同友会メディカルニュース

2020年3月号
線維筋痛症について

はじめに

線維筋痛症という病気についてご存知でしょうか?

様々なメディアでも時々話題になっているので、病名については聞いたことがあるという方もいらっしゃるのではないかと思います。

線維筋痛症は慢性的な痛みを主徴とする疾患ですが、痛み以外の症状も多彩で(表1)精神神経症状が前面に出ている場合もあり、適切な診断や治療が行われないまま放置されることもあるといわれています。

〔表1〕 線維筋痛症の臨床徴候
Ⅰ.主要症状
  • ・全身の慢性疼痛と解剖学的に明確な部位の圧痛
  • ・びまん性のこわばり
Ⅱ.随伴症状
  • ・身体症状 微熱、疲労感、手指のこわばり、手指の腫脹、関節痛、レイノー現象、盗汗、過敏性腸症候群、動悸、乾燥症状、呼吸苦、嚥下障害、間質性膀胱炎、生理不順、月経困難症、体重の変動、寒暖不耐症、顎関節症、低血圧、各種アレルギー症状、僧帽弁逸脱症、恥骨部痛など
    ・神経症状 頭痛・頭重感、四肢のしびれ、手指のふるえ、眩暈、耳鳴り、難聴、羞明、視力障害、筋力低下、筋脱力感、restless leg syndromeなど
    ・精神症状 抑うつ症状、不安感、焦燥感、睡眠障害(不眠、過眠)、集中力低下、注意力低下、健忘、記銘力障害、起床時の不快感など

(参考文献1.13ページを参考に作成)

日本での線維筋痛症の推定患者数は約200万人と比較的頻度が高い疾患ですが、客観的な診断の決め手となるような検査所見がなく診断が難しいこと、痛みのための生活の質の低下があること、病因や病態の解明や治療方法の確立が遅れていることなど問題点が多く、非常に注目すべき疾患であると考えられます。

1.症状や原因について

線維筋痛症は体の全身に起こる3か月以上続く慢性的な痛みを主徴候として、精神神経症状(疲労感・睡眠障害・抑うつ・頭痛・めまい・四肢のしびれ・筋力低下など)や身体症状(微熱・動悸・呼吸苦・過敏性腸症候群・ドライアイやドライマウスなどの乾燥症状)を伴い(表2)、診察所見では体の特定部分の圧迫で痛みがみられることが特徴です(図1)。症状は朝に悪化することが多く、激しい運動やストレス・天候などの外的要因によって悪化することが多いとされています。

〔表2〕 米国リウマチ学会の線維筋痛症分類基準(1990)
1.「広範囲の疼痛」の既往がある
  • 定義 ・疼痛は以下のすべてが存在するときに「広範囲の疼痛」とされる
    ・身体左側の疼痛、身体右側の疼痛、腰から上の疼痛、腰から下の疼痛、
       さらに体幹中心部(頚椎、前胸部、胸椎、腰椎のいずれかの痛み)が存在する
2.手指による触診で18箇所の圧痛点部の11箇所に圧痛を認める
  • 定義 ・約4kgの強さの手指による触診で、図1に示した合計18箇所の圧痛点のうち
       11箇所以上に疼痛を訴える

判定:上記の2項目を認める場合に、線維筋痛症と診断される。
      「広範囲の疼痛」は少なくとも3か月以上持続する必要がある

       *約4kgの圧力は目安として験者の母指の爪が白くなる程度。

(参考文献1.13ページを参考に作成)

〔図1〕 米国リウマチ学会1990年 線維筋痛症分類基準の圧痛点

線維筋痛症分類基準の圧痛点

(参考文献1.14ページを参考に作成)

2003年の厚生労働省研究班の全国疫学調査によると男女比は1:4.8で、推定発症年齢は43.8歳と中年女性に好発する傾向があります。

原因については外傷(特に交通外傷による頚椎損傷)や慢性心身的ストレス、心理・社会的な情緒的ストレス、外科的手術(脊椎・婦人科手術)、身体疾患、うつ病などが発症要因とする報告もありますが、確定的なものはありません。血液や画像などの検査でも特定の異常はありません。

線維筋痛症には基礎疾患のない原発性と、リウマチ性疾患などに伴って発症する続発性があり、日本のデータでは併存する疾患としてはリウマチ性疾患(関節リウマチやシェーグレン症候群など)が84.2%を占めています。日本では原発性:続発性=2.8:1と原発性が多いです。続発性の場合は併存する疾患の病状の悪化に伴って線維筋痛症の症状も悪化することが多いといわれています。

