同友会メディカルニュース

2019年10月号
認知症予防のためには働き盛りの健康管理が重要です

1.はじめに

少し前になりますが、認知機能障害について書かせて頂きました(2017年7月号)。少し振り返らせて頂きますと、日本では急激に認知症の方が増加しており、特にアルツハイマー病が増加している事、認知症の予防のためには生活習慣改善と生活習慣病の予防や良好な管理が重要である事をお伝え致しました。今回はこの補足的な説明をさせて頂きたいと思いますので、2017年7月号も併せてご覧頂ければ幸いです。

2.認知症を根本的に治療する方法は?

結論から申し上げれば、現在のところ、認知症を根本的に治療する方法はありません。現在発売されている抗認知症薬は、認知症の症状進行を緩やかにする目的で使用されています(図1)1)

〔図1〕

アテ

アルツハイマー病ではアミロイドβやタウ蛋白が塊を形成して脳内に蓄積し、これらの毒性により神経細胞が脱落して認知機能障害を来すと考えられています。そこで、アミロイドβやタウ蛋白を除去できれば根本的な治療につながるという仮説に基づいて、アミロイドβやタウ蛋白を標的にした薬剤が次々に開発されてきました。しかしながら、いずれの薬剤も今のところ効果を証明できていません。最近では、アデュカヌマブという実用化が期待されていた薬剤があり、軽度のアルツハイマー病患者を対象に最終段階の臨床試験が行われていましたが、有効性の証明が困難と判断され今年3月に試験中止となっています。

実はアルツハイマー病発症の20年以上前からアミロイドβの蓄積は始まっており、発症の10年以上前にはアミロイドβ蓄積は飽和し、神経細胞の脱落も始まっている事がわかっています。このため軽度認知障害(MCI)以降からの治療では効果が出にくいと推測されます。

3.認知症を予防するためには

では認知症を予防するためにはどうしたら良いのでしょうか?これは2017年7月号でも申し上げた通りなのですが、生活習慣の改善並びに生活習慣病の予防や良好な管理が重要となります。ただ補足させて頂きますと、中年期からの改善や対策が極めて重要である事が以前より指摘されています(表1)2)

〔表1〕 中年期および高齢期における認知症リスク
中年期(45~65歳) 高齢期(65歳以上)
糖尿病 2.2倍 1.6倍
高血圧 2.3倍 1.1倍
脂質異常症 2.1倍 1.0倍
肥満 2.0倍 0.8倍

最近の研究でもこの事は確認されています。図2は英国の研究ですが、50歳時と60歳時の血圧とその後の認知症発症の関連を長期にわたって検証していますが、50歳時の血圧が強く関連しているのがわかります3)。図3は、たくさんの研究結果を総合解析したものですが、中年期の高コレステロール血症が認知症と強く関連するのがわかります4)

〔図2〕 50歳時と60歳時の収縮期血圧と認知症リスク

50歳時の収縮期血圧と認知症リスク

〔図3〕 中年期・高齢期の高コレステロールと認知症リスク

中年期・高齢期の高コレステロールと認知症リスク

体重(BMI*)と認知症の関連に関してもこれまで沢山の報告がありますが、研究によって真逆の結果が出ています。真実は如何にという事で、昨年にこれまで報告された研究を総合解析した結果が報告されました5)。全ての研究を除外無く解析するとBMIは高くなるほど認知症リスクが低くなったのですが、観察期間が20年超の長い(≒対象者がより若い)研究に限ると認知症リスクが逆に高くなりました(図4)。このように過体重や肥満と認知症との一見矛盾した関連は、中年期の過体重や肥満は認知症のリスクであるものの、高齢期では筋力低下に伴う体重減少の影響が大きい事がうかがえます。しかしながら高齢の方では肥満対策や生活習慣病の管理は必要ではないという訳ではありません。軽度のアルツハイマー病の方を対象にした研究でも生活習慣病の管理を怠ると認知機能低下がより早まる事が示されています6)

