同友会メディカルニュース

2026年11月号
中小企業で働く人の健康を守るために
―協会けんぽの人間ドック健診への補助が始まりました―

2026年度から、全国健康保険協会(協会けんぽ)が、35歳から74歳までの被保険者を対象として、人間ドック健診への費用補助を開始しました。補助額は最大25,000円で、これまでの生活習慣病予防健診に加えて、人間ドックという新たな選択肢が加わったことになります。

このような保険者が実施する健診とは別に、わが国では、働く人の健康を守るため、事業者に定期健康診断の実施が義務づけられています。しかし、どのような企業で働いていても、同じような健康管理を受けられているかというと、必ずしもそうではありません。

笑顔で集まる中小企業の社長と、スーツ・事務服・作業着姿の従業員

企業の規模によって健康に差がある可能性

一般に、大企業では産業医や保健師などの産業保健スタッフが配置され、定期健康診断だけでなく、健診後の保健指導、メンタルヘルス対策、生活習慣病予防など、さまざまな健康管理が行われています。

一方、中小企業、特に従業員50人未満の事業場では産業医の選任義務がないこともあり、十分な産業保健体制を整えることが難しい場合があります。

こうした企業規模による健康管理体制の違いが、働く人の健康にも影響している可能性は以前から指摘されています。

産業医科大学の研究グループは、常勤産業医による健康診断とその後の事後措置が徹底されている大企業の事業所における在職死亡について長期間にわたり調査しています。その結果、20~59歳の男性では、一般人口と比較した標準化死亡比(SMR;Standardized Mortality Ratio. 年齢構成が異なる地域や集団の間で、死亡状況を公平に比較するために使われる指標)は、全死因で0.42、がん0.66、循環器疾患0.70、自殺0.31と、いずれも低い値を示していました。女性についても全死因の標準化死亡比は0.39でした。

また、日本の高齢者35,418人を対象として、それまで最も長く勤務した企業の規模とその後の死亡との関係を最大6.6年間追跡した研究では、男性については、勤務していた企業の規模が大きいほど死亡リスクが低くなる傾向が認められました。従業員1~9人の企業で働いていた人を基準とすると、従業員1万人以上の企業で働いていた男性では死亡リスクが約22%低いという結果でした。

もちろん、これらの研究から「大企業に勤めれば長生きできる」と結論づけることはできません。所得、職種、教育歴、労働環境、生活習慣など、さまざまな要因が関係しています。また、産業医科大学の研究は健康管理体制の整った大企業と一般人口との比較であり、企業規模そのものの効果を示したものではありません。

しかし、企業規模によって産業保健体制に差があり、働く人が受けられる健康管理にも違いが生じていることを考えると、中小企業で働く方々の健康管理をどのように充実させていくかは、わが国の予防医療における重要な課題といえるでしょう。

中小企業の健康管理をどう支えるか

日本の企業の大多数は中小企業です。

大企業であれば、自社で産業医や保健師を配置し、充実した健康管理体制を構築することも可能です。しかし、数十人、場合によっては数人の事業所が同じような仕組みを自前で整えることには限界があります。

だからこそ、中小企業で働く人の健康を守るためには、それぞれの企業の努力だけに委ねるのではなく、社会全体で健康管理を支える仕組みが必要です。

協会けんぽは、主として中小企業などで働く方とそのご家族が加入する、わが国最大の医療保険者です。その協会けんぽが2026年度から人間ドック健診への補助を開始したことには、大きな意味があると考えています。

人間ドックでは、生活習慣病予防健診の検査項目に加えて、より詳しい血液検査や腹部超音波検査、眼圧検査などが行われ、当日の医師による健診結果の説明も含まれます。これまで「人間ドックを受けてみたいけれど、費用が気になる」と考えていた方にとって、利用しやすくなる制度といえるでしょう。

健診は「受けて終わり」ではありません

ただし、人間ドックを受ければ、それだけで健康になれるわけではありません。大切なのは、健診によって自分の健康状態を知り、異常が見つかれば必要な精密検査や治療を受けることです。また、血圧、血糖、コレステロール、体重などに将来の疾病につながる兆候があれば、生活習慣を見直すきっかけにすることも重要です。

人間ドックの価値は、病気を早期に発見することだけではありません。現在の自分の健康状態を総合的に確認し、将来の病気を予防するために何をすればよいのかを考える機会でもあります。特に、日頃なかなか健康について考える機会がない方にこそ、こうした機会を活用していただきたいと思います。

働く企業の規模によって健康が左右されない社会へ

予防医療に長く携わっていると、病気になってから治療することと同じくらい、病気になる前に適切な健康管理を受けることの大切さを感じます。そして、その機会は、本来、勤務している企業の規模によって大きく異なるものであってはなりません。

今回、協会けんぽが人間ドック健診への補助を開始したことは、中小企業で働く多くの方々が、より充実した健診を受ける機会を広げる重要な取り組みと考えます。協会けんぽに加入されている方は、ぜひ今回の制度について確認し、上手に活用していただきたいと思います。

そして、年に一度の健診を「会社から言われたので受けるもの」ではなく、これからの自分の健康を守るための機会として活用していただければと思います。

中小企業で働く方々にも、充実した予防医療を届けること。それは、これからの日本の健康づくりを考えるうえで、ますます重要になっていくのではないでしょうか。

同友会からのご案内

参考文献

  1. 川波祥子、堀江正知ほか.大企業の健康診断と在職死亡者に関する多施設継続調査.科学研究費助成事業 基盤研究(C),研究課題番号25460829,2013~2015年度.
  2. Kanamori S, Tsuji T, Takamiya T, et al. Size of company of the longest-held job and mortality in older Japanese adults: A 6-year follow-up study from the Japan Gerontological Evaluation Study. J Occup Health. 2020;62. doi:10.1002/1348-9585.12115.
  3. Yamataki H, Suwazono Y, Okubo Y, et al. Health Status of Workers in Small and Medium-Sized Companies as Compared to Large Companies in Japan. J Occup Health. 2006;48(3):166-174.
  4. 全国健康保険協会.新しい健診のお知らせ―2026年度から新しい健診が始まります.2026年.

