煙が見えない新型タバコと健康被害　―加熱式タバコ・電子タバコ・紙巻きタバコの比較― | 同友会グループ

はじめにタバコの有害物質と喫煙に関する健康被害について、次に最近、改定された加熱式タバコや電子タバコに関する日本呼吸器学会の見解と提言、受動喫煙について概説します。

タバコの有害物質

タバコの煙の粒子は極めて小さく(PM0.5)、容易に肺の最深部（肺胞）に達し、呼気（吐く息）にも排出されます（図１）¹⁾。約5,300種類の化学物質が含まれており、そのうち約200種類が有害物質とされています。特に「三大有害物質」として知られているのは以下の３つです。

1. ニコチン：依存性がある有害物質で、血管を収縮させ血流を悪くする作用があります。
2. タール：多くのがんの原因となる発がん性物質を含み、肺をはじめ全身のがんのリスクを高めます。
3. 一酸化炭素：体内の酸素を奪い、頭の働きを鈍らせたり、体の成長を妨げたりします。

これらの有害物質は、タバコの葉だけでなく、タバコ製品に添加される化学物質からも発生します。

喫煙による健康被害

喫煙は、全身の様々な部分に深刻な健康被害をもたらします。

1. がん：肺がん、咽頭がん、食道がん、肝臓がん、胃がん、膵臓がん、膀胱がんなど、多くの種類のがんの原因となります。
2. 循環器疾患：血栓ができやすくなり、心筋梗塞や脳卒中、動脈硬化のリスクを高めます。特に、女性の場合、喫煙による冠動脈疾患のリスク上昇が男性よりも高いことが報告されています。
3. 呼吸器疾患: 気管支炎や肺胞が破壊され、肺気腫や慢性閉塞性肺疾患（COPD）、呼吸機能の低下、肺炎による死亡リスクの増加につながります。
4. その他の影響: 骨粗鬆症、消化性潰瘍、歯周病、白内障、加齢性黄斑変性症（失明の原因）などを引き起こすこともあります。

新型コロナウイルス感染症の重症化や後遺症についても、喫煙が発症リスクを高める可能性が指摘されています。更にコロナワクチンによる抗体価上昇が半分に抑えられることが報告されています²⁾。

国内では、喫煙に関連する病気で2019年には21万人の人が亡くなっており、この中で受動喫煙による死亡者数は1万7千人も含まれていると推計されています^{3) 4)}。このように、受動喫煙も深刻な健康被害をもたらします。

加熱式タバコや電子タバコに関する日本呼吸器学会の見解と提言、解説⁵⁾

日本呼吸器学会は、2017年に「非燃焼・加熱式タバコや電子タバコに関する日本呼吸器学会の見解」を発表しました。その後、非燃焼・加熱式タバコは加熱式タバコと呼ばれるようになり、国内外から加熱式タバコや電子タバコによる健康被害の報告も集積されつつあることから、2019年、改めて見解と提言が示されました。

見解

1. 加熱式タバコや電子タバコが産生するエアロゾルには有害成分が含まれており、健康への影響が不明のまま販売されていることは問題である。2.加熱式タバコの喫煙者や電子たばこの使用者の呼気には有害成分が含まれており、喫煙者・使用者だけでなく、他者にも健康被害を起こす可能性が高い。

提言

1. 加熱式タバコや電子タバコが紙巻タバコよりも健康リスクが低いという証拠はなく、いかなる目的であってもその喫煙や使用は推奨されない。2.加熱式タバコの喫煙や電子タバコの使用の際には紙巻タバコと同様な二次曝露対策が必要である。

