同友会メディカルニュース

2014年12月号
甘く見てはいけないインフルエンザ

最近、ニュースでデング熱やエボラ出血熱の報道を見て、感染症の流行について気になっている方も多いと思います。特にエボラ出血熱はWHO(世界保健機関)のまとめ(1)によると11月18日までに感染疑い例も含め15,351名が感染し5,459名が死亡したとされており、その致死率の高さもあって大きな注目が集まっています。しかしその一方で、世界で毎年25万~50万人が死亡し、日本でも毎年推定1000万人が感染してその結果社会の総死亡が約1万人増加しているとされる(2)、死亡数でみればエボラ出血熱を遥かに上回る恐ろしい一大感染症をご存知でしょうか。実はそれがインフルエンザであり、日本でもいよいよ流行のシーズン(12月~3月)に入りました。

そもそもインフルエンザとは

インフルエンザ(influenza)は文字通りインフルエンザウイルスを病原とする主に気道感染症であり、広い意味では風邪(かぜ)の一種です。非常によくある病気ですが、流行に周期があることから昔の欧州の占星家たちはこれを星や寒気の影響(influence)によるものと考え、これがインフルエンザの語源になったと言われています。

インフルエンザは今なお人類に残された最大級の疫病であり、一般の「かぜ症候群」とは分けて考えるべき「重症化しやすい疾患」です。普通の風邪はのどの痛みや鼻汁、くしゃみ、咳等の症状が中心ですが、インフルエンザではそれらに加えて38℃以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛等の全身症状が突然現れます。幼児を中心とした小児では毎年50~200人のインフルエンザ脳症患者が報告されていて、その10~30%が死亡しています。また高齢者や免疫力の低下している人では肺炎を伴って重症化し、対応が遅れると死亡することも決して稀ではありません(表1)。

表1

インフルエンザ重症化のハイリスク群

  • 65歳以上の高齢者
  • 妊娠
  • 慢性気管支炎、肺気腫、気管支喘息などの慢性肺疾患
  • うっ血性心不全などの心疾患
  • 慢性腎不全、血液透析、腎移植などの腎疾患
  • 糖尿病などの代謝異常
  • ステロイド等の薬剤投与による免疫不全状態の患者

インフルエンザにも「型」がある

インフルエンザの報道で「A香港型」とか「ソ連型」といった言葉を聞いたことがあるかもしれません。インフルエンザと一口に言っても、原因となるインフルエンザウイルスには実はさまざまな種類(型)があり、それぞれ特徴があります。大きく分けてA型・B型・C型が存在しますが、このうち毎年流行の原因となるのはA型とB型です。A型はヒト・トリ・ブタ・ウマ等で、B型はヒトでのみ感染します。

A型とB型では流行時期や症状に若干の違いがあります。A型が12~1月に流行しやすく、B型は2月から春先にかけて多いとされています。B型に感染した場合にはA型よりも高熱を出しにくく消化器症状(おう吐、下痢など)が多い事から、胃腸かぜと間違えられやすく注意が必要です。適切な薬で治療した場合でもB型はA型よりも解熱までの時間が長く(2日程度)かかります。一度かかると免疫ができるため1シーズン中に2度インフルエンザにかかることは無いと思うかもしれませんが、A型にかかってその後B型にかかることはあり得ますし、稀ですが複数の型に同時に感染して重症化することもありますので油断は禁物です。

インフルエンザの予防と治療

インフルエンザの主な感染経路は咳やくしゃみの際の小さな水滴による飛沫感染ですので、やはり予防の基本は流行期に出来るだけ人込みを避け、やむを得ない場合はマスクを着用すること(本当は感染者がマスクをする方が流行を抑える効果は高いと言われています)、外出後のうがいを励行することです。またドアノブやつり革、スイッチなどからの接触感染も多いと言われており、積極的な手洗いも推奨されます。その他にも適度な湿度を保って乾燥による気道粘膜の防御機能の低下を防ぐことや、十分な休養やバランスのとれた栄養摂取を日頃から心がける事も大切です。

予防に努めていてもインフルエンザに罹(かか)ってしまった場合は、抗インフルエンザウイルス薬の服用を適切な時期(発症から48時間以内)に開始すると発熱期間は通常1~2日間短縮され、ウイルス排出量も減少します。その一方で症状が出てから2日(48時間)以降に服用を開始しても十分な効果は期待できないので、罹ったかなと思った時は速やかに受診しましょう。インフルエンザにおいても早期発見・早期治療が大切という事ですが、受診の際には他の方にうつさないよう、しっかりマスクをして出かける事をお忘れなく。

