同友会メディカルニュース

2018年2月号
膵嚢胞の一種 IPMNは 経過観察が必要?

IPMNとは

IPMNとは、膵管内乳頭粘液性腫瘍(Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm : IPMN)といい、膵臓にできる嚢胞(のうほう)の一種です。膵管(膵臓の中を走る、膵液の流れる管)の中に、盛り上がるよう(乳頭状)に増殖する腫瘍で、豊富な粘液を分泌することが特徴です。

嚢胞とは内部に液体を溜めた袋状のものを指し、膵臓にできるものが膵嚢胞です。
最近は画像診断の進歩によって、無症状の膵嚢胞が偶然発見される機会も多くなっており、CT検査施行時に1-3%、MRI検査では10-20%程度に膵嚢胞性病変が発見されたとの報告もあり、決してめずらしい病気ではありません。IPMNは腫瘍性の膵嚢胞の中では最も頻度が高く、男性に多く、60-70代の方に見つかることが多いとされています。

IPMNは非常にゆっくりと進行するため、ほとんどの場合症状はありません。IPMNで手術をされた患者さん達でも、約7-8割の方が無症状だったという報告もあります。ただし、産生された粘液によって膵液の流れが妨げられると膵炎を発症して腹痛や背部痛を来したり、病変が大きくなると胆管が圧排されて黄疸が生じたり、膵機能が低下して糖尿病を発症することもあります。

IPMNの分類

IPMNは形態によって大きく3つに分類されます。膵管本幹(主膵管)内側に発生し、分泌された粘液によって膵液の流れが悪くなり主膵管が全長にわたって太くなる①主膵管型、膵管の枝に発生しブドウの房状に多房性の嚢胞をみとめる②分枝型、①②両者が混在する③混合型です。

<IPMN分類>(GL2012より改変)

<IPMN分類>(GL2012より改変)
  • 主膵管型他の原因がなく、5mmを超える部分的あるいはびまん性の主膵管拡張がみられるもの
  • 分枝型主膵管径5mm以下で、主膵管と交通を有する5mmを超える拡張分枝がみられるもの
  • 混合型主膵管型と分枝型の双方の基準に合致する病変

これらのIPMNは、治療や定期的なfollow upが必要とされますがそれは、IPMNのある人は膵癌(すいがん)ができる危険性が高いと知られているためです。IPMN自体が癌化する場合と、IPMNの経過観察中に膵臓の他の場所に膵癌ができる場合(通常型膵癌)があります。

主膵管型IPMNにおける膵癌の頻度は平均61.6%と高率で、とくに主膵管径が10mm以上に拡張している場合はハイリスク群と考えられ、全例手術が勧められています。

一方、IPMNの大部分を占める分枝型IPMNは、それ自体は良性病変であることが多いですが、年率2-3%程度の悪性化がみられることや、10年間の経過観察中に1.4-9.3%(平均4.4%)の通常型膵癌の併存が報告されており、一般人口における通常型膵癌の頻度が0.01%程度であることを考えると、やはり膵癌発症のリスクが高いと言えます。よって、分枝型IPMNと診断された場合はその後の手術適応も含めて、悪性化の兆候がないか、また膵癌が併発しても早期に発見するために、経過観察をしていくことになります。

IPMNの悪性度指標、経過観察法

では、どのように経過観察が行われているのでしょうか。
2012年に改訂されたIPMN/MCNの国際診療ガイドライン(GL2012)では、IPMNの悪性度指標として、high-risk stigmataと、worrisome featureが設けられ、以下のようなフローチャートで経過観察を推奨しています。

<High-risk Stigmata(HRS)とWorrisome Feature(WF)(GL2012より改変)>
  • High-risk Stigmata(HRS)(悪性を強く示す所見) ① 閉塞性黄疸を伴う膵頭部嚢胞性病変 ② 造影される嚢胞内の充実成分 ③ 主膵管径 ≧ 10mm
  • Worrisome Feature(WF)(悪性の疑いを示す所見) ① 膵炎症状 ② 嚢胞径 ≧ 30mm ③ 肥厚し造影される嚢胞壁 ④ 主膵管径5-9mm ⑤ 造影効果のない壁在結節 ⑥ 尾側に閉塞性膵炎を伴う主膵管狭窄 ⑦ リンパ節腫大