*BMIは体格を表す指数で、体重Kg÷(身長m)2 で計算します。25以上30未満の場合は過体重、30以上の場合が肥満です。

〔図4〕 BMIと認知症リスク

BMIと認知症リスク

4.WHOのガイドライン

世界保健機関(WHO)から今年の5月に「認知機能低下と認知症のリスク減少」のガイドラインが公表されました7)。ここまでお話ししてきましたまとめとして、要約したものを表2に示します。

〔表2〕 WHOのガイドライン
介入項目 内容 推奨度
身体活動 認知機能正常者に対し、認知機能低下予防目的で推奨すべき 強い
MCI者に対し、認知機能低下予防目的で推奨 条件付き
喫煙 禁煙介入は認知機能低下や認知症を予防すると思われるため、提供を推奨すべき 強い
栄養 地中海食遵守は認知機能正常者・MCI者に対し、認知機能低下や認知症の予防目的で推奨 条件付き
ビタミン・多価不飽和脂肪酸・マルチサプリは、認知機能低下や認知症予防の予防目的で推奨してはならない 強い
飲酒 過剰飲酒への介入は認知機能正常者・MCI者に対し、認知機能低下や認知症の予防目的で推奨 条件付き
認知訓練 認知機能正常者・MCI者に対し、認知機能低下や認知症の予防目的で推奨 条件付き
体重管理 中年期の過体重や肥満者に対する介入は認知機能低下や認知症の予防目的で推奨 条件付き
血圧管理 血圧管理は認知機能低下や認知症の予防目的で推奨 条件付き
糖尿病 糖尿病の管理は認知機能低下や認知症の予防目的で推奨 条件付き
脂質異常症 中年期の脂質異常症管理は認知機能低下や認知症の予防目的で推奨 条件付き

※MCI:軽度認知障害

5.さいごに

日本では65歳以上の方の認知症発症率が1992年時点では5.7%だったのが、20年後の2012年には17.9%と急激に増えている一方で、欧州諸国では減少しています。例えば英国では1990年頃は日本より高率な8.3%でしたが、2010年頃には6.5%に減少しています。この理由として以前より国を挙げて生活習慣改善や生活習慣病対策に取り組んだ成果と推測される事を前回お伝え致しました。一方で、日本ではこの半世紀ほどで中年期から生活習慣病を有する方が急速に増えた事や喫煙対策の遅れなどが急増の原因と推測されています8)。残念な事に日本における生活習慣病の受診率は低く、これは非常に勿体ない事だと思います。皆様におかれましては健康診断や人間ドック等で血圧・血糖・血清脂質などの異常が指摘されたら、是非受診されるようにして下さい。

参考文献

  • Howard R, et al. Donepezil and memantine for moderate-to-severe Alzheimer’s disease. N Engl J Med 2012;366:893
  • Kloppenborg RP, et al. Diabetes and other vascular risk factors for dementia: Which factor matters most? A systematic review. Eur J Pharmacol 2008;585:97
  • Abell JG, et al. Association between systolic blood pressure and dementia in the Whitehall II cohort study: role of age, duration, and threshold used to define hypertension. Eur Heart J 2018;39:3119
  • Anstey KJ, et al. Updating the Evidence on the association between serum cholesterol and risk of late-life dementia: review and meta-analysis. J Alzheimers Dis 2017;56:215
  • Kivimaki M, et al. Body mass index and risk of dementia: analysis of individual-level data from 1.3 million individuals. Alzheimers Dement 2018;14:601
  • Deschaintre Y, et al. Treatment of vascular risk factors is associated with slower decline in Alzheimer disease. Neurology 2009;73:674
  • Risk Reduction of Cognitive Decline and Dementia. WHO Guidelines. Geneva: World Health Organization; 2019.
  • Secular trends in cardiovascular disease and its risk factors in Japanese. Circulation 2013;128:1198

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