季刊誌「お元気ですか」2026年01月号

「私の健康法」

葛西 紀明さん

金メダルが欲しいというのはもちろん目標や夢ですが、
一番欲しいものは皆さんからの「声」なんです

スキージャンプ選手
リレハンメル、ソチオリンピック銀メダリスト
葛西 紀明さん

― 今回はスキージャンプ選手の葛西紀明様にご登場いただきました。数多くのオリンピック、世界選手権大会に出場され、スキージャンプの選手としては異例の約40年のキャリアで「スキー界のレジェンド」の異名を持たれています。現在53歳になられても現役ジャンパーとしてご活躍される葛西さんに、子供の頃からのトレーニング方法や緊張の解消法などをお話いただきました。

嫌々だったランニング
今でも毎日続けています

小さな頃から寒いのは苦手でした。地元・下川は本当に寒かったです。昔は薪ストーブでしたが、寝ている間に消えちゃうんですよ。そしたら朝はキンキンに寒くて。マイナス30度っていう日もありますから。親がストーブをつけてくれるまで布団から出られませんでした。でも、寒い方がぐっすり眠れるんですよ。なので、眠る時にはなるべく寒めの気温にします。

子供の頃は体が弱くて、よく病院へ連れて行かれていました。でも小学3年の時、親父に「毎日走ってこい」って怒られて、それでランニングするようになりました。足も速かったので、親父はマラソン選手にしたかったんじゃないですかね。サッカーをやってみても、リフティングはすぐできるようになって、小学5~6年の頃は5百回できましたね。縄跳びは三重跳びもできました。誰かに教えてもらったわけじゃなく、二重跳びはできるけど、三重跳びはどうすればできるんだろうって自分で考えて、毎日練習してどんどんできるようになりました。割と何をやっても器用にこなして、さらに極める男だったと思います。

親父に怒られながら嫌々やっていたランニングですが、そのおかげで今でも習慣化しています。今朝も走ってきましたし、昨日も一昨日も、行くところ行くところで欠かさずランニングをしています。サウナスーツを着て、なるべく汗をたくさん出す。汗を出すことで若返りもあると思うんですよ。体の中の老廃物を汗で全部出して、代わりにきれいな水を入れるというか、そんな考えでやっています。もちろん健康にも良いと思いますし、持久力もつくし、精神的なトレーニングとしてもいいなと思っています。

50歳越えた頃に断食はやめ
運動で体重を落としています

若い頃は調理師、栄養士がついていましたけど、大体どんなものを食べ、どんな栄養素を摂るのかっていうのを教えてもらっていたので、今は自分で大体どのような食事をすればよいかって分かっているし、カロリー計算もできるので、もう調理師も栄養士もつけていないです。

30代の頃はトレーニングをすれば体重は自然と落ちて維持できていたんですが、40代・50代になるとだんだん代謝が悪くなって、それで断食をするようになったんです。40代は体重を落とすのに3日間断食していました。断食といっても、朝はしっかり食べて、昼は野菜スープかサラダとか。そして夜は抜くとか、そういう感じで調整をしていましたね。50代になると、今度は断食をすると筋肉がすごく痛むんですよ。これは断食ダメだなって思い、食事を減らしつつ、なるべく運動量で体重を落とすようにしました。長期的に考えながら、走る量を増やしたり、嫌いなサラダを我慢して食べたりして体重を落とすんです。本当は炭水化物大好きなんですよ。白飯とかラーメンとか(笑)。

サウナで編み出した呼吸法
「レジェンド・ブレス」

葛西 紀明さん

ジャンプをする時は今でも緊張しますよ。心臓が「ドドドドド…」って打つんですよ。ジャンプするときのウェアって、首の部分がタイトなんで、動脈が衿の部分に当たって、ドドドドド…って。うわぁ、緊張してるって、すぐ分かるんですよ。大体そういう時は失敗するんです。メンタルトレーニングとか色々やったんですけど、全然ダメなんですよね。

ですが、自分で編み出した呼吸法で、なんとか乗り越えられたんです。「レジェンド・ブレス」なんて言われていますが、35歳ぐらいの時に、サウナに入っている時に編み出したんです。サウナから出た後って脈が上がるんですよ、ドドドドド…って。それで、水風呂に鼻をつまんで潜ったんですよ。しばらく潜っていると、水の中で鼓動が聞こえてくるんですが、ポン、ポン、ポンって、だんだん遅くなるんです。その時に、息止めると鼓動って遅くなるんだって気づいたんです。

これはジャンプの時にも使えるんじゃないかと思って。思いっきり鼻から息を吸って、肺に溜めて止める。自分の限界まで止めて、もうダメっていうところで、口を笑顔の形にして、歯の隙間からスーッて吐いていくんです。すると脈がだんだん遅くなっていくんです。ジャンプのスタートの時、最初に黄色信号が灯って、15秒くらい経つと青に変わって、スタートするんですが、そのタイミングに合うように、思いっきり吸って止めて、限界まで我慢して、フーッと吐く。すると脈が丁度よく落ちるんですね。それでスタートをすると、もう何の緊張もなく、頭が冴えて、ズバーンと飛んでいけたんですよ。それを35歳くらいの時に編み出したんですよね。それ以来、あまり失敗はありません。

これからも活躍をつづけ
皆さんを元気にしたい

今、この年でも競技を続けていられることが幸せです。色々なところに遠征に行きますが、声をかけていただけるんです。「その年でよく頑張っているね」「すごい勇気をもらったよ」って言っていただけるんです。まだ持ってない金メダルが欲しいっていうのは、もちろん自分の中での目標とか夢ではあるんですけど、一番欲しいものは皆さんからの「声」。逆に私が元気をもらってるんじゃないかなと思っていますし、その声のおかげで頑張れるし、また私がそのことで成績を出せて、また周りの人がもっと元気になるっていうんだったら、もうやめる必要ないなって。これからもどんどん活躍して、皆さんに元気を届けていきたいって思っています。(談)

葛西 紀明(かさい のりあき)さん

<プロフィール>
葛西 紀明(かさい のりあき)さん
1972年生まれ。北海道上川郡下川町出身。
1988年、16歳の時に日本代表選手として国際大会に出場。史上最多計8回の冬季オリンピック出場経験を持ち、1994年リレハンメルで銀、2014年ソチで銀・銅メダルを獲得。現在も現役で活躍しており、オリンピック、ワールドカップなど出場回数や最年長メダリストなど数々の世界記録を保持している。土屋ホーム所属。

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