同友会メディカルニュース

2026年6月号
ウェアラブル時代の健康管理

Apple Watchを代表とするスマートウォッチを腕に着けている人を見かけることが増えました。体に装着して使用する小型コンピューター端末は「ウェアラブルデバイス」と呼ばれ、腕時計型のスマートウォッチ、指輪型のスマートリング、眼鏡型のスマートグラスなど、さまざまなタイプが登場しています。

ウェアラブル機器 メールを読んだり、SNSの通知を確認したりするだけでなく、最近では心拍数、睡眠時間、歩数、消費カロリー、体温、さらには心電図や血中酸素飽和度まで測定できる機種もあります。腕に貼る持続血糖測定器(CGM:Continuous Glucose Monitoring)も通販で手軽に購入できるようになりました。まさに、「自分の体を数値で管理する」時代が到来しつつあります。

健康管理を支える大きな利点

では、こうしたウェアラブルデバイスは本当に人を健康にするのでしょうか。医療者の立場から見ると、その恩恵は確かに大きいと感じます。

最大の利点は、「自分の状態を可視化できること」です。人間の感覚は意外にあてにならないもので、睡眠不足だと思っていても実際には十分眠れていたり、逆に大丈夫だと思っていても慢性的な睡眠不足だったりすることがあります。運動量も同様で、「かなり歩いた」と思っていても、一日の歩数を見ると意外に少ないことがあります。数字は、自分の思い込みを客観的に修正してくれるのです。

高血圧や糖尿病が「サイレントキラー」と呼ばれるように、生活習慣病は自覚症状に乏しいまま進行します。だからこそ、日常のデータを継続的に記録する意味は大きいと言えるでしょう。実際、スマートウォッチをきっかけに心房細動などの不整脈が見つかり、脳梗塞を未然に防げた例も報告されています。

また、ウェアラブルデバイスは運動習慣の改善にも役立ちます。「今日は目標まであと2000歩です」と表示されれば、エレベーターではなく階段を選ぼうという気持ちになります。人は曖昧な目標よりも具体的な数字のほうが行動に移しやすく、歩数や運動時間が見えることで健康行動を継続しやすくなるのです。

「測りすぎ」が生む健康不安

一方で、医療現場では別の変化も起きており、「スマートウォッチで異常が出たので心配です」と受診する患者さんが増えてきています。もちろん本当に病気が見つかる場合もありますが、医学的には問題がないケースも少なくありません。

そもそも人間の体は、多少の不規則さを含んでいます。脈拍は感情や睡眠、疲労、カフェインやアルコール摂取などでも簡単に変動しますし、睡眠も毎日完璧に一定という人はほとんどいません。24時間測定を続ければ、一時的に基準値から外れることは当然起こり得ることです。

問題は、その数字に人が振り回され始めることです。以前から、一日に10回も20回も血圧を測ってメモ帳に記載し、一喜一憂する方はいらっしゃいました。しかし現在は、家庭でも職場でも、電車の中でも測定できる項目が増えたことにより、「昨日より睡眠スコアが低かった」「脈拍が少し高い」「血糖値が急に上がった」――そうした小さな変化を過度に気にするあまり、かえって不安が強くなってしまう人もいます。健康になるための機器が、逆に健康不安を増幅させてしまうのです。

数値だけでは健康は測れない

医療には「基準値はあくまで目安」という考え方があります。そもそも基準値とは「健康な人の95%がおさまる範囲」であり、健康な人の5%は基準値を外れます。逆に、重い病気があっても検査値にほとんど異常が出ない人もいます。

つまり、検査の数値は絶対ではなく、その人全体を見て判断しなければなりません。しかしウェアラブルデバイスは、どうしても「数字だけ」を強調しがちです。睡眠時間が5時間でも、本人が日中元気ならまず問題はありません。逆に理想的な睡眠時間を確保していても、強いストレスの中で生活していれば健康とは言えないでしょう。人間の健康は、そんなに単純ではありません。

さらに難しいのは、「測れるもの」と「本当に大切なもの」が一致するとは限らない点です。歩数や心拍数は簡単に数値化できますが、孤独感、仕事のストレス、人間関係、生きがいといった要素は測定が難しい。しかし実際には、そうしたものこそ健康に大きな影響を与えているのです。

テクノロジーと共に

もちろん、ウェアラブルデバイスそのものを否定したいわけではありません。今後さらに精度が向上し、データ活用のノウハウが蓄積されれば、病気の早期発見や予防医療にさらに大きく貢献する可能性があります。高齢化社会では、家族や医療者が遠隔地から健康状態を見守る技術としても重要性を増していくでしょう。

ただ、機器が示す数字はあくまで「参考情報」の一つに過ぎません。最終的に大切なのは、その人自身が日常生活をどう送れているかです。よく眠れ、無理なく歩け、食事を楽しめる。誰かと笑って過ごせる。そうした当たり前の感覚は、どれほど高性能なセンサーでも完全には測定できません。

私たち医療者も、検査データだけを見ているわけではありません。受診者がどんな生活を送り、何に不安を感じ、どんな毎日を望んでいるのかを含めて、一緒に健康を考えていきたいと思っています。数字に振り回されるのではなく、自分の体調を理解する「手がかり」として、上手に活用していきましょう。

参考文献

  1. 井藤葉子. ウェアラブル端末Apple Watchなどを活用した不整脈診断の実際. 検査と技術 2025; 53(5):522-6.
  2. 葉山恵津子ら. 腕時計型脈波モニタリングデバイスによる心房細動の検出の妥当性に関する研究:ホルター心電計との比較(CVI ARO3研究). 心電図 2020; 40(4):207-16.
  3. 木村雄弘. Apple Watchを用いたDigital Cardiology. 心臓 2020; 52(6):582-7.
  4. Perez MVら. Large-scale assessment of a smartwatch to identify atrial fibrillation. N Engl J Med 2019; 381(20):1909-17.
  5. 山本浩一. 高齢者医療におけるウェアラブルデバイスの役割と最新の研究動向. 日老医誌 2025; 62(4):348-55.

同友会メディカルニュース / 医療と健康(老友新聞)

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