同友会メディカルニュース

2013年8月号
今一度、低炭水化物食(糖質制限食)について考えてみましょう。

1.はじめに

以前にメディカルニュースで低炭水化物食について書かせて頂きました(2011年3月号をご参照ください)。ニュース等でご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、日本の研究グループが今年1月に低炭水化物食によって死亡率が1.31倍増加すると報告(*1)しました。3月には、日本糖尿病学会が食事療法に関して提言を公表しています(日本糖尿病学会のホームページからPDFファイルでダウンロードできます)。このように最近、低炭水化物食についての論議がますます盛んになっていますので、補足する形で述べさせて頂きます。

2.低炭水化物食の代謝に対する影響

低炭水化物食の是非については、いまだ決着はついていません。一因として、低炭水化物食には様々な方法があり、方法によって結果が異なってしまう事が挙げられます。また、効果や安全性を評価するには、長期に渡る臨床研究結果が必要となるため、まだ当面決着はつかないものと思われます。
以前、お伝えしましたように、低炭水化物食のメリットとして従来推奨されている低脂肪食よりも減量効果で若干勝る可能性があります。一方で高脂肪食となりやすいため、血清脂質(コレステロールや中性脂肪)での不利益が懸念されますが、(報告によってまちまちですが)客観的に見ますと低炭水化物食が劣るとは言えません。血圧に対する影響も結果は様々ですが、低炭水化物食は低脂肪食より劣る事はなさそうです。しかしながら、意外にも血糖に対しては低炭水化物食が優れるとは言い切れず、逆に劣るという報告も少なくありません。つまり、体重・血圧・血清脂質・血糖の面から総合的に判断しますと、低炭水化物食が少し優れる可能性もありますが、決定的な差はないものと思われます。

3.低炭水化物食の懸念

詰まる所、最も重要なのは、寿命・動脈硬化・認知機能に関して有益なのかどうかです。寿命に関しましては冒頭でご紹介した研究や以前お伝えしました研究にありますように、低炭水化物食が不利となる可能性が指摘されています。
動脈硬化に関して、スウェーデンの研究(*2)をご紹介致します。この研究では、炭水化物のエネルギー比率と蛋白質のエネルギー比率でスコア化しています。例えば、炭水化物30%かつ蛋白質25%のような低炭水化物高蛋白食の場合は、10+10で20点という事です。そしてこのスコアと心血管疾患(脳卒中・狭心症・心筋梗塞など)リスクを検討しています。図に示しましたように、低炭水化物・高蛋白質の食事になるに従い、リスクが有意に高まるという結果でした。しかし一方で、米国の看護師を対象にした研究(*3)では、炭水化物のエネルギー比率と狭心症・心筋梗塞の関係は全く関連がないと報告していますし、頚動脈超音波による動脈硬化の検討(*4)では、低炭水化物食は低脂肪食と同等の改善効果を認めています。ちなみに動物実験では極端な糖質制限食(炭水化物エネルギー比率12%)で動脈硬化が進行する事が示されています(*5)。このように判断が難しい所ですが、動脈硬化に対して低炭水化物食は不利にはたらく可能性があります。

図1:低炭水化物は心血管疾患のリスクを高める

ご存知のように、脳はエネルギー源として炭水化物のブドウ糖を主に利用します。よって低炭水化物食は脳に対しての悪影響が懸念されます。最も気になる認知機能障害に関しては、短期的には否定している報告が多いですが、長期的には不明です。低炭水化物食は気分に悪影響を与えたり(*6)、うつ病のリスク(*7)になる事が多く報告されています。そしてこれは、実際に低炭水化物食に取り組んだ方の訴えとしてよく聞く内容です。低炭水化物食は仕事や勉学には不利益である事は確実と思われます。

4.まとめ:個々の栄養素に関して論じるのは間違いのもと

従来では、炭水化物の摂取量としてエネルギー比率55~60%が良いとされてきました。しかし地中海食の有益性(別の機会に取り上げたいと思います)など、様々な臨床研究の結果などから炭水化物の摂取量を厳格に定めるのではなく、ある程度柔軟に考えてよいと思います(エネルギー比率で45~60%)。むしろ大事なのは、炭水化物は何で摂るのか?蛋白質や脂質は何で摂るのか?です。例えば、菓子類や菓子パンを減らす、主食に全粒穀物(玄米など)を取り入れる、主菜は肉類に偏りすぎないようにするといった事になります。ただし、調理法の影響も非常に受けますので素材だけでは語れません。加えて食べ方(噛み方や食べる順序など)の影響も受けると思われます。つまり栄養は包括的に考えるべきものであり、個々の栄養素や有効成分等のみで論じるのはナンセンスです。
このように、食事の話は突き詰めていくと、非常に難解なものになってしまい、何をどう食べたらよいのか解らなくなってしまいます。もっとシンプルに考えましょう。以前からお話ししている7つの“あ”に注意しつつ、“3つの皿”を毎食意識して頂ければ、おのずと適切なエネルギーバランスとカロリーになります。

3つの皿

参考文献:

  • *1 Noto H, et al. Low-Carbohydrate Diets and All-Cause Mortality: A Systematic Review and Meta-Analysis of Observational Studies. PLoS ONE 2013;8:e55030 
  • *2 Lagiou P, et al. Low carbohydrate-high protein diet and incidence of cardiovascular disease in Swedish women: prospective cohort study. BMJ 2012;344:e4026
  • *3 Halton TL, et al. Low-Carbohydrate-Diet Score and the Risk of Coronary Heart Disease in Women. N Engl J Med 2006;355:1991
  • *4 Shai I, et al. Dietary Intervention to Reverse Carotid Atherosclerosis. Circulation 2010;121:1200
  • *5 Foo SY, et al. Vascular effects of a low-carbohydrate high-protein diet. Proc Natl Acad Sci USA 2009;106:15418
  • *6 Brinkworth GD, et al. Long-term Effects of a Very Low-Carbohydrate Diet and a Low-Fat Diet on Mood and Cognitive Function. Arch Intern Med 2009;169:1873
  • *7 Park Y, et al. Erythrocyte n-3 Polyunsaturated Fatty Acid and Seafood Intake Decrease the Risk of Depression: Case-Control Study in Korea. Ann Nutr Metab 2012;61:25

同友会メディカルニュース / 医療と健康(老友新聞)

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