季刊誌「お元気ですか」アーカイブ

2023年7月号

田崎真也さん

「私の健康法」

人生を楽しむための「食時」。
それこそが人間らしさではないでしょうか。

ソムリエ
田崎真也さん

――今回はソムリエの田崎真也さんにご登場をいただきました。1983年に全国ソムリエ最高技術賞コンクールに優勝。そして1995年に第8回世界最優秀ソムリエコンクールで日本人初の優勝を成し遂げ、日本にワインブームをもたらした立役者である田崎さんに、ソムリエを目指すきっかけやご自身の健康法についてお話いただきました。

きっかけはお客様からの
「ありがとう」の言葉

 私がソムリエを目指すきっかけになったのは、学生の時に初めて飲食店のアルバイトをした時のことです。飲食の仕事をしていると、お客様が食事を終えてお金を払う際、ご馳走様の後に「ありがとう」と言って帰られる。お金を払う側が「ありがとう」と言うことが非常に不思議で、それがだんだんと心地よく感じるようになりました。
 飲食の仕事でトップを目指そうと決め、最初は料理人から入りましたが、やっぱり「ありがとう」という言葉を直接言われるフロアでのサービスの仕事、とくに高級フランス料理店では男性がフロアサービスをするポジションがあることを知って、すぐに紹介していただいたんです。ソムリエを目指すというよりも、フロアサービスの世界で頂点を目指そうと思いました。

日本でもワインが日常に
そう確信してフランスへ

 この世界で頂点を目指すには、やっぱりワインを覚えるしかない。その頃の日本では、まだワインに関して勉強するためのツールが無かったんです。本も1~2冊しか無かったですし、ワイン自体も、良いコンディションのものが日本に入ってくることも少なかったんです。
 ワインを覚えることは将来的にも相当プラスになるだろうし、日本でもヨーロッパのようにワインを日常的に飲む習慣っていうのが必ず来るんじゃないかって感じていました。フランス料理の世界で頂点を目指すためにはフランスの食文化を肌で感じる必要がある。そのためにはやはりフランスに渡ることを決意したんです。そしてせっかくフランスに来たのなら、なにかタイトルを持って帰ろうと思って、ワインスクールに通ってソムリエ講座を受けたんです。当時はまだ10代でしたから、ワイン好きになったのはそれからずいぶん後の話ですね。

「ソムリエ」という言葉が
日本国内で広まった瞬間

 たまたまというか、チャンスというか、日本で初めてソムリエのコンクールが開かれた時にフランスから戻ってきたんです。せっかくだからそのコンクールに出てみようと思ったのですが、当然1回目で負けてしまい、それが悔しくてトレーニングに励み、その甲斐あって優勝することができました。
 ただ、日本で優勝しても、ソムリエの世界から見ると日本のレベルはまだまだすごく低かったんです。当時の日本は「ソムリエ」と聞いても誰も知らない、ワインの飲み方すらわからないような時代でしたので。目指すなら世界大会しかない。もちろん日本人はまだ誰も出たことがないので、なんとか出られるチャンスを自分で作りました。何度も挑戦しましたが、やはり世界の壁は厚く駄目だったんですけど、最後の挑戦の場が日本だったんです。ヨーロッパ以外で初めて行われた世界大会。僕自身もこれで最後の世界コンクールチャレンジにすると一生懸命トレーニングして、そこで優勝できたんです。本場フランスからしてみれば、歴代フランス人が優勝していたのに、それがドイツ人でもなくイタリア人でもなく、いきなり日本人ですから相当のスキャンダルでした。フランスのいわゆる5大紙でも報道されました。「日本人が優勝した」ではなく「フランス人が負けた」と。そこから日本国内でも「ソムリエ」というワードが広がりましたね。

食事の時間を楽しむために
体調には気を付けています

 食べる、飲むということが仕事ですので、 体重や体脂肪、コレステロール、中性脂肪、そして肝機能についてはとくに頻繁にチェックしています。3か月に1回くらい検査をして、2年に1回はPET検査も受けています。最近は年に1回くらいのペースで内視鏡検査も行っています。やはり大腸や食道のダメージが気になりますからね。
 体脂肪を増やさないようにすることを基本にしています。脂肪肝になると肝機能レベルが低くなって、そこでアルコールを飲むとさらに肝機能が低下してしまうという話を伺っていますので。
 45歳くらいだったでしょうか、体重がどんどん増えた時期がありまして、当然それにつられて色々な数値も悪くなって、どうしようかと思いました。人にアルコールをすすめるのが仕事ですし、よく「どれくらい飲んだらよいのですか?」「お酒はいつも飲まれるのですか?」と質問されることもあるので、良い数値をキープするにはどうすればいいかと考え、とりあえず低炭水化物ダイエットをしてみようと思って挑戦したんです。もちろん世の中に「炭水化物ダイエット」というものが出てくる以前のお話です。
 フォアグラってありますよね。脂肪肝というのはフォアグラ状態で、どうやって作るかというと、ガチョウに一日中穀物を与えて、肝臓はもちろん、皮下脂肪も含めて全体的に太らせる訳です。そうしてフォアグラを作るのですが、それなら逆の事をすればいいと考えました。
 ちょっと急激だったんですが、2か月くらいで全部の数値が正常になり、体脂肪も37%くらいあったものが20%まで下がり、体重も20kgくらい落ちました。そうしたらお酒の量は変えていないのに、肝臓の値も良くなりました。それ以来、毎朝同じコンディションで体脂肪を計る習慣をつけて、ずっと20%をキープしています。もう20年くらいその習慣を続けていますが、お酒を飲んでも肝機能の数値は全く上がらなくなりました。人にアルコールをすすめるのが仕事ですから、食の偏りやアルコールの飲みすぎで自分自身が体調を崩したら、この世界のイメージを悪くしてしまいます。最後の最後まで、お酒と食事を楽しめるようにと思っています。
 人にとっての食事というものは、「食べる事」というよりも、「食べる時」と書く「食時」であるべきなんだと思います。野生動物などにとっての食事というのは、生きるための手段として喰らっているわけですが、人だけは食事を楽しむことができる。食事の時間を楽しむことこそが人間らしさではないかと考えます。人生を楽しむための「食時」。そしてそのためにベースとなるのは、やはり健康ですよね。

増田明美(ますだあけみ)さん

<プロフィール>
田崎真也(たさきしんや)さん
1958年生まれ。東京都出身。
ソムリエへの道を志し1977年に渡仏、パリのワインスクール(ソムリエ・コース)を日本人で初めて卒業。1983年に全国ソムリエ最高技術賞コンクールで優勝、1995年には第8回世界最優秀ソムリエコンクールで優勝。以降、ソムリエとして数々のテレビ番組に出演、著書も多数出版している。2016年には日本ソムリエ協会の会長に就任した。

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