同友会メディカルニュース

2017年2月号
睡眠時間確保のすすめ~長時間労働の悪循環を防ぐために~

昨年に大手上場企業の新入社員が仕事の負担を苦に自ら命を絶たれた痛ましい出来事が注目を集めたことは記憶に新しく、「働き方改革」の名のもとにこれまで以上に長時間労働に対する関心が高まってきています。今回は長時間労働が自身の健康と会社に及ぼす負の連鎖についてお話させて頂きます。

今の時代、長時間労働が肯定されるべき理由はなく、過度の時間外労働が身体に与える影響は既に社会的常識として知られています。詳細は当メディカルニュース2015年12月号をご覧ください。この時の記事でも触れられていますが、長時間労働は心疾患・脳血管疾患だけでなく睡眠障害やうつ症状、糖尿病なども発症・増悪させることが知られています。

それでは、長時間労働をしても結果としてこういった病気にさえならなければ問題はないのでしょうか?実はそうではないことを示すデータも古くから明らかになっています。

人の一日の生活は食事入浴等の基礎的生活、所定労働時間と時間外労働、余暇、睡眠に概ね分けられますが、この中で時間外労働が増えると多くの場合はまず余暇が削られます。それでも時間が足りない場合、基礎的生活部分は削減に限度があるので、どうしても睡眠時間にしわ寄せがいくことになります(冒頭の出来事でも、2時間睡眠が続いていた事が話題になりました)。睡眠時間が不足すること自体が心身両面の不調に繋がる危険因子であることは言うまでもありませんが、仮に目に見える不調に至らなくても日々の生活には確実に影響を与えます。

図1:睡眠時間削減と作業処理スピードの関係

図1:睡眠時間削減と作業処理スピードの関係

Belenky et. al. 2003

図1は睡眠時間と作業処理スピードの関係をグラフにしたものですが、十分睡眠をとり続けた場合と比較して、睡眠時間が不足すると1日目からすぐに処理スピードが下がり始め、その後も低下し続けることが分かります。また単に処理スピードが落ちるだけでなく、作業ミス頻度の増加においても同様の傾向があることが示されています(図2)。いずれのグラフでも睡眠がとれるようになってからも回復に時間がかかっており、よく聞く「無理して頑張って、週末寝だめで取り戻す」よりも毎日規則的に睡眠時間を確保した方が作業効率は保たれることが分かります。(分かっていても実践はなかなか難しいでしょうが…)

図2:睡眠時間削減と作業ミス頻度の関係

図2:睡眠時間削減と作業ミス頻度の関係

Belenky et. al. 2003

作業効率が低下すれば当然同じ量の業務をこなすのに時間がかかるようになり、さらなる残業時間の増加から睡眠時間の削減という悪循環を来し、遂には健康被害に至る可能性が高まります(図3赤経路)。働き方改革の検討課題の中に長時間労働の削減と並んで「勤務間インターバル制度」が挙げられていますが、これは一日の業務を終えてから次の業務までに一定の時間をとり、睡眠時間を確保して作業効率を回復させる狙いもあります。同制度が実際に導入されているEUでは原則として「24時間につき連続して11時間の休息期間を設けること」が義務付けられているそうです。あなたは毎日何時間のインターバルを取れていますか?

図3:残業時間増加の悪循環

図3:残業時間増加の悪循環

また仮に個人の健康被害まで及ばなくても、一人一人の作業効率=生産性の低下を通じて会社全体の労働量の増加につながり、社員の健康リスクだけでなく企業の経営リスクにも及ぶスパイラルを引き起こす恐れが高まることになります(図3青経路)。かつて「24時間戦えますか」が一世風靡したようにわが国ではモーレツに働くことが長く美徳とされてきましたが、最近同じ会社の宣伝フレーズが「3、4時間戦えますか?」に変わるなど、ようやく職員の健康を守る大切さが社会に広く認知されるようになり、「健康経営」を前面に掲げる企業も増えてきました(当会でも2013年度に宣言)。国としてもその流れを後押しすべく、上場企業を対象とした「健康経営銘柄」のほか、非上場企業や医療法人も対象とした健康経営優良法人認定制度も新たに創設され、「ホワイト500」企業の認定作業が現在進められています1)。

長時間労働は目に見える健康被害を起こさなければそれで問題ないわけではなく、個人と会社、ひいては社会全体に与える潜在的な影響まで正しく認識し削減に取り組むことが大切です。この記事を読まれているのは一般職、管理職、もしかすると経営幹部の方など、様々な方がいらっしゃると思いますが、まずは自身の睡眠時間をしっかり確保して悪循環を食い止め生産性を高く保った上で、それぞれ自分が出来る範囲から取り組みを進めていきましょう。

参考文献:

  • http://www.meti.go.jp/press/2016/08/20160822001/20160822001.html

同友会メディカルニュース / 医療と健康(老友新聞)

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