ワクチン接種のススメ

インフルエンザの予防にはワクチン接種が非常に有効です。口や鼻から体の中に入ったウイルスは細胞に侵入して増殖します(感染)が、実はワクチンはこれを抑える働きはありません。ウイルスが増えると数日の潜伏期間を経て発熱等の症状が起こります(発症)が、ワクチンにはこの発症をある程度抑える効果が認められています。厚生科学研究班の「インフルエンザワクチンの効果に関する研究」によると、65歳以上の健常な高齢者では約45%の発症を防ぎ、約80%の死亡を阻止する効果があったとされています。つまりワクチンによって感染や発症そのものを完全には防御できませんが、重症化や合併症の発生を予防する効果は証明されているのです。「せっかくワクチンを打ったのに罹ってしまった」という話を時々聞きますが、「もし接種していなかったらもっと酷い目にあっていた」と考えれば少しは納得がいくかもしれません。

これまでの研究から、ワクチンの効果が期待できるのは接種した2週後から5カ月程度までと考えられています。またワクチンはそのシーズンに流行が予測されるウイルスに合わせて製造されているので、予防に充分な効力を保つためには毎年ワクチンの接種を受けた方がよいと考えられます。ワクチンは不活化といってウイルスの病原性を無くして作ったものですから、接種によってインフルエンザを発症することはありません。きちんと問診を受けた上で接種すれば現行ワクチンの安全性は非常に高いと評価されていますので、今年まだ受けていない方(特に表1に該当する方)は今からでもぜひ検討なさってください。

  • (1) WHO: EBOLA RESPONSE ROADMAP SITUATION REPORT”. (2014年11月5日)
  • (2) WHO:超過死亡推計による(超過死亡:インフルエンザが流行したことによって社会の総死亡がどの程度増加したかを示す推定値)

ちょっと深堀り?~おまけコラム~

「新型インフルエンザ」はどこにいった?

2009年に世界的な大流行(パンデミック)を起こした「新型インフルエンザ」は記憶に新しいところと思いますが、最近はとんと聞かなくなりました。この「新型」はどこにいってしまったのでしょう。既に退治されたのでしょうか?

少し細かな話になってしまいますが、A型とB型ウイルス粒子の表面には赤血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼ(NA)というタンパクがあり、これらが標的抗原(体の免疫がウイルスを発見するための目印)となっています。(ちなみにHAはウイルスが細胞にくっつく作用、NAは細胞内で成熟したウイルス粒子を細胞から切り離す働きをします。)とくにA型ではHAには15種類、NAには9種類の抗原性が存在し、例えば「H5N1」などアルファベットと数字の様々な組み合わせで表される亜型がこれまで144種類も確認されています。さらに同一の亜型内でも突然変異の蓄積によってHAとNAの抗原性は少しずつ変化します。これを連続抗原変異(antigenic drift)といって、インフルエンザウイルスではこの変異が頻繁に起こるので、去年罹って抗体が出来たはずの人でも翌年はそれが通用せず、結果毎年のように流行を繰り返すのです。

さて、A型インフルエンザでは数年から数十年ごとに世界的な大流行が見られます。これは不連続抗原変異(antigenic shift)といって、抗原性が大きく異なった別の亜型ウイルスが突然出現して、従来のウイルスにとって代わることによって起こります。このように多くの人が免疫を有していないことから急速にまん延し、国民の健康と生命、場合によっては医療体制を含めた社会機能や経済活動にまで影響を及ぼす可能性があるものを「新型インフルエンザ」と呼んでいます。古くは1918年にスペインかぜ(H1N1)が出現し、死亡者数は全世界で2,000万~4,000万人ともいわれ日本でも約40万人の犠牲者が出たと推定されています。1957年にはアジアかぜ(H2N2)、1968年には香港型(H3N2)が現れ、ついで1977年にソ連型(H1N1)が加わりました。そして2009年に発生したのが例の「新型インフルエンザ」(H1N1 2009)だったのです。

発生当初は猛威を振るう新型も、流行が拡がり多くの人が免疫を獲得するにつれ次第に季節的な流行に留まるようになります。新型インフルエンザ(H1N1 2009)についても2011年4月からは季節性インフルエンザとして扱われることになりました。現在はA型であるH3N2(いわゆる香港型)とH1N1(2009)、およびB型の3種のインフルエンザウイルスが世界中で流行しています。新型インフルエンザは消えたのではなく、普通の季節性の1つとして組み込まれてしまったというわけです。

なお、2013年春に中国で発生した鳥インフルエンザA(H7N9)は当時中国で多数の感染者が報告されたものの、その後は大幅に減少しています。持続的なヒトからヒトへの感染が確認されていないのでまだ「新型インフルエンザ」とは認められていません。いずれまた次の新型が現れるでしょうが、それがいつなのかは誰にも予測することはできません。

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