2015年2月号
進歩する内視鏡検査
2015年は、国連総会が宣言した光と光技術の国際年です。これは光と光に関する技術があらゆる科学技術と文化・芸術の中核をなすものであり、その発展が重要であることを一般社会に浸透させるための活動で、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)が中心になっています。光と光技術を利用した医療技術と言えば、内視鏡です。今回は内視鏡の歴史特に上部消化管(食道、胃、十二指腸)内視鏡検査についてその歴史と現状を見てみましょう。
人体の内部を観察するという医療行為は、紀元前4世紀の古代ギリシャ、ヒポクラテスの時代、肛門から直腸の観察をしたことに始まります。内視鏡の命名は1853年フランスの医師デソルテが作成した尿道や膀胱を観察する器具に由来しています。1868年金属製の筒を、剣を飲む大道芸人に用いてドイツ医師クスマウルが世界で初めて生きた人の胃の観察に成功しました。その後先端の屈曲の出来ない硬性胃鏡が開発されました。
しかし当時のランプの光では暗く十分な観察は出来ませんでした。1932年ドイツの医師シンドラーにより、先端がわずかに屈曲する軟性胃鏡が開発されました。その観察の照明は豆電球によるものでした。固い金属の筒を用いた胃鏡に対して、軟らかい管の先端にフラッシュと超小型カメラをつけた“胃カメラ”が1950年に日本のオリンパス社により実用化されました。ただこの胃カメラは直接胃の中を観察しながら撮影するのではなく、撮影したフィルムを現像して診断するものでした。
その後1960年代になり体外の光源装置から光ファイバーを利用して胃の中を照らし、光ファイバーを通してリアルタイムに観察することが出来るファイバースコープが開発されました。光源として色再現性の良い自然光(太陽光)に近い明るいキセノンランプが開発され、胃の中を明るく照らしながら、スコープの先端を自由に曲げ、操作し観察、記録することが可能になり、上部消化管(食道、胃、十二指腸)の診断は格段に進歩しました。
1980年代になり撮像素子であるCCD(Charge Coupled Device:電荷結合素子)を先端部に組み込み、カラーテレビモニターで観察するようになりました。現在の内視鏡検査の原型であるビデオスコープ(電子スコープ)の登場です。照明用の光はCCDと同期させたフラッシュライトとなり更に明るく、観察用の光ファイバーは不要になり、CCDの小型化によりスコープの細径化が可能となりました。通常口からの検査で使用されるスコープ径は約10mmですが、6mm径以下の細径スコープが可能になり、現在では“鼻からの内視鏡(経鼻内視鏡)”として普及しています(細径でも10mm径のスコープと遜色ない観察が可能で、もちろん細径スコープで口からの検査も可能です)。近年の携帯カメラやデジタルカメラの目覚ましい発展と同様に、CCDや画像処理技術の進歩により、内視鏡も高画質化と画像強調処理技術、拡大など観察診断の進歩は日進月歩です。通常の白色光観察に加え、観察光にフィルターを加えたり、画像処理してより詳細な観察を行う技術が開発されました。
オリンパス社の開発したNBI(Narrow Band Imaging:狭帯域光観察)という技術は、血液中のヘモグロビンの光吸収特性は波長により異なることを利用して、吸収されやすい波長の青い光の415nm(浅い層の観察)と緑の光の540nm(より深い層の観察)を照らして血管の鮮明な像や病変の凹凸、色調変化の認識を容易にしたものです(がんがあるとがんの部分やその周囲に不規則に微細な血管が増加します。その血管が詳細に観察できることはがんの診断に有用です)。
千葉大学と富士フイルムの開発したFICE(Flexible spectral Imaging Color Enhancement)は、すべての波長が入り交じった白色光(キセノンランプによる光)から、病変の観察に必要な波長を選び強調、必要でない波長は除去する画像処理技術により、病変が強調され認識しやすく、より鮮明な画像で観察することを可能にしました。
NBIやFICEによる観察は、これまで診断の困難であった早期食道がんの発見を容易にし、より小さな病変の正確な診断を可能にしました。また富士フイルムは2012年にこれまでのキセノンランプからレーザー光を利用した内視鏡システムを発売しました。これは白色光観察用レーザーによる自然な色の画像と粘膜表層の微細血管やわずかな粘膜の凹凸などのコントラストを強調して画像をシャープに映し出すBLI(Blue LASER Imaging)画像用狭帯域光観察用レーザーの2種類のレーザーを搭載しています。レーザー光の使用により消費電力は1/30となり、ランプ交換は不要になりました。そしてより高画質な病変の観察が可能となりました。もちろん細径スコープでの観察も可能です。今後も光の技術の開発により、身体に負担の少ない、精度の高い内視鏡検査が急速に実用化するのは間違いないと思われます。
胃がん検診としては、対策型や職域検診ではバリウムによる胃X線検査が行われていますが、一部自治体や任意検診では内視鏡検査も導入されています。2014年5月東京都医師会はペプシノーゲン法+ヘリコバクターピロリ抗体併用法による「胃がんリスク(ABC)検診」について将来性の検討と普及に向けた提案を行いました。全国の自治体、健保でも胃がんリスク(ABC)検診を導入するところが増えています。胃がんリスク検診(ABC)検診を導入した自治体からは、胃がん検診受診率の増加とがん発見率の増加が報告されています。胃がんリスク(ABC)検診で精再検になると内視鏡検査になります。2013年2月から慢性胃炎に対するピロリ菌除菌が保険適応になりましたが、慢性胃炎の診断には、内視鏡検査が必須とされています。ピロリ菌感染胃炎に対するピロリ菌除菌治療後も胃がん発症のリスクは除菌後十数年間あるとされ、バリウムによる胃X線検査ではなく、内視鏡による年余にわたる経過観察を行うことが推奨されています。胃がん検診に置ける内視鏡検査の重要性と検査需要は今後増加するものと考えられます。胃がんはピロリ菌除菌により予防が可能になり、早期発見により治癒することの出来る病気です。あなたも是非、光と光の技術の集大成である内視鏡検査を受けてみませんか?