2.痛みの機序について

線維筋痛症に限らず、一般的に痛みは大きく分けて侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛に区別されます。

侵害受容性疼痛は熱や機械的な刺激、炎症など体に対して何らかの有害な現象が起こったときの生体への警告機構として生ずる痛みで、その原因に対する治療もしくは解熱鎮痛剤といわれる一般的な痛み止めにより炎症を抑えることが有効です。

神経障害性疼痛は脳や神経の直接的な障害(脳卒中・脊髄損傷後・手術後やがんの浸潤による神経の圧迫など)により生ずる痛みで、解熱鎮痛剤の効果が乏しく難治になりやすく、慢性的に経過することが多いとされています。

一般に痛みの感じ方というのは多様であり、同一人物でも状況によって感じ方が異なります。例えば興奮状態であったり、何かに集中しているときには脳から脊髄へ投射する痛みを抑制する神経経路(これを下行性疼痛抑制経路といいます)が活性化され、痛みの情報が脊髄レベルで抑制されることにより痛みを感じにくくなります。

線維筋痛症の痛みは神経障害性疼痛に分類されます。脳内にあるミクログリアという免疫を担っている細胞が何らかの原因で活性化されることで脳内の神経の炎症を惹き起こし、前述の下行性疼痛抑制経路が障害されることにより痛みが生じていると考えられています。

3.治療について

線維筋痛症は原因が不明であるため、当然ではありますが原因に対する根本的な治療はありません。治療の原則は患者さんと、その家族も含めた周囲の人々が線維筋痛症に関する正確な知識を得ること、かつ支援すること、睡眠の調整や適正な有酸素運動を行うこと、有効な薬物治療を行うことです。

薬物治療としては一般的な解熱鎮痛剤や抗炎症剤は無効で、抗うつ剤などが下行性疼痛抑制経路を活性化する作用があることから鎮痛効果があり、日本でも神経障害性疼痛緩和薬のプレガバリン(リリカ®)や抗うつ剤のデュロキセチン(サインバルタ®)が保険適応となっています。

他にも痛み以外の随伴症状(粘膜の乾燥症状など)の身体症状に対して、症状に応じた治療薬が使用されます。また、ヨガや太極拳、マッサージや温泉治療、認知行動療法(心理療法のひとつで、患者さんが自身の症状に対して抱いている否定的な考えを肯定的なものに変換し行動に変化をもたらすことを目的としたもの)なども効果があったとする報告もあります。

また、大きなlife eventよりもdaily hassles(ささいな日常のいらだちごとの積み重ね)のほうが痛みを悪化させるストレス因子になるとしている報告もあり、家庭や職場などでのストレスのコントロールが重要と考えられます。

4.予後や経過について

線維筋痛症の生命予後については、1年間の観察で死亡率が0.4%と報告されているものの併存疾患による死亡であり、線維筋痛症そのものによる死亡の危険性は少ないと考えられます。しかし日常生活動作や生活の質、といった点から様々な機能障害がみられることがあり、診断された方の1/3が休職・休学に至っているとの報告もみられます。またマッサージなどの間接的医療費にも金額がかかるため経済的に困難な状況になることもあります。

痛みはその本人にしかわからない主観的な感覚であり、客観的な評価が難しい感覚です。線維筋痛症は検査で異常がないことや病状が複雑であることから他人になかなか理解されがたい疾患で、患者さんだけでなく周囲の人々の線維筋痛症に関する正確な知識の欠如から精神的・肉体的にストレスがかかる状況となり、自殺などの死亡率が増加する可能性があるといわれています。そのような事態を避けるためにも、このような疾患があることを理解することが何よりも重要であると考えます。

参考文献

  • 線維筋痛症診療ガイドライン 2017 一般社団法人 日本線維筋痛症学会 国立研究開発法人 日本医療研究開発機構線維筋痛症研究班 編 日本医事新報社
  • 運動器慢性痛診療の手引き 日本整形外科学会 運動器疼痛対策委員会 編集 南江堂
  • 日本医師会生涯教育シリーズ 痛みのマネジメント update 基礎知識から緩和ケアまで 日本医師会編 メジカルビュー社

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