同友会メディカルニュース

2020年10月号
ガイドラインに基づいた前立腺肥大症の正しい知識と治し方

2018年9月号で前立腺がんを取り上げましたが、今回は前立腺肥大症についてガイドラインをもとに解説します。残尿感、下腹部の違和感といった尿路に関する症状がある中高年は男女限らず多いのですが、男性特有の前立腺肥大症はその原因として非常に重要です。

前立腺の役割

前立腺は男性のみにあり、膀胱の下で尿道を取り囲むように存在している、くるみ程度の大きさの臓器です(図1)。射精時に精子を保護する成分を含んだ液を分泌する臓器で、生殖器の一つとして重要な役割を果たしています。

〔図1〕

前立腺の解剖

前立腺の解剖。前立腺は膀胱の下にあり、中心に尿道が通っている。(参考文献2より引用)

前立腺肥大症とは

前立腺の構造は内側にある内腺とそれを取り囲む外腺に分けられます。がんはほとんど外腺から発生しますが、内腺が大きくなったものが前立腺肥大症です(図2)。

〔図2〕

前立腺の内腺と外腺

前立腺の内腺と外腺。肥大は内腺に、がんは外腺に主にみられる。(参考文献2より引用)

内腺が大きくなるとその中を通る尿道が圧迫され、排尿症状(尿の勢いが弱い、出始めるまで時間がかかる、途中で尿が途切れる、力まないと出ない等)や蓄尿症状(朝起きてから寝るまでに8回以上、就寝後1回以上排尿する)、排尿後症状(残尿感、排尿後も垂れる)が出てきます。さらにひどくなると尿路が詰まって尿が出なくなる尿閉、血尿、膀胱結石、尿路感染症を合併しやすくなりますが、命取りになることはまれです。

前立腺組織の変化は30歳代から始まり、40歳代からほとんどの男性はしだいに前立腺の重量が重くなっていきます。この傾向は人種・地域を問わず世界的に同じです。ただし、症状を有する人の割合は人種差・地域差があります。日本では国際前立腺症状スコア(IPSS)で中等症以上の点数になった人は40歳代47%、50歳代44%、60歳代52%、70歳代63%であり、40歳代からすでにかなりの割合で自覚症状を有する人がいます。
日本では40歳以上の男性を対象にしたアンケートで、夜間頻尿(1回以上:72%)、昼間頻尿(8回以上:51.7%)、尿勢低下(週1回以上:37%)、残尿感(同26%)、尿意(同16%)の順で症状を自覚しているという報告があります。
前立腺が肥大する原因として、加齢に伴うホルモン環境の変化、主に尿路の感染症に起因する慢性炎症、免疫応答の亢進など複合的な要因が考えられています。
前立腺がんとの関係ですが、前立腺肥大が前立腺がんの発生率を高めるという報告はあるものの、否定する論文も多く、結論は出ていません。

診断

問診、国際前立腺症状スコア(IPSS)やQOLスコア(表1)などの質問票を使った評価、肛門から指を入れて触診、尿検査、腎機能検査、血清PSA測定、残尿量測定、超音波(エコー)検査などを行います。血清PSA測定は前立腺がんの早期発見に有用な検査ですが、前立腺肥大でも軽度上昇することがあり、泌尿器科で複数の検査を行って診断します。また、血清PSA 値は前立腺炎、前立腺マッサージなどによっても上昇することがあるので、その直後の検査は避けるのが望ましいです。

〔表1〕 国際前立腺症状スコア(IPSS)とQOLスコア
どれくらいの割合で次のような
症状がありましたか
全く
ない
5回に
1回の
割合より
少ない
2回に
1回の
割合より
少ない
2回に
1回の
割合
くらい
2回に
1回の
割合より
多い
ほとんど
いつも
この1か月の間に、尿をしたあとにまだ尿が残っている感じがありましたか 0 1 2 3 4 5
この1か月の間に、尿をしてから2 時間以内にもう一度しなくてはならないことがありましたか 0 1 2 3 4 5
この1か月の間に、尿をしている間に尿が何度もとぎれることがありましたか 0 1 2 3 4 5
この1か月の間に、尿を我慢するのが難しいことがありましたか 0 1 2 3 4 5
この1か月の間に、尿の勢いが弱いことがありましたか 0 1 2 3 4 5
この1か月の間に、尿をし始めるためにおなかに力を入れることがありましたか 0 1 2 3 4 5
  0回 1回 2回 3回 4回 5回
この1か月の間に、夜寝てから朝起きるまでに、ふつう何回尿をするために起きましたか 0 1 2 3 4 5