同友会メディカルニュース / 医療と健康(老友新聞)

同友会メディカルニュース

食事プラスワン

栄養士コラム

第36回
中性脂肪改善のためには・・・NEW
第35回
食物繊維
第34回
夏に気を付けたい食中毒
第33回
肝臓を守る習慣
第32回
乳製品とLDLコレステロール
第31回
中食や外食の活用【コンビニ・スーパー】
第30回
休肝日を作ろう
第29回
熱中症に要注意
第28回
間食を見直そう
第27回
食べ物の消化時間
第26回
食事のバランスを整えよう
第25回
体重を測ろう
第24回
免疫力を高める
第23回
朝食をとろう
第22回
1日の目標塩分摂取量
第21回
上手な鉄分の摂り方
第20回
カラダに良い油・悪い油
第19回
歯の定期健診も受けていますか?
第18回
食事バランス
第17回
運動でカロリーを減らすには
第16回
関節の痛みには・・・
第15回
骨を丈夫に!
第14回
ごはんを適量食べる!
第13回
野菜プラスキャンペーン開始!
第12回
「お豆腐」食べ過ぎ注意報!
第11回
表示をよく見て、飲もう!
第10回
おでんの選び方。
第9回
くだものも、適量を食べる!
第8回
牛乳はどのくらい飲んでいますか。
第7回
早食いも、食事バランスも改善!
第6回
夜遅い食事が気になる人へ
第5回
お酒が気になる人へ
第4回
菓子パンの食事を改善!
第3回
アブラ料理もおいしく食べる!
第2回
おつまみ選びの達人に!
第1回
めんの時もバランスよく!

小石川の健康散歩道

保健師コラム

第52回
暑い日の一杯、飲み方を工夫して健康に!NEW
第51回
疲れた時こそ注意!帯状疱疹から体を守るために
第50回
花粉症を乗り切るために
第49回
光と睡眠の関係 ~季節の変わり目こそ、光の整え方がカギ~
第48回
夏の疲れを秋に持ち越さない! ~いまから始めるリカバリー習慣~
第47回
「朝食の効果」~まずは1品から始めてみませんか~
第46回
ヘッドホン難聴(イヤホン難聴)を知っていますか?
第45回
なりたい自分の第一歩、考えてみませんか?
第44回
がん検診の受診はお済みでしょうか?
第43回
「座り過ぎ」に要注意!   ~毎日コツコツ、病気予防~
第42回
味噌汁は健康づくりの救世主?!~味噌汁の塩分量と栄養素どっちをとる?~
第41回
食べる・育てる・観る ガーデニングの良いところ
第40回
推しの力!
第39回
炭酸飲料?お茶?あなたは何を飲みますか?
第38回
気になる喉の乾燥の防ぎ方
第37回
香りやにおい、マスク着用の日々だからこそ、意識してみませんか。
第36回
こころを整える 〜リフレーミングをとりいれて〜
第35回
パンダと一緒に健康に!?
第34回
好きな香りはありますか?
第33回
快眠のための寝具について
第32回
マスクと肌トラブル
第31回
腸内環境を整えよう~腸活のススメ~
第30回
手洗い・消毒後は、保湿をセットで手荒れを予防
第29回
心を満たす食卓が鍵
第28回
『コロナ太り』を解消!要因を知って具体的な対策に
第27回
外出自粛期間を乗り切るコツ 運動編
第26回
飛行機内の湿度は砂漠よりも低い?!
第25回
「お料理」のススメ
第24回
階段利用で歩数UP・プチ筋トレ♪
第23回
釣って食べる!海釣りのオススメ~船酔い(乗り物)酔い対策編~
第22回
素敵な和菓子
第21回
『デンタルケアから始める健康管理』
第20回
『気にしていますか? 夜間熱中症』
第19回
本当の血圧はどれくらい? ‐意外と知らない血圧上昇の原因‐
第18回
五感を働かせ、楽しみながらの英語習得!認知症予防にも効果的!?
第17回
「素敵な靴は、素敵な場所に連れて行ってくれる」って本当?!
第16回
今、スポーツ観戦がアツイ!
第15回
釣って食べる!海釣りのオススメ ~運動編~
第14回
太鼓に感動!
第13回
運動前の糖質摂取―大事なのは種類とタイミング―
第12回
体質は遺伝する、習慣は伝染する。
第11回
新生活を迎える時ほど大切に!家族・身近な相手とのコミュニケーション
第10回
もっと気軽に健康相談♪
第9回
食材で季節を感じてみませんか?
第8回
夏の日差しを楽しむために
第7回
休日は緑を求めて…
第6回
お風呂好きは日本人だけ?
第5回
気分の高揚を求めて
第4回
みなさん、趣味はありますか?
第3回
休み明けの朝だってすっきりさわやか、そんな生活への...
第2回
忙しい日々こそ、1日をふりかえること。
第1回
少しの工夫で散歩が変わる!

お元気ですか

季刊誌 お元気ですか

2026年10月号
  • 私の健康法
    歌手 由紀さおりさん
  • 侮れない貧血~鉄欠乏性貧血を中心に~
    国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 血液内科 三ツ木 崇
  • 楽しく過ごす、会食対策
  • 腹囲引き締め筋力トレーニング その6
  • 健康を支える筋力づくり
  • 春日クリニックで受診する ハイグレードな検査のご案内

ページトップ