同友会メディカルニュース

2019年1月号
食後過血糖(血糖値スパイク)について

1.はじめに。血糖値スパイクがリスク

現在、日本には糖尿病の方が約1,000万人、境界型糖尿病の方が約1,000万人おられます。糖尿病が大きな問題となるのは主に血管合併症のためです。高い血糖値の状態が長年続いていると、網膜症(最終的には失明)、腎症(最終的には腎不全となり透析が必要)、神経障害(知覚異常や自律神経障害、足壊疽の原因にもなります)、動脈硬化(脳卒中や心筋梗塞を起こしやすい)などが非常に起きやすくなってしまいます。糖尿病は血管がボロボロになる病気と言ってもよいでしょう。また、糖尿病の方は認知機能が低下しやすく、認知症のリスクも高くなります。

境界型糖尿病も脳卒中や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患や認知機能障害に関して、糖尿病に匹敵する危険因子である事は以前より知られていました。境界型糖尿病の多くの方が食事前の血糖値は正常(もしくはわずかに高値)なものの、食事等で入ってくる栄養を処理しきれずに食後は一時的に血糖値が急激に上がってしまいます(これを食後過血糖と言います)。この食後過血糖が、境界型糖尿病の方でも動脈硬化や認知機能低下などを引き起こしやすい主原因と考えられます。数年前よりメディア等で、「血糖値スパイク」という言葉をよく耳にするようになりましたが、正にこの食後過血糖のことを指しています。

2.血糖値スパイクに気付くには?

糖代謝異常の検査としては、約2ヶ月間の血糖値の平均を反映するHbA1c値がよく用いられます。しかし、HbA1c値は血糖値の平均値であるが故に、血糖値の変動や血糖値スパイクの判断には不向きです。実際、日本人の糖尿病患者を対象に行った持続グルコースモニタリング(CGM)†のデータ1)でもHbA1c6%台の方と10%以上の方の血糖変動には有意な差がありませんでした(図1)

血糖値スパイクの把握のために、簡易的な手段としては食後30~60分に採血や血糖測定をする方法が以前からよく用いられています。また、外来診療では1,5-アンヒドログルシトール(1,5-AG)‡を活用します。精密検査としては経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)があります。75gのブドウ糖液を飲用する負荷試験で、飲用前、30分、60分、120分に採血し血糖値などを調べます。判定方法については図2をご覧下さい。

空腹時 負荷後2時間 判定区分
血糖値
(mg/dL)
110未満 および 140未満 正常型
126以上 または 200以上 糖尿病型
いずれにも合致しないもの 境界型

† 持続グルコースモニタリング(CGM:Continuous Glucose Monitoring):皮下に刺した細いセンサーにより皮下の間質液中の糖濃度(間質グルコース値)を持続的に測定する事が可能で、1日の血糖変動を知ることが出来ます。
‡ 1,5-AGは尿糖排泄に呼応して血中濃度が低下し、尿糖を認めなくなると徐々に回復(0.3μg/mL/日)する特性を持っています。つまり血糖値が尿糖排泄閾値(通常は160~180mg/dLの事が多いです)を超える頻度や程度に応じて1,5-AG値は低下します。

3.糖負荷試験で正常型と診断されても油断できない

前述のOGTTで正常型と診断されたら血糖値スパイクはないと言っていいのでしょうか?この数年でCGMが広く使われるようになり、現実には正常型でも血糖値スパイクが潜んでいる方は極めて多い事がわかってきました。米国の研究2)ですが、2~4週間CGMを行った所、血糖の最大値はOGTTを行い正常型だった方で平均190.3mg/dLでした。つまり、境界型の方は勿論ですが正常型の方でも血糖値スパイクがある場合も少なくないと思われます。日本でもCGMと同じ原理のフラッシュグルコースモニタリング(FGM)が昨年から入手できるようになりましたが、実際に高血糖を指摘された事がない方でも血糖値スパイクがあったという話をよく聞きます。

故に、少なくとも過去に一度でも高血糖を指摘された事がある方は、生活習慣改善に留意(食習慣に関しましてはメディカルニュース2015年9月号を参照して下さい)しつつ、検査などで経過を見る必要があります。例え、その後の検査で正常と判断された場合でも経過を慎重に見るべきでしょう。

4.実際にFGMを装着して感じた事

私自身がFGMを装着して、改めて感じた事が2点あります。1つは野菜と全粒穀物の重要性です。図3は朝食内容と血糖変動ですが、その重要性がわかる結果です。2つ目は食直後歩行の有効性です。図4は夕食後の血糖変動ですが、両日ともサラダボウル専門店で同じメニューを食べています。両者の違いは食直後に歩行をしているのか否かであり、食直後歩行の有効性が示唆されます。実際、食直後の歩行に血糖値スパイクを抑える効果がある事は知られています。ある研究3)では、時速2Kmのゆっくりとした歩行でも30分間行うと、図5に示したように、糖尿病ではない方でも血糖値スパイクが軽減されたと報告しています。また、別の研究4)では、食事時間も含めて座位30分間と立位5分間を交互に行うと、ずっと座位を維持した群に比して血糖値スパイクが34%軽減したと報告しています。

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以上をもとに一案として、外食であれば10分以上歩いた先の店に行き(野菜の多いメニューを注文)、食べ終わったら直ぐ歩いて帰る。自宅であれば、食べ終わったらテレビなどを見ずに直ぐに片付けて食器を洗うなどが考えられます。

5.最後に

今回は血糖値スパイクについて書かせて頂きました。今回は触れませんでしたが、睡眠の問題や朝食欠食は血糖値スパイクをより大きくする事がわかっており、生活リズムを整える事も重要です。また、多数の論文を統合解析した研究5)でも血糖値スパイク抑制効果が証明されておりますので、食後の歩行を含め、座位時間を短くするようにしましょう。

参考文献

  • Hajime M, et al. Twenty-four-hour variations in blood glucose level in Japanese type 2 diabetes patients based on continuous glucose monitoring. J Diabetes Investig 2018;9:75
  • Hall H, et al. Glucotypes reveal new patterns of glucose dysregulation. PLoS Biol 2018;16:e2005143
  • Manohar C, et al. The effect of walking on postprandial glycemic excursion in patients with type 1 diabetes and healthy people. Diabetes Care 2012;35:2493
  • Henson J, et al. Breaking up prolonged sitting with standing or walking attenuates the postprandial metabolic response in postmenopausal women: A randomized acute study. Diabetes Care 2016;39:130
  • Saunders TJ et al. The acute metabolic and vascular impact of interrupting prolonged sitting: A systematic review and meta‑analysis. Sports Med 2018;48:2347

同友会メディカルニュース / 医療と健康(老友新聞)

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