同友会メディカルニュース

2026年8月号
慢性炎症と老化について

はじめに

世界保健機関(WHO)では、不健康な食事・運動不足・喫煙・過度の飲酒・大気汚染などにより引き起こされるがん・糖尿病・循環器および呼吸器疾患などの慢性疾患をまとめて「非感染性疾患」(Non-Communicable Diseases:NCDs)と定義し、保健衛生上の重要な課題としています。NCDsの多くは加齢とともに有病率が上昇することや、高齢者では明らかな症状がなくても血液中の炎症マーカーが増加している現象がみられ、軽微かつ持続的な炎症の存在が示唆されることなどからNCDsに加齢と「慢性炎症」という病態が関連することが明らかになりつつあります。近年、この慢性炎症が様々な疾患や老化の進行の基盤をなすという「炎症老化」という概念が注目されています。

老化の図

① 慢性炎症とは

細菌やウイルスの体内への侵入や外傷などに対する生体防御反応として炎症が引き起こされます。急性の炎症は発熱・発赤・疼痛・腫脹などの症状を呈し、病原体などの原因が除去されると健常な状態に戻ります。

これに対し慢性炎症は炎症の原因が排除できないか、炎症を抑制する体内のシステムが正常に機能しない場合に生じ、急性炎症のような症状は示さずに低レベルの炎症反応が長期にわたって持続し遷延化することが特徴です。高齢者では感染などの原因がなく無症状でも炎症マーカーのCRPや高感度CRP、炎症性サイトカイン(炎症を促進する働きをもつ血液中の伝達物質)のIL-6やTNF-αといった物質が血液中に増加しており、加齢に伴って持続的で低レベルの炎症が生じていることが考えられます。

② 老化とは

ではなぜ高齢者で慢性炎症がみられるのでしょうか。それには「老化」を理解する必要があります。

「細胞老化」は細胞が一定の回数分裂を繰り返した後、DNAの損傷などの原因により細胞分裂を停止する現象と定義されています。細胞老化を起こしてもそれらの細胞が全て死滅するわけではなく、後述する免疫老化などにより老化した細胞が体内に存在し続けるとその細胞はSASP(Senescence-Associated Secretory Phenotype:細胞老化随伴分泌現象)因子という炎症を引き起こす物質を周囲の組織に分泌するようになります。このSASP因子が老化細胞の周囲の組織に持続的で低レベルの慢性炎症を引き起こすと考えられています。

炎症に深くかかわる免疫にも変化がみられます。加齢に伴い免疫系の効率や正確性が低下する現象を「免疫老化」といい、炎症をコントロールするネットワークの変調により免疫応答の制御異常が生じ、低レベルの炎症状態の持続などをもたらす原因となります。

これらの細胞や免疫の老化により体内のシステムの変調が複雑に絡み合いながら慢性炎症が進行してゆくと考えられており、その慢性炎症が細胞・臓器の機能低下をもたらし生活習慣病などの加齢関連性疾患の発症・進展に寄与すること(=炎症老化)が明らかになってきています。

③ 食事性炎症指数(Dietary Inflammatory Index:DII)について

内臓脂肪型肥満も慢性炎症の原因の一つとして考えられています。内臓脂肪が過剰に蓄積することで生活習慣病が生じやすくなることが知られていますが、これは肥大した内臓脂肪組織から前述の炎症性サイトカインであるTNF-αやIL-6が血液中に分泌されて慢性炎症を誘起し、生活習慣病を発症・進展させる一因となるものと考えられています。

慢性炎症を予防するには内臓脂肪を減少させることが重要ですが、それには運動や食生活など、生活習慣のコントロールが重要となります。では、どのような食事が慢性炎症の予防につながるのでしょうか。その指標の一例として「食事性炎症指数」(DII)があります。

DIIは食事が炎症状態に与える影響を評価するための指標で、2011年に米国のサウスカロライナ大学により研究開発されました(表1)。様々な研究から特定した栄養素や食品について炎症促進性と抗炎症性をスコア化しています。生体内の炎症の程度を示す指標として血液中のIL-1β、IL-4、IL-6、IL-10、TNF-α、CRPの6種類の物質を測定し、これらの指標の増減をスコア化し値が高いほど炎症を促す食事、低いほど炎症を抑える食事であることを示しています。原法のDII計算式が複雑なため日本ではまだ研究段階ですが、実際に医療の現場で疾患の予防や治療に簡易的なDIIを活用する取り組みが進んできています。

④ 今後の展望

慢性炎症の予防には生活習慣の是正も重要ですが、前述のように老化細胞から分泌されるSASP因子や免疫老化などにより慢性炎症が誘起され、様々な加齢関連疾患をきたすことが明らかになってきています。そこで老化細胞を除去することで加齢性疾患の発症ないしは進展を予防するという治療戦略が提唱されました。動物実験では老化細胞の除去により動脈硬化などの加齢関連疾患の発症が遅れ、運動耐容能が向上し健康寿命が延伸することが報告されています。

老化細胞除去を目的としてワクチンや、多くのがん治療に適用されている抗PD-1抗体治療薬(ニボルマブ)などが老化細胞を除去する可能性のある治療法として考えられており、臨床研究が行われていますが副作用や効果などまだ明らかになっていない部分も多く、今後のさらなる実用化研究が待たれます。

表1DIIに関連する栄養素や食品
  DIIが低いもの
(炎症を抑える)
DIIが高いもの
(炎症を促す)

栄養素や食品

ビタミン類

(A・B1・B2・B6・C・D・E)、βカロテン、葉酸、ナイアシン

ミネラル類

マグネシウム、セレン、亜鉛

脂質

n-3系・n-6系脂肪酸、不飽和脂肪酸

食物繊維

野菜

ニンニク、ショウガ、タマネギ

スパイス・ハーブ

サフラン、ウコン、コショウ、タイム、オレガノ、ローズマリー

飲料

緑茶、紅茶、アルコール

抗酸化作用のある成分

カフェイン、オイゲノール、フラバン3オール、フラボン、フラボノール、フラバノン、アントシアニジン、イソフラボン

ビタミン類

B12

ミネラル類


炭水化物

脂質

コレステロール、中性脂肪、リン脂質、飽和脂肪酸、トランス脂肪酸

蛋白質

参考文献

  1. 中西真. 別冊・医学のあゆみ 老化を標的とした疾患予防・治療. 医歯薬出版株式会社;2024年9月.
  2. 尾池雄一、真鍋一郎. [特集]炎症老化 Inflammaging. 実験医学. Vol.41 No.19 羊土社;2023年12月.
  3. 高橋将文.  Inflammaging(炎症老化)Organ Biology. 2023;Vol.30 No.1 :p43-45
  4. 宮崎滋. 肥満と炎症. オレオサイエンス. 2024;第24巻9号:p391-397
  5. Designing and developing a literature-derived, population-based dietary inflammatory index. Nitin Shivappa, et al. Public Health Nutrition 2014 Aug; 17(8), 1689-1696

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