<図>分枝型・混合型IPMNの診療アルゴリズム

分枝型・混合型IPMNの診療アルゴリズム

一方、2015年に米国消化器病学会(American Gastroenterological Association)が提唱した「無症候性腫瘍性膵嚢胞に関する診療ガイドライン」では、「径3cm未満の膵嚢胞は、5年間変化がない場合には経過観察の中止を推奨する」という、経過観察の終了基準を設けたことが、国際診療ガイドラインと異なっています。

どちらのガイドラインでも1-2cm未満の比較的小さな膵嚢胞に対しては、1-2年毎にMRIや造影CT検査を行うという記載にとどまっていますが、IPMN自体の悪性度は低くとも、併存膵癌の発生頻度が年率約1%という報告もされていることから、少なくとも毎年、できれば半年毎に膵臓の画像検査を繰り返す経過観察が望ましいという専門家の意見も多いのです。検査法と間隔についてある医療機関では「半年毎に造影CT、1年毎にMRCP(MRI検査の一種で、胆管や膵管の状態を調べる検査)と超音波内視鏡(EUS)を行い、これを繰り返す」経過観察法をとっていたり、またある医療機関では「膵臓の描出のみに20分程度の時間をかける膵精密超音波という方法を3-6か月ごとに行い」IPMNの経過観察をしているとのことでした。

このように、手術適応にならない分枝型IPMNの経過観察法については、まだまだ議論の余地がありますが、現在、日本膵臓学会において、全国74施設が参加する多施設共同研究「分枝型IPMNの前向き追跡調査」が行われており、約2000例のIPMN症例に対して、診断から5年間の前向き追跡調査が行われています。腹部造影CT、MRCP、超音波内視鏡をそれぞれ年1回、半年毎の間隔で施行しており、この研究によって、IPMN併存膵癌の発生率、IPMNの適切な経過観察の間隔、超音波内視鏡検査の位置付けなどが明らかにされると期待されます。

また、膵嚢胞の径が小さい場合、主膵管との交通が画像上はっきりせず、IPMNと診断するのが困難な場合があります。前述のIPMN国際ガイドラインでは、10mm未満のIPMNは2-3年毎のCT/MRIでの経過観察が推奨されており、併存する通常型膵癌を早期の段階で発見することを目標にするとなると、これでは十分な観察間隔とは言えません。2016年7月より、日本膵臓学会主導で、「10mm未満の膵嚢胞性病変を対象とした多施設前向き追跡調査」が開始されました。これによって、小さな膵嚢胞がもつ病的意義、通常型膵癌の併存頻度、その危険因子などが明らかになることが期待されます。

IPMNになる原因は、現在のところ明らかではありません。慢性膵炎、アルコールの摂取、喫煙、肥満、膵疾患の家族歴などは、IPMNの発生リスクであるということが分かっている他、いくつか遺伝子の異常が報告されていますが、まだ更なる研究が必要な段階です。現時点では、IPMNと診断された際には、半年~1年毎の画像検査による経過観察を、そして経過中に何か変化が生じた場合は専門機関での精密検査をお勧めいたします。

参考文献:

  • IPMN/MCN国際診療ガイドライン 2012年版―日本語版・解説
  • 新IPMNコンセンサスガイドラインの概要と問題点 丹野誠志ほか vol.56(9), sep. 2014 日本消化器内視鏡学会雑誌
  • 消化器疾患診療の最前線 15.膵嚢胞性病変に対する診療のストラテジー 丹野誠志 平成28年4月1日 北海道医報 第1171号
  • 膵嚢胞性腫瘍ガイドラインをめぐって~超音波内視鏡診断・治療の役割~ 中井陽介 埼玉医科大学雑誌 第43巻 第2号 平成29年3月
  • 肝胆膵 vol.74 No.4 Apr. 2017 アークメディア 特集 今IPMNをどう診るか
  • Fernandez-del Castillo C, Targarona J, Thayer SP et al: Incidental pancreatic cysts: clinicopathologic characteristics and comparison with symptomatic patients. Arch Surg 138 : 427-433, discussion 433-434, 2003

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