同友会メディカルニュース

2013年1月号
遺伝的なリスクはその後の行いで変えられるかもしれません

多くの疾患の発症には遺伝的な要因と後天的な要因が大きく関与します。また、肥満もご存じのように遺伝的要因と後天的要因(生活習慣など)の影響を強く受けます。遺伝の影響が強いとか生活習慣の影響がどの程度なのかといったように、今までどちらかと言えば、遺伝的要因と後天的要因とに分けて考えられる事が多かったと思います。しかし、遺伝的要因と後天的要因は別々でなく相互に関連しあっている場合もある事が、最近になって様々な分野で報告されています。その中から今回は心筋梗塞と肥満に関しての研究結果についてご紹介したいと思います。

まず、心筋梗塞の発症における、遺伝と食習慣の相互関係を検討した臨床研究(*1)を紹介致します。心筋梗塞を発症しやすいとされる遺伝子の型がこれまでたくさん報告されています。この研究ではその中からrs2383206という遺伝子に着目しています。遺伝子(DNA)は4種類の塩基(アデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)、シトシン(C))の配列からなっています。rs2383206はアデニン(A)が正常なのですが、これがグアニン(G)の方では心筋梗塞のリスクが高くなると考えられています。遺伝子は一対ですから、AAとAGとGGがある事になります。GGが高リスク、AGが中リスク、AAが低リスクと考えていただければと思います。GGかAGだと心筋梗塞の危険性が約1.2倍でした。次に食事面ですが、野菜と果物の摂取量に着目して対象者を3等分しています。つまり、高1/3、中1/3、低1/3です。低1/3だと心筋梗塞の危険性が高1/3と比べて約1.3倍高いという結果でした。さてこの2つの指標でそれぞれ見ると1.2~1.3倍ですから、それほど強い要因には正直感じません。しかしこの2つの指標を組み合わせると驚くべき結果が出ました。最もリスクが低いであろうrs2383206がAAで野菜と果物摂取が高1/3の組合せを基準にして(1として)、他の組合せのリスクを見た結果が図1です。遺伝的に高リスクのGGかつ野菜と果物摂取が少ないと心筋梗塞のリスクは約2倍にもなりました(赤い矢印)。しかし、青い矢印で示したように、遺伝的にリスクが高くても野菜と果物摂取が多い場合はリスクが全く増加しませんでした。つまり、例え心筋梗塞になりやすい運命(遺伝)であったとしても、日頃の行いで変えられるという事です。

心筋梗塞のリスク1

※注意!:この研究に限らず、海外の臨床研究では野菜や果物をできるだけ多く摂取した方が良いという結論に至るものがほとんどです。しかし、注意が必要なのは果物の摂取方法です。海外では皮ごと食べるのが一般的です。日本では皮をむいて食べますし糖度が高いものが多いようです。果糖摂取過剰による健康被害が生じますので、日本において果物は適量内(例えばバナナなら1日1本まで)にすべきであり、食べ過ぎは厳に慎むようにしましょう。

次に肥満における、遺伝と食習慣の相互関係を検討した研究を紹介致します。肥満になりやすい肥満関連遺伝子は130種類以上あると言われていますが、今年Natureという雑誌に発表になった研究(*2)では、生活習慣と相互関係があると遺伝素因としてGPR120遺伝子を報告しています。GPR120は脂肪を摂取した事を感知するセンサーの働きをしています。この働きが低下する遺伝型として人では67変異と270変異があり、これらの変異があると肥満になるリスクがそれぞれ約1.2倍、約1.6倍になると報告しています。次にこの研究では普通のマウスとGPR120を働かないようにしたマウス(GPR120-)を用意し、それぞれ通常の餌(脂肪分13%)と高脂肪の餌(脂肪分60%)とで飼育した所、図2に示したように、GPR120-でも通常の餌では全く太らなかったものの、高脂肪の餌ではより太りました。体重で見ると大した差ではないようにも見えますが、脂肪細胞は大きく肥大し、図3に示したように肝臓内の脂肪は著明に増加しており、脂肪肝になっていました。

またジュースなどの加糖飲料は肥満の大きな原因ですが、米国の看護師を対象にした研究(*3)では、32の肥満関連遺伝子と加糖飲料摂取による体重増加について検討しています。肥満関連遺伝子を多く有しているほど、加糖飲料摂取による体重増加が助長されていました。逆に言えば、肥満関連遺伝子の保有数が少ない方は、加糖飲料摂取による体重増加はあまりありませんでした。以前のメディカルニュース(2012年1月号)で書きましたが、肥満増加の主犯は加糖飲料やフライドポテトなどに代表されるジャンクフードです。この2つの研究結果を踏まえると、遺伝上太りやすい方がジャンクフードの多い生活をすると簡単に太ってしまうと考えられます。日本でも肥満の方がこの数十年で大幅に増えていますが、調査上では摂取エネルギー自体は増加していないと言われています(しかしジャンクフードの摂取量は大幅に増えています)。今回の内容がその理由の一つなのかもしれません。

参考文献:

  • *1. Do R, Xie C, Zhang X, et al. The Effect of Chromosome 9p21 Variants on Cardiovascular Disease May Be Modified by Dietary Intake. PLoS 2011;10:e1001106
  • *2. Ichimura A, Hirasawa A, Tsujimoto G, et al. Dysfunction of lipid sensor GPR120 leads to obesity in both mouse and human. Nature 2012;483:350-354
  • *3. Qi Q, Chu AY, Kang JH, et al. Sugar-Sweetened Beverages and Genetic Risk of Obesity. N Engl J Med 2012;367:1387-1396

同友会メディカルニュース / 医療と健康(老友新聞)

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