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同友会メディカルニュース

2017年3月号
汗っかきに潜む怖い病気

汗をかくのは自然なことですが、異常に発汗してしまう多汗症という病気があります。日本人の7人に1人は多汗を自覚しており、厚生労働省研究班の調査によると手のひら・足の裏の多汗症重症者は80万人ほどいるといわれています。多汗症の重症例では紙が濡れて書類に記入できない、顔から汗が垂れて会話に支障が出るなど、生活の質への影響が大きいのですが、ちゃんと病院を受診している人はごく一部で、密かに悩んでいるかたも多い病気です。今回はそんな多汗症の原因と治療についてご紹介します。

1 はじめに

そもそも、われわれは汗をなぜかくのでしょうか。汗は汗腺が血液をろ過して作る液体ですが、汗腺には全身にあって特にひたい・手のひら・足の裏に多いエクリン汗腺と、わき・乳輪・陰部などにあるアポクリン汗腺の2種類があります(両者の特徴を併せ持つアポエクリン汗腺も存在するという説もあります)。脳、脊髄、末梢神経のどこかに刺激が加わり交感神経が興奮すると、交感神経末端からアセチルコリンという物質が出て、汗腺が活動して汗を作り、体温を下げたり、皮膚を潤わせて手足を滑りにくくしたり、過剰な塩分を廃棄したり、微生物を洗い流したりしているのです。

2 発汗の種類

ではどういった刺激が加わると発汗につながるのかというと、主なものは3つあります。まず1つめは温熱性発汗といい、暑い時や激しい運動時に体温が上昇すると脳の視床下部にある体温調節中枢が指令を出し、じわっと全身の汗腺から発汗します。1mlの水が蒸発する際に0.58kcalの熱を奪うので、汗(99%は水分)が100ml蒸発すると、体重70kgの人の体温を1度下げられます。汗が蒸発する前に流れ落ちたり、タオルで拭いたりすると体温が下がらないので、余計に汗が出てきてしまいます。ちなみに、肥満の人は厚い皮下脂肪が体温の放熱をブロックするため、汗をたくさんかいて体温を下げる必要がでてきます。

2つめは精神性発汗といい、恐怖や緊張、興奮などの強いストレス時に脳の前頭葉や辺縁系と呼ばれる部分が刺激され、瞬時に発汗します。ひたいや首筋の発汗は活発に活動し代謝が上がった脳を冷却する意味があり、わきの発汗は闘争・逃避で筋肉を使うための準備として、わきの太い血管を通る血液を冷やして全身の体温を下げる意味があり、これらは一種の温熱性発汗とも言えます。一方、手のひら・足の裏の発汗は体温を下げる効果はほとんどなく、滑らずに木の枝をつかんで逃げるサルの時代のなごりと言われています。精神性発汗は個人差や状況による違いが大きく、精神療法が用いられることもあります(後述)。うそ発見器にも用いられ、精度は約70%と推測されています。

3つめは味覚性発汗といい、主に辛い物を食べると頭皮・顔面を中心とした上半身に発汗します。この役割ははっきりしていませんが、辛さによる刺激を口腔内の温度上昇と脳が勘違いし、冷却しようとしているという説があります。病的なものとして、耳下腺周囲の炎症や手術によって耳介側頭神経が損傷した後、汗腺に関連した誤った経路で神経が再生され、数年後に味覚性多汗を発症してしまうFrey症候群という病気もあります。

その他、口腔乾燥に対し使われるピロカルピン、腸管麻痺や円形脱毛症に対し使われるアセチルコリン、アルツハイマー病や重症筋無力症に使われるコリンエステラーゼ阻害薬、抗うつ剤などの薬によって引き起こされる薬剤性発汗等もあります。

3 多汗症の分類

まず汗の出かたについて分類すると、全身の汗が増える全身性と、特定の部位だけ汗が増える局所性があります。後者のほうが圧倒的に多く、約90%と言われています。全身性の一部には家族・親戚に同症状の方がおり、遺伝の影響が示唆されています。

次に原因別に分類すると、他の病気に合併して起きる続発性と、特に悪さをしている臓器がなく原因不明である原発性に分けられます。

汗の出かた別 全身性(10%) 原因別 続発性
局所性(90%) 原発性

4 続発性多汗症の原因と治療

続発性多汗症の原因となる主な病気を表に示します。

全身性 薬剤性、薬物乱用、循環器疾患、呼吸不全、感染症、悪性腫瘍、内分泌代謝疾患(甲状腺機能亢進症、低血糖、褐色細胞腫、末端肥大症、カルチノイド腫瘍)、神経学的疾患(パーキンソン病)
局所性 脳梗塞、末梢神経障害、神経障害による無汗から起こる他部位での代償性発汗 (脳梗塞、脊椎損傷、Ross症候群)、Frey症候群、エクリン母斑、不安障害、片側性局所性多汗症(例:神経障害、腫瘍)

多汗以外に、例えば胸がどきどきする、呼吸が苦しい、咳が出るなどの症状が強ければ病院を受診されることが多いのですが、他に症状が乏しい場合は我慢してしまい、発見・治療が遅れることがあります。

