同友会メディカルニュース

2016年11月号
最近のがん免疫治療の話

今回はまず身近だった友人の話から始めましょう。
彼は45歳、都内のジムで知り合いました。トレーニングのことをいろいろと教えているうちに親しくなったのですが、ある時、「自分は末期の肺がんなのですよ。」と言われたのです。もう、目が点になりましたね。「本当?だって、こんなに元気ではないですか!結構太ってもいるし、末期のがんの患者さんとは全然信じられないけど・・」「ある薬のおかげなのですよ」と、そんな会話でした。

1.がんの免疫療法の話

自分の組織から発生する「がん」は免疫の網をくぐり、個体が本来もっている異物排除機構が働かないということで増殖してゆくと説明されてきました。ではそのようながん組織をどうやって退治してゆくのか・・古くは「丸山ワクチン」だとか、もう少し時代が進むとLAK(lymphocyte-activated killer)療法など、免疫系を活性化する治療が一般的でした。私が東京に来た頃、そうですね、今から25年ほど前、LAK療法が試みられた時のことを覚えています。脳腫瘍の患者さんからリンパ球を取り出し、IL-2(インタロイキン2)という物質で増やした後に患者さんに戻すということを行っていました。ある程度延命効果は認められましたが、完治した症例はなかったように記憶しています。その後も、種々の試みが行われてきたのですが、多くはがん細胞を効率よく攻撃するようにしたものでした。

2.今注目を集めているがん免疫療法

しかし、最近その「攻撃」と別の機序を用いた治療法が注目を集めています。オプジーボ(一般名は;ニボルマブ Nivolumab)という薬を聞かれたことはありますか?抗PD-1抗体がその正体です。PD-1という分子はProgrammed cell death-1というのが正式名称。

一般に細胞が「死」の道を辿るのに、壊死(necrosis)というのとアポトーシス(apotosis)という大きな形態があります。壊死というのは血液の供給が絶たれたりして、細胞が普通に生育できない環境下で「死」に向かうこと。一方、アポト-シスというのは「死」に向かうように計画(プログラム)され、定められた運命のように「死」に向かうこと、と理解できましょう。免疫反応の主体を担うT細胞にはアポトーシスを引き起こす分子が発現しています。何らかの機序でこの分子を介して細胞にシグナルが入ると、その細胞には「死」を運命づけられ、死滅してゆきます。なぜこのようなことが起こるのでしょうか?たとえば、ある病原体が体内に入り、病気を引き起こしたと仮定しましょう。体内ではそれを排除すべく、免疫細胞を大量に作り出し応戦します。多くの場合免疫力が勝り、病原体は封じこめられるのですが、そうなるとこれらの免疫細胞は不要のもの。それらの細胞の運命は・・いったん増えた免疫細胞はこの「プログラム死」という機序で、体内から消えてゆくと考えられているのです。

PD-1分子はアポトーシスを引き起こす分子として1990年代に見つかりました。PD-1分子を細胞表面に出していないマウスを作ると、腎臓に炎症が起こったとのこと。この現象の解釈ですが、PD-1分子がないために免疫反応が強まり、腎臓組織を攻撃し、炎症を惹起したのではないかという推測です。

PD-1という分子を持った免疫細胞は、ある標的細胞上に出ているPDL-1(Programmed cell death ligand-1)という分子と結合します。この結合が行われると、「もうこの標的細胞を攻撃しなくてもよい、あなたも必要ない」というようなシグナルが入るのです。がん細胞の中にはこの分子を出しているものがあり、そのがん細胞に出会った免疫細胞は(PDL-1と結合する)PD-1分子を介して「プログラム細胞死」を誘導され、結果的に死滅。よってがん細胞は免疫細胞からの攻撃に耐えうると説明されています(図1)。

がん細胞上のPDL-1と、攻撃性T細胞のPD-1が結合すると、そのT細胞はダメージを受けてしまいます。その結果、がん細胞はT細胞からの攻撃を免れます。

ではPD-1を介したシグナルが入るのをどうやって防ぐか。ここでPD-1に対する抗体が登場します。PD-1に対する抗体が体内に投与されると、がん細胞のPDL-1と免疫担当細胞のPD-1の結合を妨げます。結合が妨げられると、免疫担当細胞の「プログラム死」誘導が行われなくなる。結果として免疫担当細胞の「がん細胞」を攻撃する機序が残るのです(図2)。

がん細胞と攻撃性T細胞の結合が抗PD-1抗体によって妨げられると、T細胞はがん細胞に対する攻撃を開始します。

マウスにおけるPD-1分子に対する抗体は順天堂大学で作成されたとのことですが、動物実験ではなかなか効果が確認できなかったようです(Ko Okumura, personal communication)。しかし、研究を積み重ねると、マウスにおいて腫瘍増殖を抑えることが分かり、ヒトに対しても腫瘍の増殖抑制効果が期待されました。そして日本では、PD-1に対する治療が2014年に悪性黒色腫に対して、また2015年には非小細胞性肺がんに対して承認されました。アメリカで行われた研究結果を示します(参考文献1、図3)。

各種肺がん患者において、抗PD-1抗体を投与した後の生存グラフ
▲は扁平上皮がん、●は非扁平上皮がん、■はすべての肺がんの患者のデータ。
投与後18か月時点での生存率は非扁平上皮がんで60%強、扁平上皮がんで40%強、全肺がんで57%でした。

52人の非小細胞性肺がんにオプジーボを投与した際のデータ。3mg/kgを2週間ごとに受け入れ難い副作用が出るまで、もしくは、がんの増殖が認められるまで投与されました。中間生存期間は19.4か月(0.2~35.8か月)、1年生存率、1.5年生存率は各73%、57%でした。従来の化学療法では1年生存率、2年生存率は30~44%、10~18%ですので、(調査期間の差はあれ)かなり効果がありそうなことが予想されます。一方、副作用は倦怠感(29%)、ほてり感(19%)、吐き気(14%)、そのほか下痢などで、特に重篤なものはなかったとのこと。

3.最後に

冒頭の友人は、残念ながら今年の夏前に再発した肺がんで亡くなりました。それでも(末期の肺がんとの)診断を受け、余命半年と言われたあとも、1年半くらいは普通の生活を送ることができたようです。この抗がん治療は久しぶりに日本から出たものですが、今後の研究の推移に注目したいものです。

参考文献:

  • Nivolumab Monotherapy for First-Line Treatment of Advanced Non-Small-Cell Lung Cancer, Scott Gettinger, et al. J.Clin Oncology 34, 2980-2989, 2016

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