IPSS ____点

  とても
満足
満足 ほぼ
満足
なんとも
いえない
やや
不満
いやだ とても
いやだ
現在の尿の状態がこのまま変わらずに続くとしたら、どう思いますか 0 1 2 3 4 5 6

QOLスコア ____点

IPSS重症度:軽症(0~7点).中等症(8~19点).重症(20~35点)
QOL重症度:軽症(0.1点).中等症(2.3.4点).重症(5.6点)

前立腺肥大の危険因子

加齢
前述の通り、加齢とともにほとんどの男性は前立腺が肥大してきます。
遺伝
父親に前立腺肥大症の手術歴がある場合、前立腺肥大症になるリスクは3.5倍と報告されており、何らかの遺伝的影響はあるとされていますが、今のところ明らかな原因遺伝子は不明です。
生活習慣病
肥満、高血圧、脂質異常症、糖尿病は前立腺肥大症との関連が指摘されています。前立腺の腺上皮細胞は男性ホルモンであるテストステロンに支配されており、加齢でテストステロンが減少すると本来は前立腺が萎縮するはずなのですが、これらの生活習慣病があるとテストステロンからエストラジオールへの変換を促進させてしまい、それが悪影響を及ぼして逆に肥大していってしまいます。メタボリック症候群にならないように、適切な食事、適度な運動で体重コントロールを行うことが重要です。
食事と嗜好品
野菜、穀物、大豆などに多く含まれているイソフラボノイドやリグナンは前立腺肥大を抑える効果があると推測されています。喫煙・飲酒は前立腺肥大症への関与は明白ではありません。

前立腺肥大症と間違えやすい他の病気

前立腺肥大症と似た症状をきたす他の病気もいろいろあり、代表的な疾患・病態を下に挙げます。

  • 前立腺がん、前立腺炎
  • 膀胱がん、膀胱炎
  • 膀胱結石、膀胱憩室、過活動性膀胱
  • 尿道炎
  • 脳血管障害
  • 認知症
  • パーキンソン病
  • 糖尿病
  • 薬剤性
  • 多尿
  • 睡眠障害
  • 心因性

泌尿器科医はこれらの病気が隠れていないか考えながら確定診断を行います。

治療

治療方法としては以下の通りに分類され、患者さんの状態を考慮して決定されます。

1.経過観察

IPSSが8点未満の軽症者を4年間観察したところ、症状が悪化したのは3割という報告があります。症状が軽い場合は年1~2回の検査のみで経過をみることも多いです。

2.行動療法

体重コントロールを主にした生活指導、前立腺へ影響がある薬剤を避ける服薬指導も有用です。

3.薬物療法

3-1 α1遮断薬
前立腺と膀胱の平滑筋緊張を和らげ症状を改善させます。主な副作用には立ち上がった時の低血圧(めまい)、疲れやすさ、射精障害、鼻づまり、頭痛、眠気などがあります。
3-2 ホスホジエステラーゼ5阻害薬
勃起不全(ED)治療薬でもあります。一酸化窒素(NO)の作用を増強させて平滑筋を緩めることにより症状を改善させます。バイアグラが話題になったときにも問題となりましたが、心血管系への副作用を有するので、不整脈・狭心症・心筋梗塞といった心臓病、脳梗塞・脳出血の既往がある人への投与はかなり注意を要します。
3-3 5α還元酵素阻害薬
テストステロンから5αジヒドロテストステロン(活性型テストステロン)への変換を抑えることにより前立腺を縮小させます。ED、射精障害、性欲低下、女性化乳房が1~2%起こるほか、前立腺がんの検査として使われる血清PSAの値を低下させてしまう副作用があります。
保険適応はありませんが、男性型脱毛症で使われるフィナステリド、デュタステリドもこれに含まれます。
3-4 抗コリン薬
膀胱平滑筋のムスカリン受容体を遮断することにより排尿筋の過活動を抑え、頻尿が減る効果があります。他の薬と併用することが多いですが、尿閉や残尿増加、排尿困難、唾液の分泌低下、便秘といった副作用に注意が必要です。
3-5 β3アドレナリン受容体作動薬
日本で開発された比較的新しい薬で、β3アドレナリン受容体に作用して膀胱の蓄尿機能を高めます。生殖可能な年齢の患者さんへの投与はできるだけ避けるべきとされており、高血圧や心臓病のある方への投与も要注意です。
3-6 その他
フラボキサート、エビプロスタット®、セルニルトン®、パラプロスト®、漢方薬(八味地黄丸、牛車腎気丸)も以前からよく使われています。有効性を示す論文もありますが、大規模な調査データが少なく、ガイドラインでの推奨グレードは低くなっています。

