同友会メディカルニュース

2018年6月号
多発性嚢胞腎(のうほうじん)のことを御存じですか?

腎臓の病気の一つに常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD:Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease)というものがあることを御存じでしょうか。あまり有名ではないかもしれませんが、実は最も頻度の高い遺伝性の腎疾患で、成人以降に左右両方の腎臓に多数の嚢胞(のうほう:水が溜まった袋状のもの)が進行性に発生・増大することによって腎不全が進み、60歳までに約半数が末期腎不全に陥り人工透析に至るとされている厄介な病気です。腎不全に至る前でも嚢胞感染や脳出血(脳動脈瘤の破裂)など、致死的な合併症を伴うことがあります。

わが国では高齢化の急速な進展を背景に人工透析治療を受ける人が増えており、2016年末には約33万人と2000年末に比べ約6割増え[1]、ADPKDはその原因の第4位を占めています[2]。ADPKDの患者さんを早期に発見し透析導入を未然に防ぐことが出来れば、本人の生活の質(QOL)を保つ上で非常に有益です。また医療経済の面からも、40兆円規模の日本の総医療費の約4%を占める人工透析のコスト[3]をいかに抑制するかが医療費削減の大きな焦点となっています。しかしそうした状況にあってもADPKDは最近まで効果的な治療法がなく、また40歳代までほとんど無症状で経過することから、診断基準(図1)に基づいた早期診断には残念ながらこれまであまり注力されてきませんでした。

<図1>ADPKD の診断基準

(厚生労働省進行性腎障害調査研究班「常染色体優性多発性囊胞腎診療ガイドライン (第2版)」より)

1.家族内発生が確認されている場合

  1. 超音波断層像で両腎に各々 3 個以上確認されているもの
  2. CT、MRIでは両腎に囊胞が各々 5 個以上確認されているもの

2.家族内発生が確認されていない場合

  1. 15歳以下では CT、MRI または超音波断層像で両腎に各々 3 個以上囊胞が確認され、以下の疾患が除外される場合
  2. 16歳以上では CT、MRI または超音波断層像で両腎に各々 5 個以上囊胞が確認され、以下の疾患が除外される場合

除外すべき疾患

  • 多発性単純性腎囊胞(multiple simple renal cyst)

  • 尿細管性アシドーシス(renal tubular acidosis)

  • 多囊胞腎(multicystic kidney)〔多囊胞性異形成腎(multicystic dysplastic kidney)〕

  • 多房性腎囊胞(multilocular cysts of the kidney)

  • 髄質囊胞性疾患(medullary cystic disease of the kidney)〔若年性ネフロン癆(juvenile nephronophthisis)〕

  • 多囊胞化萎縮腎(後天性囊胞性腎疾患)(acquired cystic disease of the kidney)

  • 常染色体劣性多発性囊胞腎(autosomal recessive polycystic kidney disease)

しかし2014年に新しい治療薬(バソプレッシン受容体拮抗薬、サムスカ ®)が登場してからは治療によって腎機能低下の抑制が期待出来るようになり、また2015年に難病新法が施行されADPKDが難病医療費助成制度の対象疾患に認定されるなど、社会的な受け皿の整備も次第に進みつつあります[4]。ADPKDを取り巻くこうした環境の変化を踏まえて、私達の施設において2017年度に人間ドックと健康診断で腹部超音波検査を受けられた47,383名の方に御協力を頂いて調査を実施したところ、興味深い事実が分かってきました。

これまで国内で行われた疫学調査では日本人のADPKDの有病率は10万人当たり約25人とされていました[5]が、今回の調査において超音波検査で両側の腎臓に一定数以上の嚢胞を認めた方にADPKDに詳しい病院の受診を勧めたところ、実際にはその約3~6倍に当たる68~143人もいることが推定されました(図2)。その一方で、現在健康診断で一般的に用いられている腹部超音波健診判定マニュアルに則って判定を行った場合は、今回判明したADPKD患者の約10人に1人しか要精密検査(D判定)の対象になっていないことも明らかになりました。

<図2> 今回の調査と国内外の報告におけるADPKD有病率の比較

今回の調査 国内疫学調査 [5] 海外文献 [6]
有病率 699~1,481人に1人 4,033人に1人 3019人に1人
人口10万人あたり 68~143人 24.8人 33.1人

ADPKDの患者はこれまで想定されているよりもずっと多い一方で、現状では仮に健康診断で腹部超音波検査を受けていても相当数の症例が放置されている可能性が強く示唆される結果でした。健康診断においてADPKDを早期に発見し治療を行うことが出来れば、腎機能の悪化から透析に至る転帰を未然に防ぎ、最初に述べたように本人のQOL(生活の質)の改善や我が国の医療費削減に大きく貢献することが出来るはずです。

今回の調査で行った「両腎に認める嚢胞の数に基づいた判定法」を健診の現場で実践する事は決して難しいことではなく、私達はこれからも学会発表や論文投稿などを通じてその有用性と重要性を発信し啓蒙に努めていきたいと考えていますが、同時に受診者の皆さんにも自ら行動することが望まれます。今回の調査では、ADPKDと判明した患者さんの8割以上で肝嚢胞が合併しており、6割以上に高血圧の病歴を認めました。またADPKDは家族内発生が多い事が特徴で、実際に今回の調査でADPKDと分かった方の6割は家族の中にもADPKDの人がいました。半数の方は家族に透析中の人がおり、3分の1の家族の中に脳出血を起こした人がいることも確認出来ました。もし健康診断で両側の腎臓に複数の嚢胞を指摘され、自身や御家族の病歴でこれらに該当する事があれば、下記サイトなどを参考に一度専門の病院で御相談されることをお勧めします。

多発性嚢胞腎についてよくわかるサイト
https://www.adpkd.jp/

参考文献:

  • Masakane I, Taniguchi M, Nakai S et al. Current status of chronic dialysis therapy in Japan I. Statistics of chronic dialysis patients at the end of 2016 1) Current status of chronic dialysis therapy (2) Changes in the number of chronic dialysis patients. Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy 2018; 51:1–51 (In Japanese).
  • Masakane I, Taniguchi M, Nakai S, et al. Current status of chronic dialysis therapy in Japan I. Statistics of chronic dialysis patients at the end of 2016 2) Patients on dialysis (2) Underlying disease and gender of patients on dialysis. Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy. 2018; 51(1):1–51 (In Japanese).
  • Japanese Society for Dialysis Therapy. Report on the 19th Actual Condition Survey on Medical Expenses for Dialysis. The Journal of Japanese Association of Dialysis Physicians. 2016;31:90–103 (In Japanese).
  • Otsuka Pharmaceutical Co., Ltd. About Incentive Medical Cost Subsidy System for the Management of Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease (In Japanese). Available from: https://www.adpkd.jp/subsidy/apply/
  • Higashihara E, Nutahara K, Kojima M, et al. Prevalence and Renal Prognosis of Diagnosed Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease in Japan. Nephron. 1998;80:421–7.
  • de Almeida E, Sousa A, Pires C, et al. Prevalence of autosomal-dominant polycystic kidney disease in Alentejo, Portugal. Kidney Int. 2001;59:2374.

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