同友会メディカルニュース
再生医療の近未来
みなさん、iPS細胞という言葉を聞いたことはおありになることと思います。Inducible pluripotent stem cellと言いますが、人工多能性幹細胞と訳します。
母親の卵子と父親の精子が受精すると、細胞分裂を繰り返しながらいろいろな臓器が形成されてゆきます。その結果、母親の子宮の中で一人の人間が成長し、赤ん坊として生まれてくる訳です。
女性の卵巣から得られた受精卵から核を取り出し、別の個体の遺伝子情報を組み込んでいわゆる複製(クローン)を作り出すことはすでに哺乳類で成功しています。
ただこの方法だと倫理的に問題があるとのことで研究自体は中止されました。 しかし、卵子以外の細胞を使えば問題ないとのことで、別の研究がスタートしました。京都大学の山中教授が、皮膚から採った線維芽細胞に4つの遺伝子を組み込むことにより、いろんな細胞に分化し得る細胞を作り出すことに成功したことは有名な話です(Cell 126, 663-676, 2006)。
こうして作られた細胞をiPS細胞と称します。もちろん、ヒトの生体から細胞を取り出し、iPS細胞を作り出したからといってすぐに試験管ベビーが誕生することはありません。ただこの細胞を用いて病気を治療する可能性は広がってくると断言して良いでしょう。
例えば、iPS細胞とは異なるのですが、それと似たような幹細胞を用いて治療に応用するという試みはもう始まっています。
7月2日の新聞には京都府立医科大学で重症の心筋梗塞の患者さんをこの細胞を使って治療したという試みが載っていました。すなわち心臓の近くまでカテーテルという管を挿入し、心臓の細胞を採取しました。その細胞から幹細胞を取り出し、試験管の中で増やしていったのです。
この幹細胞はiPS細胞とは若干異なり、主として心臓関連の細胞に成長する能力を持っています。その細胞を(心筋梗塞で)血流が途絶え、死んでしまった組織の付近に注入した訳です。注入した付近に細胞が成長するのに必要な物質を含んだシートを装着し、さらに血流が途絶えた部分はバイパス手術を行いました。
通常であれば一度心筋梗塞で死んでしまった細胞は生き返ることはないのですが、この方法を使った患者さんは心筋の細胞が新たに復活したようで、心臓も本来のポンプ機能を回復したとのことでした。
iPS細胞はいろいろな細胞に分化する能力を有し、培養してゆく過程である特定の物質を混すれば目的の細胞に限って分化してゆきます。その細胞を治療に応用できないかを考えるのは普通の流れでしょう。目を転じてわれわれの身近な病気での治療を考えると、一番最初に応用されそうなものは糖尿病かもしれません。
インスリンという血糖値を下げるホルモンが出にくくなる1型糖尿病や、インスリン治療を行っている2型糖尿病などです。インスリンはすい臓のランゲルハンス島(ラ氏島)のβ細胞から分泌されますが、この細胞は集めて移植することが可能なのです。
ラ氏島移植などと称されており、実際に治療として行われることもあります。ただ、人から単に集めたラ氏島は寿命が限られているようで、時間が経てば減ってくること、また他人のラ氏島だと拒絶される運命にあることが問題でした。でも仮に自分のラ氏島だと拒絶されることはあり得ませんので、治療効果が期待されるところです。
このような先端医療というのは急速に発達しています。ただiPS細胞は癌化しやすい性質を有することなど、解決しなければならない問題も数多く抱えているのが現実です。
やはり当面は過食や運動不足などに注意して地道に生活スタイルを正してゆくのがベストかもしれません。
「攻撃は最大の防御なり」という言葉もありますが、防御は最善の健康維持法であると言えるでしょう。