4.手術療法

薬物療法の効果が不十分で中等度から重度の症状がある場合や、尿閉・尿路感染症・血尿・膀胱結石などの合併症がある場合は手術が考慮されます。表2の通り、前立腺組織の切除を主体とする手術と、組織をレーザーやマイクロ波で熱凝固・変性させる手術、尿道に管(ステント)を留置する手術等があります。

〔表2〕 前立腺肥大症に対する手術治療
術式 推奨グレード
A.組織の切除・蒸散を主体とする術式
被膜下前立腺腺腫核出術
開放手術
腹腔鏡手術 保留
ロボット支援手術 保留
経尿道的前立腺切除術
Monopolar TURP
Bipolar TURP
経尿道的前立腺切開術(TUIP)
経尿道的バイポーラ電極前立腺核出術(TUEB®
ホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP)
532nmレーザー光選択的前立腺蒸散術(PVP)
半導体レーザー前立腺蒸散術 C1
ツリウムレーザー前立腺切除術(ThuLRP)
B.組織の熱凝固・変性を主体とする術式
組織内レーザー凝固術(ILCP) C1
高密度焦点式超音波治療(HIFU) C1
経尿道的針焼灼術(TUNA® C1
経尿道的マイクロ波高温度治療術(TUMT)
C.その他の術式
尿道ステント C1
前立腺インプラント埋め込み尿道吊り上げ術(PUL) 保留
経尿道的水蒸気治療 保留
前立腺動脈塞栓術 保留

(推奨グレード…A:行うよう強く勧められる、B:行うよう勧められる、C1:行ってもよい、C2:行うよう勧められない、D:行わないよう勧められる)

切除する場合は1970年代までは開腹手術が標準的でしたが、1980年代以降はペニス先端の尿道から電気メスを装着した内視鏡を挿入する経尿道的前立腺切除術(TURP)が最も広く行われるようになりました。

〔図3〕経尿道的前立腺切除術(TURP)

経尿道的前立腺切除術(TURP)

その後もいろいろな改良・開発がされてきましたが、その中でも電気メスの代わりにレーザーを使用した1998年開発のホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP)と光選択的レーザー前立腺蒸散術(PVP)が近年増加傾向にあります。HoLEPは大きな前立腺に対しても安全に施行できるものの、手術時間がやや長くなり、技術の習得に時間を要するとされています。PVPは出血量が非常に少なく、抗血栓薬内服中でも問題なく手術が可能で入院期間も短いものの、残る腺がTURPやHoLEPより多いため再手術になる率がやや高いとされています。

さらに腹部に小さな穴をあけて手術器具を挿入する腹腔鏡手術、内視鏡手術支援ロボットを使った手術もありますが、日本では保険が効かない上に手術時間が長くなる傾向があり、評価は定まっていません。

前立腺の大きさや既往症、医療施設の設備、術者の習熟度などを考慮して選択されますので、もし手術を受ける必要が出てきた場合には主治医とよくご相談ください。

おわりに

前立腺肥大症はゆっくりと進行し、なかなか強い症状が出ないため我慢する人も多いと言われています。しかし残尿感や排尿困難、睡眠不足など、QOL(生活の質)を知らず知らずのうちに下げているかもしれません。思い当たる症状のある方はぜひ一度泌尿器科をご受診ください。

参考文献

  • 男性下部尿路症状・前立腺肥大症 診療ガイドライン 日本泌尿器科学会編 2017年
  • インフォームドコンセントのための図説シリーズ 前立腺がん 改訂版 Q&Aで理解を 深める基礎と臨床 吉田修監修 大園誠一郎、荒井陽一編 医薬ジャーナル社

同友会メディカルニュース / 医療と健康(老友新聞)

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