- 春日クリニック 内視鏡検査のご案内
- http://www.kasuga-clinic.com/seimitu/naishikyo.html
同友会メディカルニュース
- 2018年5月号
- 動脈硬化を気にしていますか?
- 2018年4月号
- 健康的な食習慣によって腸内環境を整えましょう
- 2018年3月号
- 心不全の予防とケアを推進しよう!
- 2018年2月号
- IPMNは経過観察が必要?
- 2018年1月号
- 「血圧高め」は「高血圧」になる?
- 2017年12月号
- 長引く咳の原因について
- 2017年11月号
- 人工知能の医療への応用
- 2017年10月号
- 膀胱炎の正しい知識と治し方
- 2017年9月号
- 暑さ指数(WBGT)をもっと活用しましょう
- 2017年8月号
- サルコペニアご存知ですか?
- 2017年7月号
- 認知機能障害について
- 2017年6月号
- 心房細動と診断されたら
- 2017年5月号
- 逆流性食道炎とバレット食道について
- 2017年4月号
- 頭痛について
- 2017年3月号
- 汗っかきに潜む怖い病気
- 2017年2月号
- 睡眠時間確保のすすめ
- 2017年1月号
- 食塩摂取量気にしていますか?
- 2016年12月号
- 高LDL-C血症(俗にいう悪玉コレステロール)について
- 2016年11月号
- 最近のがん免疫治療の話
- 2016年10月号
- 乳房超音波検査で乳がん発見率の向上を
- 2016年9月号
- 骨粗鬆症(こつそしょうしょう)について
- 2016年8月号
- 夜中に足がつることはありませんか?
- 2016年7月号
- ピロリ菌検査で「陰性」であっても気を付けて欲しいこと
- 2016年6月号
- お薬手帳利用していますか?
- 2016年5月号
- 「座りっぱなし」をなくしましょう!
- 2016年4月号
- 歯周病、喫煙と乳がんとの関係
- 2016年3月号
- 血圧はどこまで下げればよいのか?
- 2016年2月号
- 過敏性腸症候群について
- 2016年1月号
- 脳動脈瘤について
- 2015年12月号
- 長時間労働は心・脳血管障害の大きなリスク
- 2015年11月号
- 「胆管がん」ってどんな病気?
- 2015年10月号
- 慢性膵炎についてご存知ですか?
- 2015年9月号
- 地中海食をもとに健康的な食習慣について考えましょう
- 2015年8月号
- 乳がん検診を受けましょう!
- 2015年7月号
- コレステロールの摂取制限について
- 2015年6月号
- アサーショントレーニング
- 2015年5月号
- ~胃の寄生虫、『アニサキス』について~
- 2015年4月号
- うつ病について
- 2015年3月号
- 「体を動かすということ」をもう一度考えて...
- 2015年2月号
- 進歩する内視鏡検査
- 2015年1月号
- 高血圧について
- 2014年12月号
- 甘く見てはいけないインフルエンザ
- 2014年11月号
- リンパ球と癌の関係
- 2014年10月号
- HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)について
- 2014年9月号
- 睡眠時無呼吸症候群:いびきだけではない危険な病気
- 2014年8月号
- 小腸カプセルとダブルバルーンの話
- 2014年7月号
- 大動脈弁狭窄症の新しい治療法 -TAVI-
- 2014年6月号
- 世界肝炎デーご存知ですか?
- 2014年5月号
- 「胆石」の事をよく知って正しく付き合いましょう
- 2014年4月号
- 食習慣と腸内細菌の関係~代謝異常の視点から~
- 2014年3月号
- さだまさしさんの歌に思う-鉄欠乏性貧血の話-
- 2014年2月号
- データヘルス計画が始まります
- 2014年1月号
- 『胸やけ、げっぷ』ありませんか?
