同友会メディカルニュース

2019年9月号
腸内フローラと心疾患の関係

腸の中には多くの細菌が生息し、腸内フローラと呼ばれる複雑なバランスで生態系を形成しています。フローラ(flora)は、特定の場所に増生する植物の総体を示す植物相という意味を持ちますが、語源がラテン語の花(flos)から来ていて、ローマ神話ではfloraと呼ばれる花の女神もいます。細菌も植物のように体内の特定の場所に増殖していることがあり、このことをフローラと呼び、日本語では細菌叢(さいきんそう)といいます。

この腸内フローラは体の状態や病気との関連が大きいことがわかっていますが、近年分子生物学的な解析方法が発展したことにより、便中の様々な菌を網羅的に調べることが可能になったため、研究の範囲も大きく広がっています。

そのような中で、腸とはあまり関連がなさそうな心臓にも、腸内細菌が影響を及ぼしているという研究がなされています。代表的な研究には、Wang Zらが2011年にNatureに発表した論文があげられます。1) この研究では、腸内細菌によって代謝されることで作られるTMAO(trimethylamine N-oxide)という物質によって動脈硬化が促進されることが、マウスによる実験でわかりました。また、このTMAOの濃度を抑える効果のある物質をマウスに投与すると動脈硬化の進展も抑えられた、という報告もなされ2) 、腸内細菌が動脈硬化を悪化させるような物質を作り出し、そのことで狭心症や心筋梗塞が起こりやすくなる可能性が考えられています。

また、腸内フローラの違いによって病気の起こりやすさに違いがでるのではないかと考えられていた中で、日本の研究グループが狭心症や心筋梗塞の患者に特徴的な腸内細菌の変化を調査したところ、ラクトバチラレス目菌が増加し、バクテロイデス門菌が減少していることを見出しました。3) さらに、減少している菌株をマウスに投与したところ、抗炎症作用などにより動脈硬化が抑制されたことが示され4) 、微生物製剤としての可能性も検討されています。

同友会メディカルニュース2018年3月号では心不全が増加している問題を取り上げましたが、心不全患者にも腸内フローラが影響を与えていることが考えられています。心不全患者60人と健常人20人の便を調べた研究では、心不全患者の便に病原性の高い菌が多く増殖していることがわかり、心不全の程度が悪い患者ほどその傾向が強いことが示されました。5) また、心不全患者ではTMAOの血中濃度が高まっていることも報告されており6) 、腸内細菌やその代謝産物が心不全悪化にも影響を与えていることが考えられています。

同友会メディカルニュースの2014年4月号では食生活と腸内細菌の関係を取り上げましたが、それからの5年余りで腸内細菌に関する研究はさらに進み、今回取り上げた心疾患だけでなく、多くの疾患とのかかわりが研究されています。特に一番かかわりが深いと思われる大腸では、大腸がんの早期発見につながる研究が国立がん研究センターから2019年6月に発表されました。https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2019/0607/index.html

一方で、すでに大腸がんの早期発見を目的に腸内細菌を調べるサービスを行うベンチャー企業も出てきており、腸内フローラと様々な病気との関連やその検査方法がこれから益々発展していくことが考えられます。

参考文献

  • Wang Z, et al: Gut flora metabolism of phosphatidylcholine promotes cardiovascular disease. Nature 472: 57-63, 2011
  • Wang Z, et al: Non-lethal Inhibition of Gut Microbial Trimethylamine Production for the Treatment of Atherosclerosis. Cell 2015; 163: 1585-1595
  • Emoto T, et al: Analysis of Gut Microbiota in Coronary Artery Disease Patients: a Possible Link between Gut Microbiota and Coronary Artery Disease. J Atheroscler THromb 2016; 23: 908-921
  • Yoshida N, et al; Bacteroides vulgatus and Bacteroides dorei Reduce Gut Microbial Lipopolysaccharide Production and Inhibit Atherosclerosis. Circulation. 2018 Nov 27;138(22):2486-2498.
  • Pasini E, et al. Pathogenic gut flora in patients with chronic heart failure. J Am Coll Cardiol HF. 2016; 4: 220-7.
  • Tang WH, et al. Prognostic value of elevated levels of intestinal microbe-generated metabolite trimethylamine-N-oxide in patients with heart failure: refining the gut hypothesis. J Am Coll Cardiol. 2014 Nov 4;64(18):1908-14.

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