同友会メディカルニュース

2013年12月号
「潜在性甲状腺機能低下症」ってご存じですか?

甲状腺

喉仏の下に、3~5㎝と小さいながらも甲状腺ホルモンという大事なホルモンを出す臓器「甲状腺」があります。バセドウ病や橋本病、甲状腺がんなど甲状腺疾患の頻度は意外と高く、男性では50~100人に1人、女性では30~60人に1人と言われています。明らかに甲状腺ホルモン値が異常な場合(機能亢進や機能低下などの顕性甲状腺機能異常)は治療を受けることになりますが、今回は、甲状腺ホルモン値は正常だが、状況により治療が必要となる「潜在性甲状腺機能低下症」について、ご紹介したいと思います。

甲状腺ホルモンは、脳の下垂体というところから分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)の作用により甲状腺から分泌され、一般には、FT3, FT4として測定されています。1980年代に、検査法の進歩によりTSHが測定できるようになって以降、健康と思われている人の中に、甲状腺ホルモンは正常だが、TSHが高値である「潜在性甲状腺機能低下症」(甲状腺ホルモンを正常範囲内に保つために、より多くの刺激が必要な状態)が多く見つかるようになってきました。潜在性甲状腺機能低下症は、女性・高齢者に多く、健康な人の4~20%、人間ドック受診者の4.7%(男性3.6%, 女性5.8%)に見られます1)。

原因としては、成人ではそのほとんどが橋本病*1であり、機序は不明ですが、加齢でも増えることが分かっています。また、ヨードの過剰摂取(海藻、ヨード卵、うがい薬などヨードを含む薬剤、造影剤)、一部の薬剤(心臓・精神・感染症などの治療薬)、頚部の手術や放射線治療なども原因となります。

潜在性甲状腺機能低下症では、動脈硬化が進行し、狭心症や心筋梗塞などの心血管イベントが増えることから、2004年、アメリカ内分泌学会により、TSH≧10μU/mL(正常は0.5~4.49μU/mL)の場合と、妊娠希望の場合(不妊や児のIQ低下に影響を及ぼす可能性があるため)について、治療が勧められました2)。その後、TSHが10μg/mL以下でも、ホルモン補充療法によりその心血管イベントのリスクが軽減されるとの報告があり(表1,2)、現在は、高血圧症・脂質異常症・糖尿病・喫煙など動脈硬化が進行しやすい病態では治療が推奨されています3,4)。(但し、心疾患のない75歳以上の高齢者を除く。)高コレステロール血症では、4.3%に潜在性甲状腺機能低下症を認め、ホルモン補充により総コレステロール値やLDLコレステロール値も改善するとされています5)(表3)。一方で、潜在性甲状腺機能低下症との関連が指摘されている認知障害に対する治療の有効性は、今のところ確立されていないようです6)。

表1:潜在性甲状腺機能低下症における冠動脈心血管疾患のリスク

TSH (μU/mL) 心血管イベント 心血管死
0.5-4.49 1.0 1.0
4.5-6.9 1.0 (0.86-1.18) 1.09 (0.91-1.3)
7.0-9.9 1.17 (0.96-1.43) 1.42 (1.03-1.95)
10-19.9 1.89 (1.28-2.8) 1.58(1.10-2.27)

ハザード比 (95% CI) (文献3より引用)

表2:潜在性甲状腺機能低下症に対する補充療法による心血管イベント累積相対リスクの変化
(文献4より引用)

潜在性甲状腺機能低下症に対する補充療法による心血管イベント累積相対リスクの変化

表3:甲状腺機能と脂質プロファイルの関係(文献5より一部引用)

甲状腺機能 正常 潜在性低下症 顕性低下症
年齢 (歳) 50.7±16.6 53.5±16.4 55.6±15.3
TSH (μU/mL) 1.8±1.0 7.5±4.1* 62.5±94.8*
Free T4 (ng/mL) 1.19±0.19 1.11±0.14* 0.62±0.29*
総コレステロール (mg/dL) 198.4±37.2 203.9±44.0 228.7±62.4*
中性脂肪 (mg/dL) 102.4±54.2 104.1±50.1 127.9±71.1*
HDLコレステロール (mg/dL) 70.1±16.5 66.8±18.7 68.4±21.7
LDLコレステロール (mg/dL) 108.3±30.6 116.8±36.8** 134.7±49.5*

*: p < 0.0001, **: p < 0.05

女性では年間2.6%、また抗甲状腺自己抗体(抗TPO抗体、抗サイログロブリン抗体など)陽性の場合は年間4.3%が、潜在性から顕性の甲状腺機能低下症に進展するため、治療を受けない場合でも、半年に1回程度の経過観察を受けるといいでしょう。潜在性甲状腺機能低下症が続き、自覚症状(低血圧、易疲労感や浮腫など)や甲状腺腫大がある場合は、治療を検討することになります。
甲状腺が大きいと言われたことのある方、妊娠希望の女性、疲れやすい、ダイエットをしてもコレステロールが下がりにくい方などは、一度かかりつけ医や当クリニックにご相談になり、血液(ホルモン値、抗体価など)、超音波などの甲状腺の検査を受けてみられてはいかがでしょうか?

*1 橋本病:全体的に甲状腺が腫大し、甲状腺自己抗体が陽性となる慢性甲状腺炎。

  • 参考文献:
  • 1)中島康代ほか:潜在性甲状腺機能異常症の病態と治療.日本臨床70(11):1865-1871,2012
  • 2)Surks MI, et al: Subclinical thyroid disease: scientific reviews and guidelines for diagnosis and management. JAMA 291(2):228-238,2004
  • 3)Rodondi N, et al: Subclinical Hypothyroidism and the Risk of Coronary Heart Disease and Mortality. JAMA 304(12):1365-1374,2010
  • 4)Razvi S, et al: Levothyroxine Treatment of Subclinical Hypothyroidism. Fatal and Nonfatal Cadiovascular Events, and Mortality. Arch Intern Med 172:811-817,2012
  • 5)細野信行ほか:Subclinical hypothyroidism 潜在性甲状腺機能低下症:診断と治療の手引き.ホルモンと臨床 56:57-75,2008
  • 6)Tagami T, et al: Lipid profiles in the untreated patients with Hashimoto thyroiditis and the effects of thyroxine treatment on subclinical hypothyroiditis. Endocr J 57(3):253-258,2011

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