、明らかに身長が低下してきていることに気付くのです。身長短縮は高齢者に起きるもの、というイメージがあるかもしれませんが、実は中年から始まっており、避けることはできない変化です。今回はこの身長短縮について解説します。

2.なぜ身長が縮むのか

身長が縮むメカニズムについてはいろいろ報告されておりますが、主に

  • ① 椎間板の圧縮
  • ② 骨密度の低下
  • ③ 関節の変形
  • ④ 骨格筋量の減少

が組み合わさって発生すると言われています。
早いと40代から、一般的には50代から始まると報告されており1)2)、男性より女性のほうが短縮しやすく、特に女性は60代から短縮のスピードが増していきます3)
米国の国立老化研究所からの報告では、35年間に登録された17~94歳の男女2084人を追跡したところ、30歳から70歳の間に平均で男性は3cm、女性は5cm、80歳までには男性は5cm、女性は8cm身長が縮んだことがわかりました4)

3.さらに詳しく

① 椎間板の圧縮

椎間板は背骨と背骨の間にありますが、その中心には髄核というゼリー状の組織があります。髄核の主要成分はプロテオグリカンという糖タンパクで、水分を保ち、クッション性を高める働きをしています。冒頭でも触れましたが、朝と夕方では身長が1%前後変化します。これは立ったり座ったりすると重力で髄核が圧迫され、プロテオグリカンから水分が出ていくことによるものです。夜寝ている間に水分を吸収し、朝には身長が戻っています。

その髄核ですが、加齢によってプロテオグリカンの量が減っていき、椎間板の水分量も減少します。その結果、椎間板が薄くなってしまい、身長が低下してしまいます5)。椎間板自体には再生能力がないため、劣化を元に戻すことはできませんが、現在iPS細胞を用いた細胞移植による再生医療が研究されています6)

アテ

② 骨密度の低下

加齢に伴い、腸からのカルシウムの吸収が低下します。また、女性ホルモンの低下により尿に出ていくカルシウムの量が増えるため、高齢になるとカルシウム不足をきたしやすくなります。さらに、年をとると日光に当たることが少なくなる方が多く、カルシウムの吸収に関わるビタミンDも不足しやすくなります。その結果、骨密度が低下してしまいます。男性も女性ほど急激ではありませんが、加齢に伴い骨粗鬆症をきたします。そうなると、軽く転んだだけでも椎体(背骨)の圧迫骨折を起こしやすくなったり、円背(猫背)が進行したりして、身長が縮む原因となってしまいます。骨粗鬆症を早期に発見するための検査や治療はとても重要で、過去の同友会メディカルニュースでも解説しておりますので、ぜひご参照ください(2016年9月号 2012年4月号)。

また、2025年5月号では瘦せている女性は将来骨粗鬆症になりやすく、すでに20代で骨粗鬆症を発症している可能性があることも言及していますので、併せてご覧ください。

③ 関節の変形

変形性関節症とは、何らかの原因で関節の軟骨がすり減ったりささくれ立ってしまい、関節の痛みや動かしにくさなどが出現する病気です。中高年の女性に多く、膝や股関節が有名ですが、特に身長の短縮と関係が深いのは膝関節です。椎間板と同様、膝関節の軟骨の水分量も加齢とともに減少し、弾力性も低下します。肥満も大きなリスクですが、遺伝的素因、外傷や感染が悪化させることもあります。歩くときには膝の内側のほうが外側よりも負担が大きいため、変形性膝関節症の95%以上が内側の関節の障害で、進行するとO脚を合併して身長が短縮してしまいます。

治療方法には薬物療法、運動療法、装具使用といった保存療法と、骨切り術や人工膝関節置換術といった手術療法があります7)

太ももの筋肉を鍛える、正座を避ける、適正な体重を維持する、血行を良くするといった予防が大切ですが、もし膝関節に痛みを感じたら早めに整形外科を受診してください。

④ 骨格筋量の減少

大腰筋、脊柱起立筋、腹筋、ヒラメ筋といった骨格筋は姿勢の維持に重要ですが、50歳ごろから80歳までに約40%減少すると言われています8)。その結果、円背(猫背)が進行し、身長が大きく短縮します。すると重度の逆流性食道炎が起きやすくなったり、転倒・骨折のリスクが高くなってしまいます。運動療法によって円背が改善したという報告も散見されるので9)10)、早期からの積極的かつ継続的な治療が望まれます。

また、スマートフォンが普及し、猫背で画面を見ながら歩いている若者をよく目にしますが、こういった日常生活での不良姿勢も将来の大きなリスクになると思われます。普段から正しい姿勢を心掛ける必要があるでしょう。

同友会メディカルニュース2017年8月号ではサルコペニア(加齢性筋肉減弱現象)を取り上げました。診断方法や予防法について解説していますので、こちらもぜひご参照ください。

4.終わりに

加齢による身長短縮は誰にでも起こることですが、正しい知識を持つことにより早期から骨密度や筋量、適正体重の維持のための運動や食生活習慣の見直しにつながり、特に女性の健康寿命が延伸すると思われます。将来のQOLを上げるために、今から頑張りましょう。

参考文献・サイト

  • Iwasakiら:Association between height loss and mortality in the general population:Scientific Reports. 2023 ; 13 : 3593
  • 川谷真由美ら:日本人の高齢者の身長の短縮に関する研究~10年スライド法による検討~:島根県立大学短期大学部松江キャンパス研究紀要. 2015 ; 53 : 85-90
  • 細江英夫ら:加齢による身長低下に関する調査:中部整災誌. 2012 ; 55 : 293-294
  • SorkinJ.D.ら:Longitudinal change in height of men and women: implications for interpretation of the body mass index: the Baltimore Longitudinal Study of Aging:American Journal of Epidemiology. 1999 ; 159 : 969-77
  • 荻澤宏樹ら:iPS細胞を用いた椎間板再生治療の現状と展望:脊椎脊髄ジャーナル. 2023 : 36 : 53-59
  • 酒井大輔:椎間板の微小環境:臨床整形外科. 2019 ; 54 : 196-199
  • 日本整形外科学会ホームページ「変形性膝関節症」(https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/knee_osteoarthritis.html
  • Lexell J.:Human aging, muscle mass, and fiber type composition:J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 1995 ; 50 : 11-16
  • 山下圭彦ら:運動療法により高齢者の円背姿勢は改善するか:理学療法学. 2006 ; 33 Suppl. No.2
  • 渡邉和之ら:姿勢変化と骨粗鬆症~メカニズムとマネジメントの実際~:最新医学. 2018 ; 73 : 106-111

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