以下に注意しないといけない病気を挙げます。

甲状腺機能亢進症
首の前面に甲状腺という臓器があり、エネルギーの利用を促すホルモンを分泌しています。このホルモンが過剰に産生されると多汗を引き起こします。その原因として、免疫力が暴走して自分の甲状腺を攻撃してしまうバセドウ病や慢性甲状腺炎、ホルモンを過剰に出す甲状腺腫瘍によるプランマ―病、甲状腺を刺激するホルモンを過剰に出してしまう脳下垂体腫瘍などが挙げられます。代謝内分泌内科が専門です。
更年期障害
女性の場合、女性ホルモンの一つ、エストロゲンが30代半ばから減りはじめ、40代半ばからは急激に減少します。この変化によって自律神経が不安定となり、さまざまな症状を引き起こしますが、そのひとつが多汗症です。婦人科が専門で、治療としてはエストロゲンを補充するホルモン補充療法があります。
感染症
菌やウイルスに感染した場合、発熱や倦怠感などの症状とともに多汗になる場合があります。最近、過去の病気と思われていた結核が流行しており、多汗をきっかけに感染が判明することがあります。内科が専門です。
褐色細胞腫
副腎という小さな臓器がありますが、そこに腫瘍ができてカテコールアミン(アドレナリン,ノルアドレナリン,ドパミンの総称)が過剰に作られ、多汗・高血圧・糖尿病・頭痛などを引き起こすことがあります。治療の基本は手術による腫瘍摘出です。代謝内分泌内科が専門です。
低血糖
血糖値が70mg/dL以下になると交感神経が興奮し、冷汗、手の震え、頻脈、顔面蒼白といった症状が出てきます。50mg/dL以下になると意識がもうろうとなり、すぐに血糖値を上げないと危険な状態です。低血糖の原因として最も多いのは糖尿病治療薬の効き過ぎですが、他にインスリンを過剰産生する腫瘍(インスリノーマ)や副腎機能低下症なども原因となります。内科が専門です。
悪性リンパ腫
リンパ組織から発生した悪性腫瘍の総称で、首やわき、鼠径部のリンパ節が腫れて気づくことが多く、大量の寝汗をかく症状が知られています。血液内科が専門で、化学療法(抗がん剤)や放射線治療を行うことになります。

5 原発性局所多汗症の治療

特に原因となる病気がないのに、温熱や精神的負荷の有無にかかわらず、日常生活に支障をきたすほどの大量の汗を生じる状態を原発性局所多汗症といいます。

過去にさまざまな治療が行われてきましたが、標準的治療の目安を示すため、日本皮膚科学会が2010年に診療ガイドラインを作成しました。最新は2015年版で、日本皮膚科学会のホームページに公開されています。診療ガイドラインでは手のひら、足の裏、わき、頭部・顔面の4つにわけて、それぞれに対する治療方法の推奨度を定めています。

手のひらに対しては塩化アルミニウムの外用またはイオントフォレーシス(手足を水のはった容器に浸し、弱い電流を流す)をまず行い、どちらも効果がない場合はA型ボツリヌス菌毒素(デトックス®等)の注射を行います。重症例では手術(胸腔鏡下胸部交感神経遮断術;ETS)を行うこともありますが、合併症として治療していない部位が多汗になってしまう代償性発汗が起きる可能性があります。

足の裏に対しては塩化アルミニウムかイオントフォレーシス、無効ならボツリヌス菌毒素注射が推奨されています。

わきに対しては塩化アルミニウムの外用をまず行い、無効ならボツリヌス菌毒素注射を行います。強い希望があればETSも可能ですが、推奨度は手のひらより下がります。

頭部・顔面に対しては塩化アルミニウムの外用または抗コリン薬などの内服治療を行い、無効ならボツリヌス菌毒素注射を行います。わきと同様に、ETSも可能ですが推奨度は手のひらより下がります。

塩化アルミニウムの外用やボツリヌス菌毒素注射、イオントフォレーシスは皮膚科が専門です。ETSは麻酔科(ペインクリニック科)、呼吸器外科の医師が行うことが多いようです。

診療ガイドラインでは、精神(心理)療法についても言及されており、いずれの多汗症においても「単独では効果を期待できないが、他の治療と併用すると効果をより高める可能性がある」とされています。具体的には催眠療法、バイオフィードバック、森田療法、認知療法が挙げられており、精神科や心療内科を中心に行われています。

6 おわりに

多汗症で密かに悩んでいる方は意外にいらっしゃるようですが、前述のように思わぬ病気が隠れていることもありますし、病気がないならないで有効な治療方法がいくつもあります。汗をかいて焦ると余計に発汗してしまい、悪循環になりますので、ぜひ皮膚科か内科を受診してみてください。

蛇足ですが、ちゃんと働く汗腺(能動汗腺)の数は2~3歳までに決まります。乳幼児がエアコンの効いた室温が一定に保たれた環境に長くいると、能動汗腺が減って発汗による体温調節能力が落ちてしまいますので、時々は適度に汗をかく生活も大切です。

  • 参考文献:
  • 1) 原発性局所多汗症診療ガイドライン2015年改訂版
    日本皮膚科学会雑誌 125:P1379-1400, 2015
    https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/
    genpatuseikyokusyotaknsyouguideline2015.pdf
  • 2) 齋藤 博:多汗症 全身性多汗症と限局性多汗症 発汗学 23(suppl):P25-31, 2016
  • 3) 朝比奈 正人:精神性発汗の神経機構 BRAIN and NERVE 68:P883-892, 2016

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