解説

加熱式タバコは「タバコ事業法」で認可された「製造タバコ」の一つです。加熱式タバコは葉タバコの加工物を加熱してエアロゾル(微細なミスト) を発生します。①葉タバコの加工物を200〜350℃の高温で加熱してエアロゾルを産生するタイプ（高温加熱式）と② Eリキッドと呼ばれる溶液を30～40℃の低温で加熱して産生したエアロゾルを葉タバコの加工物に通すタイプ（低温加熱式）の2種類があります（表１）⁵⁾。加熱式タバコのエアロゾルにはニコチンや発がん物質などの有害成分が含まれており、わが国においても加熱式タバコの数ヵ月間の喫煙で肺障害が生じた事例がすでに報告されています。加熱式タバコによる健康被害のリスクが紙巻きタバコに比べて低いとする根拠はなく、長期的な健康被害を明らかにするには今後数十年にわたる調査が必要です。いわゆる低タールの紙巻タバコが安全ではなかったことが 2000 年代になって証明されたことと同様に、加熱式タバコも安全でないことが今後証明される可能性が高いと考えます。また、加熱式タバコはタバコ製品であり、紙巻きタバコから加熱式タバコに切り替えることは禁煙にはなりませんし、禁煙に役立つという証拠もありません。以上から、いかなる目的であっても加熱式タバコの喫煙は推奨できません。電子タバコはEリキッドと呼ばれる溶液を加熱して気化させ、産生したエアロゾルを吸入します。タバコの葉を用いていないために家電製品として危険性の検証が不十分なまま販売されています。Eリキッドにはニコチンを含むものと含まないものがあります。日本ではニコチンを含む電子タバコの製造や販売は承認されていませんが、市販されている電子タバコからニコチンが検出されたとの報告もあります。Eリキッドには様々な添加物や香料が加えられており、原材料は食品添加物としても広く使われているプロピレングリコールと植物性グリセリンなので、無害であっても加熱されることにより、発がん性のある有害物質（ホルムアルデヒドやアセトアルデヒド）が生じることが報告されています。また電子タバコが紙巻タバコの禁煙に役立つという明確な証拠もありません。ニコチンを含む・含まないにかかわらず健康への影響が懸念されることから、電子タバコの使用は推奨できません（表２）⁶⁾。

表1新型タバコと分類と種類

分類	種類
タバコ製品	加熱式タバコ
	高温加熱式	IQOS®、glo®、プルーム・エス®
	低温加熱式	プルーム・テック®、プルーム・テック・プラス®
非タバコ製品 （電化製品）	ニコチン非含有電子タバコ （※日本ではニコチン含有電子タバコの販売は許可されていません。）

文献5）より引用

表2加熱式タバコ、電子タバコ、紙巻タバコの相違点

	加熱式タバコ	電子タバコ	紙巻タバコ
タバコ葉	使用	使用しない	使用
有害化学物質	あり	あり	あり
ニコチン	あり 紙巻タバコと同等	なし （海外はあり）	あり
充填液	一部製品で使用	使用	不使用
燃焼	なし	なし	あり
タバコ事業法	対象	対象外	対象
タバコ税	あり	なし	あり
ニコチン・タール量表示	なし	なし	あり
外部加温装置	使用	使用	使用しない
煙・エアロゾルの発生原理	加工されたタバコ葉を加熱	味のついたプロピレングリコール等を熱コイルで蒸気にする	タバコ葉の燃焼（紙巻タバコと同様）

J. Natl. Inst. Public Health, 69（2）：2020 改変

加熱式タバコから出る有害物質の量は紙巻タバコと比べて少ないものも多いものもあり、有害物質の種類は同様に多い。グリセリンなどの化学物質を大量に肺の奥まで吸い込む。

受動喫煙

タバコを吸わない人でも、タバコの煙を吸い込むことで、喫煙者と同じように健康被害を受ける可能性があります。これを「受動喫煙」と呼びます。タバコの煙には、喫煙者が直接吸い込む「主流煙」よりも、火のついた先から立ち上る「副流煙」に多くの有害物質が含まれています（図２）⁷⁾。受動喫煙は、肺がんや心筋梗塞のリスクを高めるだけでなく、特に子どもに喘息や乳幼児突然死症候群のリスクを高めることが知られています。妊婦の場合、早産や低出生体重児、胎児発育遅延の原因にもなります。加熱式タバコは煙が見えにくいですが、呼気に有害成分が含まれており、2 メートル以上の距離まで届くことが確認されています。健康に有害な微小粒子状物質(PM2.5)も2メートル地点に十分届くことが示されており、実際にそれよりも小さな粒子(PM0.5)を発生する加熱式タバコを近くで喫煙された場合、非喫煙者の37％に気分不良などの症状が発生したことがすでに報告されています。特に、家庭内で加熱式タバコを使用した場合、非喫煙者の家族の尿中からニコチン代謝物が検出されたという報告もあります（図3）⁸⁾。

以上、加熱式タバコの長期間の受動喫煙による健康被害を科学的に明らかにするには今後の研究が必要ですが、加熱式タバコ喫煙者の呼気エアロゾルに有害物質が含まれていることから、受動喫煙を容認することはできません。同様に、電子タバコの二次曝露も容認できません。