- 2013年12月号
- 「潜在性甲状腺機能低下症」ってご存じですか?
- 2013年11月号
- 肺がん検診のススメ
- 2013年10月号
- 大腸がん検診受けていますか?
- 2013年9月号
- ピロリ菌除菌治療の保険適用が拡大されました。
- 2013年8月号
- 今一度、低炭水化物食(糖質制限食)について考えてみましょう。
- 2013年7月号
- 片足立ちで靴下を履けますか?
- 2013年6月号
- 腹部大動脈瘤も人間ドック・健診で早期発見を
- 2013年5月号
- アルコールと消化器疾患について
- 2013年4月号
- 糖尿病とがん・糖尿病治療とがんの関係
- 2013年3月号
- 最近の禁煙事情
- 2013年2月号
- 膵臓(すいぞう)がんについて知っておいてほしいこと
- 2013年1月号
- 遺伝的なリスクはその後の行いで変えられるかもしれません
- 2012年12月号
- 血尿とIgA腎症
- 2012年11月号
- 動脈硬化疾患予防ガイドラインについて
- 2012年10月号
- 機能性胃腸障害について
- 2012年9月号
- ドライアイのリスクと治療
- 2012年8月号
- 高血圧のタイプ別心血管・脳血管疾患リスクについて
- 2012年7月号
- 遺伝情報を用いたオーダーメイド医療の時代が、すぐ近くまで来ています。
- 2012年6月号
- 今の生活習慣が老後を決めてしまうかもしれません
- 2012年5月号
- がん治療の最前線
- 2012年4月号
- 骨粗鬆症の予防について
- 2012年3月号
- 高血圧とは ガイドラインを中心に
- 2012年2月号
- 消炎鎮痛剤とがんの意外な関係
- 2012年1月号
- 食習慣改善はお菓子やジュース類を減らす事から始めましょう
- 2011年12月号
- 日本人はなぜ平均寿命が世界でトップクラスなの?
- 2011年11月号
- 大腸がん対策について
- 2011年10月号
- 生活習慣改善の目標と方法
- 2011年9月号
- ひとりひとりが認知症に対する備えを
- 2011年8月号
- よい睡眠が健康にはとても重要です
- 2011年7月号
- たかがコレステロール、されどコレステロール
- 2011年6月号
- 肺がんには胸部CTが有効です
- 2011年5月号
- 動脈硬化を調べましょう
- 2011年4月号
- 「脂肪肝なんて」と軽く考えていませんか
- 2011年3月号
- 減量に最適なカロリーバランスは?
- 2011年2月号
- 血清抗p53抗体に関する話題
- 2011年1月号
- 関節リウマチの話題
食事プラスワン
- 第19回
- 歯の定期健診も受けていますか?
- 第18回
- 食事バランス
- 第17回
- 運動でカロリーを減らすには
- 第16回
- 関節の痛みには・・・
- 第15回
- 骨を丈夫に!
- 第14回
- ごはんを適量食べる!
- 第13回
- 野菜プラスキャンペーン開始!
- 第12回
- 「お豆腐」食べ過ぎ注意報!
- 第11回
- 表示をよく見て、飲もう!
- 第10回
- おでんの選び方。
- 第9回
- くだものも、適量を食べる!
- 第8回
- 牛乳はどのくらい飲んでいますか。
- 第7回
- 早食いも、食事バランスも改善!
- 第6回
- 夜遅い食事が気になる人へ
- 第5回
- お酒が気になる人へ
- 第4回
- 菓子パンの食事を改善!
- 第3回
- アブラ料理もおいしく食べる!
- 第2回
- おつまみ選びの達人に!
- 第1回
- めんの時もバランスよく!
小石川の健康散歩道
- 第18回
- 五感を働かせ、楽しみながらの英語習得!認知症予防にも効果的!?
- 第17回
- 「素敵な靴は、素敵な場所に連れて行ってくれる」って本当?!
- 第16回
- 今、スポーツ観戦がアツイ!
- 第15回
- 釣って食べる!海釣りのオススメ ~運動編~
- 第14回
- 太鼓に感動!
- 第13回
- 運動前の糖質摂取―大事なのは種類とタイミング―
- 第12回
- 体質は遺伝する、習慣は伝染する。
- 第11回
- 新生活を迎える時ほど大切に!家族・身近な相手とのコミュニケーション
- 第10回
- もっと気軽に健康相談♪
- 第9回
- 食材で季節を感じてみませんか?
- 第8回
- 夏の日差しを楽しむために
- 第7回
- 休日は緑を求めて…
- 第6回
- お風呂好きは日本人だけ?
- 第5回
- 気分の高揚を求めて
- 第4回
- みなさん、趣味はありますか?
- 第3回
- 休み明けの朝だってすっきりさわやか、そんな生活への...
- 第2回
- 忙しい日々こそ、1日をふりかえること。
- 第1回
- 少しの工夫で散歩が変わる!